cross of connect

ユーガ

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絆の邂逅編

第十二話 陽炎の月

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「・・・ここまで」とトビが資料を読みながら顎に手を当てて呟いた。「こいつが・・・フルーヴが俺達が調べてる事の全てに深く密接しているな」
ええ、とルインも呟いて頷く。
「地震、元素の不安定化、製造機械・・・やはり、フルーヴを見つけない事には何とも言えませんね」
トビは資料を片手にひらひらと振り、で、とシノに尋ねた。
「フルーヴの事で他にわかってる事はねぇのか?」
「ありません」
抑揚のない声でそう呟いたシノにネロは頭を掻いた。
「参ったな・・・何か手がかりでもあれば良かったんだが・・・」
「けど、兄貴がその原因となってるんだろ?なら、それは一つの収穫で良いんじゃないか?」
ですね、とミナが頷いたのを横眼で見ながら、トビは資料をじっと見た。そして、シノ、と声をかけた。
「何でしょうか?」
「この資料、ちっと借りても良いか」
ええ、とシノが頷いたのを確認してトビは軽く礼をしてシノの小屋から出た。あ、と呟いてユーガもその後を追いかけて外に出ていった。ネロ達も溜め息を吐き、苦笑いをしてシノに礼を言って外に出ると、何やらユーガとトビが落ち着かない様子で草むらの側に座り込んでいた。何やってるんですか、とルインが尋ねるとトビがしっ、と人差し指を口に当てた。ユーガがとある方向を指差すと、そこにいたのはー。
「これよりこの街フォルトは我等、ミヨジネア王国兵団の配下と置く!逆らう者は容赦するな!」
「ローム・・・⁉︎」
ルインが驚きを隠さず、呟いた通りであった。そこにいたのは、紛れもなく四大幻将の一人、『鬼将のローム』であったのだ。
「しかし参ったな・・・これじゃ、『フィアクルーズ』を直せねぇな・・・」 
ネロが、くそ、と唇を噛みながら呟く。
「そうだな・・・」
ユーガは腕を組んで考え込み、何気なくもう一度ロームを見た。すると、その横には一人ー見覚えのない正教者、と言うべきだろうかーがニヤニヤと笑みを浮かべながら立っていた。
「聞け!我は神、マキラ様の純情な使者、ヤハルォーツである!」
「神マキラって・・・あの?」
ユーガは呟きながら首を傾げた。ああ、とトビが頷く。
「・・・はるか昔、二千万年前にこの世界に全ての源の『元素』を生み出した神の事だろう。・・・しかし、『マキラ様』っつー事は・・・」
「ええ・・・どうやら彼はマキラ教徒信者の様ですね」
ルインの言葉にユーガはマキラ教徒信者?と首を傾げた。それには、ネロが答える。
「マキラ教徒信者ってのは、その名の通り神、マキラを信仰する・・・まぁ宗教だな。マキラに毎日祈りを捧げて、いつかは救いが訪れる事を信じてるらしいぜ」
へぇ、とユーガはもう一度先程の男ー、ヤハルォーツを見た。けどさ、とユーガは頬を掻いた。
「何でそんなにマキラに頼るんだ?救いなんて、自分で行動して掴めば良いのにさ」
「世の中には」とトビが横眼でユーガを見た。「それすらできない奴がいるんだよ。自分の頭で考えて行動する事ができない。挙句、何をすれば自分が救われるのかわからない奴らもいる。心の拠り所を欲する奴らの集まり、と言っても過言ではないな」
そうですね、とルインも頷き、ヤハルォーツに視線を向けた。
「しかし、困りましたね・・・マキラ教徒信者の代表格とも言えるヤハルォーツがロームと一緒にいる、となると・・・ミヨジネア王国兵団とマキラ教徒信者は手を組んだ、と見て良いでしょう」
ユーガは一度ルインを見て、もう一度ヤハルォーツに視線を向けた。
「・・・我等はこの街、フォルトを我等マキラ教徒信者とミヨジネア王国兵団の第一拠点とする!」
げ、とネロが顔を引き攣らせてトビに眼を向けた。
「って事は、このままここにいたらまずいって事だよな・・・?」
ああ、とトビは頷いて舌打ちをした。
「だが、この街から出ようにも・・・既に入り口はミヨジネア兵に抑えられちまってる」
ユーガが出口を確認すると、確かにそこにはミヨジネアの兵士が二人立っていた。
「けど、どうするんだ?ずっと隠れてるわけにもいかないし・・・」
ユーガがそこまで言ったところで、あ、とミナが驚いたような声を上げた。何だ?と思い、ユーガ達はそっと顔を上げると、
「あなた達、何をしているんですか?」
そう言って、ヤハルォーツの言葉を遮った少女の名をトビが口にした。それはー。
「シノ・・・⁉︎」
であった。
「この街は無信仰の街です。いきなり来てそんな事言われても困るのですが」
「何だ?貴様は・・・」
ロームがぬぅ、と前に出て、シノの前に立った。しかし、それに全く気圧される事なくシノはさらに胸を張った。
「私はシノ・メルトです」
ほう、とヤハルォーツは顎髭を触りながらにや、と笑みを浮かべた。
「これはこれは・・・クィーリアの天才魔道士様ではありませんか」
いきなりヤハルォーツが右手を上げる。すると、ミヨジネア兵が素早くシノの周りを囲んだ。ロームが肩に巨大な鎌を乗せ、口元に笑みを浮かべた。
「クィーリアの天才魔道士様の力があれば、我等の計画も捗るだろう。共に来てもらうぞ」
じりじり、とミヨジネア兵がシノに近付く。ーと、眼にも止まらぬ速さでシノは後ろから伸ばされたミヨジネア兵の手を掴み、背負い投げで地に伏させた。おわ、とトビが声を上げる。
「すげぇ・・・」
ユーガも、無意識にそう呟いていた。しかし、ミヨジネア兵はすぐに起き上がり、今度は武器を構えてシノに近付く。ユーガが反射的に飛び出そうとしたが、トビにマフラーを掴まれて、ぐえ、と声を上げた。
「馬鹿、あの人数をやるのか?頭使えっつってんだろ」
「だけど、あのままだと・・・」
ユーガがそこまで言いかけて、あれ、と異変に気付いた。
「・・・あれ?ネロは?」
先程までそこにいたはずのネロが、姿を消していた。ーと、ミナが、あ、と驚きの声を上げた。何だ?とユーガもミナの視線の先を見るとー。
「ネロ⁉︎」
そこには、シノに振り下ろされた一人のミヨジネア兵の剣を受け止めているネロが立っていた。

