cross of connect

ユーガ

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絆の邂逅編

第十八話 『人工精霊』

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「まさか、本当に忍び込めるなんてな・・・」
夜。教会の裏口ーミナが知っていたーを通り、教会の中を見渡したネロはそう呟いた。
「それにしても、なぜここをミナさんはご存知なのですか・・・?」
シノが不思議そうにそう尋ねた。
「・・・実は、ヘルトゥス陛下が以前こっそり言っていたのを聞いていたんです」
そういって舌を出したミナを見て、トビは溜め息を吐いた。
「早く行くぞ。見つかったら厄介だしな」
「ええ。なるべく迅速に、しかし大きな音を立てないように」
ルインはそう言って顔を引き締めた。そうだな、とユーガは頷いて、暗闇に眼を慣らしながら慎重に足を踏み出す。できるだけ、音を立てないように。それでも、見つかったら?そうなったら、倒すしかない。気絶させるくらいにとどめたいが、それができないような相手だったら?そうなったらー。
「・・・教徒信者を調べるっつっても、こんな一般人が入れるようなところには情報はねぇよな?」
ネロがそう呟くと、ええ、とシノが頷いた。
「・・・恐らく、信者達の本部にあるのでは・・・?」
「本部とは・・・住み込みで礼拝している信者達の寮のようなものでしたよね・・・大丈夫なのですか?」
「わかんねーけど、そこに行かないとどちらにせよ手がかりはないしな・・・その本部ってとこに行こうぜ」
そう言って足を踏み出しかけ、ユーガはその足を止めた。
「・・・その本部って、どこにあるんだ?」
ユーガはミナを見て尋ねた。ミナは自信満々そうに胸を逸らし、腰に手を当ててー。
「・・・そこまでは知りません!」
自信満々に答えたミナに、ユーガ以外の全員は冷めた視線を向けた。仕方ないよ、とユーガは言って、しらみ潰しに探し始めた。トビは少し呆れたように息を吐いて、頭をがしがしと掻いた。

「・・・ここが本部か・・・」
しばらく彷徨い、ユーガ達はようやく本部へと侵入する事ができた。柱の影に隠れながらユーガがそう呟き、ミナがその下で頷く。今のところ、見張りやそういった類の敵とは遭遇していない。ラッキー、と息巻いていたその時、ガタン、と明らかに自分達からの音ではない物音が聞こえ、ユーガ達は身を縮ませた。
「・・・おい、聞いたか?」
「何がだ?」
そんな信者達の声が本部内に響き、ユーガ達は反射的にそれぞれの武器に手をかけた。見つかったら、仲間を呼ばれる前にー。そんな事を考えていると、再び信者の声が響いた。
「キアル様の事。どっかの街を氷漬けにしたんだってな?」
自然、ユーガ達の顔は引き締まった。さらに信者達は会話を続けていく。
「・・・ああ、そうみたいだな。しかし、あんな力を手にした人間なんて、もう人間じゃねぇよ」
「・・・あんな力・・・?」
「静かにしろ」
ユーガの呟きをトビが鋭く制し、ユーガは口をつぐんだ。しばらくすると扉が開くような音が響いて、気配は消えた。ユーガ達はこっそりと辺りを見渡すが、誰もいない。ほっ、と息を吐いてユーガ達は安堵した。
「・・・人間じゃない力、か・・・」
ネロの呟きにユーガも頷く。
「・・・何の事なんだろう?特殊な固有能力(スキル)の事かな・・・?」
「まあ」とルイン。「あの力はどう考えても異常です。あれほどの元素(フィーア)・・・何かがおかしい」
「ルインさんは、『氷そのものが敵意を持った』と仰っていましたよね・・・」
ミナの呟きにルインは頷いた。しかし、氷そのものが敵意を持つ、とはどういう事なのだろうかー?
「うだうだ考えててもわかんねーもんはわかんねーだろ」
トビはそう言って、ふん、と鼻を鳴らした。
「さっさと信者の事を調べるんだろ。行くぞ」
言って、ユーガ達が頷いて歩き出したのを見て、
「・・・おい、ルイン」
とトビは彼を呼んだ。
「どうされました?」
「・・・お前なら気付いてると思うが・・・俺の『眼』はまだちゃんと目覚めてないよな」
トビの言葉に、ルインは小さく頷いた。
「・・・ええ、目覚めてはいますが中途半端、というところでしょうか」
中途半端ー、トビはその言葉を聞いて息を吐いた。
「あなたの固有能力の影響で、少しは聴力が良くなっているようですが・・・ユーガのような明確な視力の良さがあなたに備わってはいませんし、やはりまだ中途半端なのでしょう」
「・・・そうか」
「しかし、いきなりどうしたのですか?」
「・・・何でもねぇよ。さっさと行くぞ」
トビはルインにそう言って前を歩くユーガの後を追った。
「・・・あなたの『蒼眼』も・・・あなたの本心に正直になれば・・・きっと・・・」
ルインは呟いて、ふふ、と穏やかな笑みを浮かべて、仲間に囲まれて呆れ顔をしているトビを見つめて彼らを追いかけた。

