500年眠りについた元賢者がスローライフを送っていたら、公爵閣下に気に入られた件について

ペンギン

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500年後の世界でスローライフ

ポーション作り

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 水辺を探索した次の日。シルフィードはやはり早朝に目を覚まして朝食をとった後、魔導塔の外へ出て体力トレーニングと魔術訓練に励んでいた。しかし今日は午前中に他にやることがあるため、2時間ほどで切り上げて、地下倉庫へ向かう。
 そこには食料から何から様々なものが収められており、とてもではないがすべて把握しきれないため、ミューゼリアの誕生日祝いが入ったトランクについでに入っていた「倉庫の道具目録」を頼りに、目的のものを探していく。



「ええっと……22番、23番、24番、25番っと。ここですね。…ありました。ふむふむ。錬金術に必要な道具は一通りそろっているみたいですね。ああ、ここにポーション製作用の道具が並べられていますね。とりあえず、仕事場まで運んでしまいましょう」



 シルフィードは体に身体強化魔術をかけて作業効率をアップさせ、仕事場と地下倉庫を行き来しながらポーション製作用の道具と、昨日までに採取した素材を運び出す。



「よし。これで全部ですね。さて早速やっていきますか。まずは薬草を処理しないといけないので、カーテンを閉めてバケツに水をくんで、と」



 直射日光を避けるためにカーテンを閉めてバケツに水をためた後、昨日湖の近くで大量に採取した「モラクリ草」の葉を一枚一枚丁寧に水で洗っていく(今回使用するのはたくさんある中の一部である)。ここで雑に扱うと葉の繊維が壊れ、必要な成分と不必要な成分が混じって高品質なポーションにならないので要注意だ。

 次に洗った葉を並べた台に風属性初級魔術「ドライ」を設置し、葉を乾燥させていく。この時重要なのは部屋の温度と湿度に合わせて、「ドライ」を使う時間を調節することである。今の時期は秋になりかけでまだ大分暖かく湿度も高めであるため、通常よりやや短めに調節する必要がある。



「葉を乾燥させる間に、毒袋の処理もしてしまいましょうかね。きちんと手袋をはめて、と。
……うわあ、何度見ても毒々しい色をしてますね。こんなのを体にためこんで死なないなんて、生き物って不思議ですよね――」



 そう言いながら、魔導瓶に入れられていたニセヤドリギの毒袋を取り出し、毒袋にナイフで切れ込みを入れ、中身をガラスの入れ物へと移していく。同じように何個か毒袋の中身を入れ物へ移すと、移された紫色の液体はガラスの入れ物の半分ほどの量になった。
 さらにもう一つのガラスの入れ物に水を入れ、二つの入れ物にチューブ付きの蓋をする。2本のチューブは途中から1本に合わさり、その端は三つ目のガラスの入れ物へとつながっている。
 その後、毒と水が入った二つのガラスの入れ物を下からアルコールランプで熱し、逆に三つ目の何も入っていないガラスの入れ物は水につけて、よく冷やす。こうすることで気化した毒の成分と水が合わさって三つ目の入れ物へと入り、冷やされて液体となるのである。



「後は念のため喚起の魔術を壁に設置して、空気を入れ替えて…と。出来上がるまでは魔術書でも読んでおきましょうかね」



 そう言ってシルフィードは出来上がるまでの数十分を読書に費やすことにした。



 数十分後。そこには程よく乾燥したモラクリ草の葉と、ガラスの入れ物に入った毒の水があった。
 毒の水の方は後で使うので今はおいておき、これからモラクリ草の葉を潰していくのだが、この時の力加減が重要である。理想としてはそっと押さえるように力をかけていくと、ほとんど繊維を傷つけずに葉を潰すことができ、効果が高く苦みの少ないポーションになるのである。因みにこの方法は学院でポーション製作を教えていた教授がその授業の上位成績者にのみ教えていた方法で、一般的にはあまり知られていないのだと言っていた。
 シルフィードは教授から教わった技術を何度も練習して習得したため、かなり高品質のポーションをつくることができる。しかしそれなりに集中力を必要とする作業であるため、ひたすら無言で丁寧に葉を潰していく。



「……ふう。終わりました。作業として地味だし楽しくもありませんけど、こういったことの積み重ねが後で大きく影響してくるのですから、ちゃんとやっていきませんとね。たくさんやればやるほど、力が身についていくわけですし」



 額から落ちる汗を袖口でぬぐい、作業で固まった体をほぐすべく上半身を動かして軽く運動をする。



「ここからが、個人的に結構楽しいのですよね。まずは魔術で出した水を大きなガラスの入れ物に入れて、そこに潰した葉を入れる。次にポーション製作用の補助魔方陣が描かれたマットを机に敷いて、その上にさっきの入れ物を乗せる」



 ここからが魔術師の腕の見せ所。マットに魔力を流すと幾何学的な模様と様々な文字や数字で構成された魔方陣がガラスの入れ物の上に浮かび上がり、『錬成』が行われていく。錬成とは二つ以上の要素を組み合わせ、新たな性質を持つ何かへと変えるための錬金術である。錬金術の根幹をなすのがこの『錬成』であり、錬成ができない者を錬金術師と呼ぶことはほぼほぼない。
 当然マットに魔力を流すだけではちゃんとしたポーションをつくることはできず、浮かび上がった魔方陣に必要な条件を付けくわえたり、いらないものを消したりして、その環境や素材の状態に適した魔方陣に再構成する必要がある。

 シルフィードが魔方陣を再構成すると、入れ物の中の葉は完全に水に溶け込み、跡形もなくなった。葉の繊維を傷つけずに潰しているので、魔方陣の効果で必要な成分のみ溶けて、それ以外は除去されているはずである。葉が溶け込んだ薄緑色の液体はぐるぐると渦を巻きながらどんどん量が減っていき、やがて濃い緑色をしたとろみのある液体へと変化した。



「これを魔術の水で薄めて時間を置けば治癒用ポーションになりますし、毒の水で薄めてもう一度錬成すれば解毒ポーションになるんですよね。見た目ただの色水ですけれど、これで大けがでもすぐに治してしまえるのですから、やはりポーションづくりを学院で習ってよかったと思います。
…さ、あと少しでお昼になりますし、ささっと解毒ポーションを錬成してから昼食にしましょうか」



 あと一息!!と気合を入れて、錬成に取り掛かるシルフィードであった。
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