やられるー、そう思った。その瞬間、ネロの脳内には一つの思考が宿った。
(このままで、良いのか?)
次第に前を歩くユーガは、いつの間にか遠くにいた。隣にいると思っていたのに、いつの間にか遠く離れたところへ行ってしまった。自分も、このままではダメだ。でないと、変わらない。そう思った瞬間、体は動いていた。閃光のように走り、シノに振り下ろされた剣を受け止める。
「・・・女の子相手にその人数かよ」
キザだったかな、と恥ずかしさが込み上げたが、そんな事を言っている場合ではない。ーと、横から二人の兵が斬りかかってきた。ヤバい、と呟いて体を捻り、一人の腹に蹴りを入れるがもう一人は間に合わない。唇を噛み締めて目を瞑ると、パン、と乾いた音と共に、どさり、と倒れる音が聞こえた。恐る恐る目を開くと、そこにはあの、蒼い眼の少年ー、トビが立っていた。
「・・・ユーガと同レベルの馬鹿だよ、お前は」
ちっ、と舌打ちをし、トビは即座に周囲を見回す。
「ネロ!大丈夫か!」
ユーガが隣に座り込み、回復のポーションと包帯をネロに差し出した。ああ、と頷き、何とか立ち上がる。
「まさか、ネロが突っ込むとは思わなかったよ。ネロってこういう時、結構冷静だし・・・」
ユーガが剣を振るいながら呟き、けど、とネロを見た。
「どうしたんだ?何か思う事でもあったのか?」
ーまさか、成長しない自分に嫌気がさして、なんて言えるわけもない。それは、あまりにも情けない。
「・・・まぁ、あのシノって子が多勢に無勢だったから・・・な」
適当にはぐらかし、ネロは剣を握り直した。人を刺す事は怖いが、自分自身も死にたくはない。時にはやらねばならぬ時もあるのだ。
「・・・そっか?」
「・・・覚悟!」
そんな声が聞こえて振り返ると、兵が剣を振り下ろしていた。それを横にかわし、バランスを崩した兵を横から刺す。がは、と口から血を流して兵は倒れた。
「・・・貴様ら・・・」
ロームが鎌を構え、ユーガに振り下ろす。ユーガは唇を噛みながらそれを受け止めるが、力が違いすぎる。このままでは押し潰されるー!
「しゃがめ、ユーガ!」
トビの声が聞こえ、ユーガは膝を折って剣を少し引いた。完全に気を抜いていたロームは体制を崩し、地面に手をつく。
「かかったな?大地のざわめきよ・・・」
「絶空となりし閃光たる風よ、切り裂け!」
そこに、トビとルインが魔法を唱えた。ユーガは後ろに飛び、被弾を避ける。
「ロックストーム!」
「フォンデヴィルリーフ!」
ロームが魔法に包み込まれ、土埃が立つ。ネロはそこに向かって剣を横なぎに振る。ざく、と肉が斬れる感触を感じながら、剣を振り切る。
「ぐ・・・!」
土埃が消え、ロームが胸を抑えている。その指の間から、血が流れている。く、とヤハルォーツがロームに指を差した、
「ローム!貴様、何をしているか!」
「ぬぅ・・・」
ユーガ達は息を吐き、ロームとヤハルォーツを見た。ふん、と鼻を鳴らし、ヤハルォーツがユーガ達に視線を向けた。
「・・・貴様ら、覚えておけ!許さんぞ!」
「勝手にしろ」
トビがそう言い放ち、ヤハルォーツは唇を噛んでロームと共にフォルトを去った。それと同時に、ネロが、どさりと地に腰を下ろした。
「・・・お前も馬鹿だったとはな。迂闊だった」
トビが呆れたように首を振り、ネロを見た。はは、とネロは笑みを浮かべる。
「・・・そう、かもな」
ネロはどこか自嘲するようにそう言い、シノを見た。彼女は服に血がついているが、おそらく彼女の物ではないだろう。ネロは立ち上がり、シノに手を差し出す。
「・・・大丈夫か?」
ネロが伸ばした手を、シノはぷい、と顔を逸らせて自分で立ち上がった。
「・・・余計なお世話です。あなたに守られなくとも大丈夫でした・・・」
それを聞いたネロはむっとしたが、何かを言う気にはならなかった。まぁ、とルインが笑みを浮かべてシノを見る。
「シノさん。実際あなたは助かってますし、ネロ様にお礼くらいは行っても良いのではありませんか?」
シノは一度だけルインを見てネロに視線を向け、しばし沈黙していたが、はぁ、と息を吐いてネロから顔を逸らせて、
「・・・わかりました。ありがとうございます」
と呟いた。その顔は微かに赤い気がしたが、気のせいだろう、とネロは頷いた。

「ロームと・・・何だっけ、あの人」
「ヤハルォーツな」
ユーガの言葉にトビが即座に答える。ローム達を退け、一息つけたユーガ達はシノの家に集まっていた。そうそう、とユーガは頷いて続けた。
「ヤハルォーツって人、何で手を組んでるんだろうな?」
確かに、とルインも椅子に座りながら頷く。
「ローム達、四大幻将は緋眼をー、ユーガの力を利用して何かをしようとしている、という話でしたね・・・四大幻将とマキラ教徒信者の方々とは目的が違うはずですが・・・」
「そうだな」とネロが家の壁に寄りかかりながら、ルインの言葉に頷く。「マキラ教徒信者の目的はマキラへの信仰だもんな。緋眼を使って何かをしようとしてる四大幻将と手を組むメリットでもあるのかもな・・・」
それか、とトビが銃の手入れをしながら呟いた。
「互いに利用し合ってるのかもな」
「互いに?」
ユーガが首を傾げると、ああ、とトビは頷いた。
「ま、その目的はわかんねぇが・・・何かしらのメリットがないと手は組まないだろうしな」
トビがそう言い終わると、シノが全員にお茶を差し出した。
「どうぞ」
「ありがとう、シノさん」
ユーガが礼を言うとシノは、いえ、とお盆を置いて彼女も椅子に座る。
「ユーガさんは・・・なぜトビさんと行動を共にしているんですか?」
唐突に、シノにそんな事を聞かれた。
「これまで、トビさんに近づく人は彼を利用する人ばかりでした。それなのに・・・」
「シノ、余計な事言うな」
トビに睨まれ、シノは黙った。ユーガは、うーん、と腕を組んで、
「・・・トビを信じてるから、かな。トビは俺を・・・俺達を助けてくれたし、トビは仲間だからな」
と答えた。トビは嫌がるかもしれないが、それは揺るぎない事実だ。
「・・・仲間・・・」
シノの呟きに、ユーガはああ、と頷く。シノはそれを見て、ネロ達にも尋ねる。
「あなた達も・・・ですか?」
「まぁ、な」とネロ。「実際ムカつく野郎だけど、事実助けられてんだしな」
「ええ」とルインも頷く。「トビは素直ではないだけで、私達の仲間です」
「です」とミナも笑う。「トビさんが本当に嫌なら、もうとっくにユーガさんから離れているでしょうし」
はっ、とトビが嘲笑うような笑みを浮かべた。
「・・・一応だが、仲間じゃねぇけどな。ログシオン陛下の命令でこいつらと一緒にいるだけだ。それに、ちっと気になる事もあるしな」
ユーガはそれを聞いて少し落ち込んだが、いや、と首を振って、窓の外を見た。赤い夕日がシノの家に差し込んでいる。間も無く、夜が訪れるようだ。
「そうですか・・・皆さん、よろしければ今夜は泊まっていってください。部屋はご用意します」
そう言ってくれたシノの言葉に、ユーガ達は甘える事にした。

(・・・・・・)
ベッドに入ったユーガは、頭の後ろで手を組んでただ天井を見上げていた。最近は野宿も多かった為か、ベッドで寝れる快適さを感じる事ができた。
(ん?)
物音がして、体を起こす。そっと窓の外を見ると、トビがシノの家から出ていくのが見えた。ユーガはベッドをこっそりと降り、他の仲間達を起こさないようにゆっくりと扉を開けて、閉めた。
(こっち、だったよな・・・)
ユーガはトビの歩いて行った方向へ歩くと、手摺に肘を預けて海を眺めるトビが、そこにはいた。
「・・・何の用だ」
こっちを見ていないのに、そう呟いたトビのすぐ横にユーガは立った。
「・・・いや、トビが出ていくのが見えたから・・・」
トビに横眼で見られ、ユーガは何故か落ち着かない気分になった。ふーん、とトビは呟いて眼を海に戻す。ユーガも手摺に手を置き、海を見た。海は月を映し、それはゆらゆらと陽炎のように揺れていた。
「・・・とある男の話だ」
不意に、隣のトビがそんな事を言った。え、と呟いてユーガはトビを見る。
「・・・昔、敵国に家を滅ぼされたガキがいたんだ。まだ五歳のガキだ。そいつは、家を滅ぼされてから街を彷徨いていた。・・・ホームレスってやつだな」
何の事かわからずユーガは何となく、うん、と頷く。
「・・・そいつは優秀な成績を持ってた。大人でも扱えない魔法を使い、世界の科学者でも解けねぇような問題まで解けたんだ。しかも、そいつは無限の元素を自分に引き寄せる固有能力を持っていたんだ。だが、それを利用しようと考える奴等が多かった」
ユーガは黙って聞いていたが、それが恐らくトビの事なのだろう、と思った。トビは腕に顎を乗せ、少しだけ眼を細めた。
「・・・時には戦争の為の道具を生み出す為に。時にはその無限の元素を自分の為に使う奴の為に、な」
じゃあ、とユーガはトビに尋ねる。
「さっきシノさんが言ってた、トビを利用する人が多かったってのは・・・」
「言った筈だ。とある男の話、ってな。俺の話だなんて言ってねーよ」
トビにそう言われ、ユーガは言葉をつぐんだ。トビは海に映る月を見て、さらに眼を細める。
「・・・そいつは今は面倒な奴等と一緒にいるそうだぜ。仲間仲間ってうるせぇ奴等とな」
ユーガはトビの横顔を見た。その顔はいつも通り、冷静な顔だったがどこか寂しそうに見えた。
(気のせい、かな)
ユーガはそう思ったが、口には出さなかった。ふん、と鼻を鳴らし、トビは手摺から体を起こした。
「・・・いいか、ユーガ。俺はお前の事を仲間だなんて思ってない。他の奴等もそうだ。だが・・・」
トビはユーガに顔を向ける。
「お前が信じてる『絆』とやら・・・見せてもらう」
「!」
ユーガは眼を見開き、トビを見た。トビはふん、と鼻を鳴らして、できないのか?と嫌味を込めて尋ねる。
「・・・わかった」
トビにそう言われたなら、やってやろう、とユーガは頷いた。見ててくれるのなら、見せるまでだ。絆の力を。トビはユーガの言葉を聞き、少しだけ顔を俯かせてユーガの横を抜けてシノの小屋へ戻って行った。
「トビ!」
ユーガが呼び止めると、ちら、とトビはユーガに眼を向けた。
「・・・俺、トビの事信じてるから!」
ユーガがそう叫ぶと、トビは何も言わずに今度は立ち止まる事なく小屋へ歩いた。
「・・・見ててくれ、トビ・・・」
ユーガはもう一度、もう消えかかっている月を見てそう呟いた。そして、自分の手を一度見る。決意を固めるように、ぐっ、と握り締め、小屋へと走った。
「ユーガ」
小屋まで走り、扉を開こうとすると、不意に名を呼ばれてユーガはびく、と体を震わせた。そこには壁に寄りかかって、ルインが立っていた。
「・・・な、なんだ・・・ルインか・・・」
はは、とユーガは顔を引き攣らせた。かなり驚いたので、そんな顔になってしまった。
「・・・トビはあれでも寂しがり屋なのかもしれませんよ」
ルインが少し意地の悪い笑みを浮かべ、ユーガを見る。そうかな、とユーガが首を捻ると、ええ、とルインは頷いた。
「あのタイプは、意外とそういうものですよ」
ふふ、と笑ってルインは扉を開けて、先に中へ入って行った。
「・・・ルイン、結局何を言いたかったんだ・・・?」
ユーガは頭をぽりぽりと掻き、もう寝られないだろうな、と思いつつもベッドへと向かった。

「昨日」と、シノが朝食のパンを食べながら言った。「あなた方の船の修理を整備士さん達に頼んでおきました。しかし、かなり損傷が大きかったのとしばらく使っていなかった事による動きの不具合でかなり時間がかかるようです」
全員の視線が、何の合図も無しにネロに向いた。ネロは肩を縮めて小さくなる。それ、とユーガがシノに尋ねる。
「どれくらいかかるんですか?」
「そうですね・・・約一週間、といったところでしょうか」
一週間。時間を無駄にしたくないが、仕方がない。せっかく整備士が直してくれるのだから、我儘を言う訳にはいかないだろう、とルインは頷く。
「ま」とトビ。「仕方ねぇか・・・実際船が動かねぇとソルディオスに向かえねぇし」
へぇ、とネロが何やら驚いたような表情を浮かべる。
「トビ、お前がそんな事言うなんてな・・・お前の事だから『さっさと直させろ』とか言うのかと・・・」
「ウォーターショック!」
トビの魔法がネロの顔面に直撃し、ネロは椅子ごと倒れる。
「だぁーーーーーーー!」
しかし、ユーガもそれは少し思った。少しだが、トビの態度は柔らかくなっているような気がする。心を開いてくれた、とは思わないが、こういうところでもっと親交を深めたい、と実際ユーガは思っていた。
「ともかく」とミナが苦笑いをしながら言う。「一週間、待ちましょうか」
だな、とユーガは頷いた。今自分達にできるのは、待つ事だけだ。ーと。
「やめてぇっ!」
外からそんな声が聞こえて、ユーガ達は顔を見合わせてートビを除くがー小屋から外へ出た。すると、そこにはまだ十歳程の少女が泣いて座り込んでいた。
「どうしたんだ⁉︎」
ユーガが少女に声をかけると、彼女は涙で眼を晴らしながら答える。
「お母さんが・・・魔物に攫われて・・・」
「なんだって⁉︎」
ネロが叫ぶ。ユーガが少女の肩を、なぁ、と揺さぶった。
「その魔物はどっちの方向へ行ったんだ?」
あっち、と少女が指を差した方向を、ユーガは見た。
「あっちは、確かヨーゲ岬の方向ですね・・・」
シノがそう言ったのを聞いて、トビも頷く。
「ヨーゲ岬か・・・っつー事は・・・」
そこまで言って、トビは少女に聞いた。
「おい。お前の親を連れ去ったのはもしかして鳥みてぇな魔物か?」
「そ、そうだよ・・・」
少女は泣きながら頷いた。まじか、とトビが腕を組んだ。
「トビ?どうしたんだ?」
ユーガがトビに尋ねると、シノが代わりに答えてくれた。
「その魔物はヨーゲグリフィン・・・、この辺りの魔物のリーダー格となる魔物なんです」
「じゃあ」とネロが腕を組んだ。「急いだ方が良いよな。トビ、そのヨーゲ岬ってとこ、案内してくれ」
「・・・俺に命令すんな。・・・わかったよ、案内すりゃ良いんだろ」
頼むよ、とユーガは頷いて、少女の肩に手を置いた。
「・・・必ず俺達がお母さんを助けるから、待っててくれ」
うん、と少女は頷く。ユーガは頷いて、行こう、と言って走り出そうとして、ルインがその場に立ち尽くしているのを見た。
「・・・ルイン?」
ユーガがルインの名を呼ぶと、彼はハッとした表情になってユーガの顔を見た。
「え・・・あ、ああ・・・すみません。少しぼーっとしてました」
「・・・大丈夫か?なんなら、ここで休んでも・・・」
ユーガの言葉に、いえ、とルインは首を振った。
「大丈夫です。ーさあ、行きましょう」
うん、とユーガは頷き、フォルトの街を飛び出した。

ーどうか、無事でいますように。そう、祈りながらー
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