「さて・・・」
ユーガの前で座り込んで気配を隠していたミナが立ち上がり、ユーガ達を振り向いた。
「ここからどうやら信者の数は増えるようですし、今まで以上に用心しながら進みましょう」
先程の信者達をユーガ達は追いかけ、信者達の消えた扉を開けてみるとそこには彼らの部屋が数多くあったのだ。
「・・・見つからないと良いけどな」
「ついでに四大幻将の一人でも欠けさせてぇところだな」
トビは腕を組んで小声で呟いた。
「そう上手くいきますか?」とシノ。「仮にも四大幻将。易々と私達相手に倒れてくれるとは思えませんが・・・」
「わからないけど、信者達の事は調べないとなんだ」
ユーガはそう言って、手を胸の前で握った。
「とにかく、奥に進もう。信者の事だけじゃなく、キアルの事も何かわかるかもしれないしさ」
「・・・そうだな」
トビは頷いてー、ハッとして暗闇の通路に眼を向けた。
「・・・誰かいる」
ユーガも気付いて、じっと目を凝らした。それぞれ構えを取り、その方向に気を集中させる。ブーツの音が響き、ユーガはぞくり、と鳥肌を抑えきれなかった。何だ?この感覚ー。
「・・・やはり、お会いできましたね」
その若い声は、ユーガの記憶に引っかかった。どこかで、聞いた事がー。
「・・・お初にお眼におかかりします。私の名はフィム・・・レイト・フィムと申します」
その名を聞いたトビの眉が、ぴく、と揺れた。
「レイト・・・⁉︎レイトなのか⁉︎」
しかし、ユーガはそれに気付かず右手に持った剣を震わせて彼ーレイトの近くへ近寄った。ーが。
「ユーガ!」
「うわっ⁉︎」
ネロに倒れかかるように横から体当たりをされ、ユーガはネロと共に倒れた。何すんだよ、とユーガがネロに叫ぶ。一瞬前までユーガが立っていたそこへー。禍々しい闇の槍のようなものが突き刺さった。
「馬鹿野郎!何やってやがる!こいつは・・・四大幻将、『煉獄のフィム』だぞ!」
「は・・・?」
ユーガはネロが何を言っているのか、理解が及ばなかった。四大幻将?あの、レイトが・・・?
「・・・ユーガ様、お久しぶりですね・・・。その方の言う通り、私は四大幻将として今は勤めています」
「・・・レイト・・・!本当に・・・!」
「・・・ユーガ様。古き時からの仲として・・・あなたもこちら側・・・、信者及び四大幻将側へ来ませんか」
レイトー、フィムはユーガに向かって手を差し伸べた。
「待ちなさい」とルイン。「あなたは・・・一体何者です?どうして、ユーガにそんな話を?」
「貴様らに用はない」
フィムはそう言い放つと、腕を振るった。その瞬間、ユーガ以外の全員が吹き飛び、背中や体を壁に打ち付けた。
「皆っ⁉︎フィム、お前・・・!」
「ユーガ様。昔をお忘れですか?あなたはサンエット家の跡取りだった。私はそれに仕える使用人・・・。もう一度、あの頃へ戻りたくはないのですか?貴族という、立場へ」
フィムは、にや、と笑いユーガを見た。そして徐に倒れているトビの方へ歩き、髪を掴んでトビの顔を持ち上げた。
「・・・これはこれは・・・ナイラルツ家の末裔ではありませんか」
その声は、地獄の淵から聞こえてくるようでユーガは震えた。
「・・・てめぇ・・・俺の、家族、を・・・!」
「覚えていましたか。これは光栄ですね」
「光栄、だと・・・!」
トビの眼が、怒りを露わにする。ネロはそれを見て、ハッとした。そうだ。忘れていた。トビの家を、滅ぼしたのはー!
「あなたの家が滅んだのは、私の研究が失敗したから・・・そう思っておいででしょうか?」
「・・・何が言いたい・・・!」
「偶然?そんなわけないでしょう?私は必然的に、あの爆発を起こしたのですよ。あなた方の存在を消し去るためにね」
「何だと・・・⁉︎」
トビは銃を引き抜こうとしたが、それは叶わなかった。髪を離し、フィムが腕を足で踏みつけたのだ。
「ちょっと、待てよ・・・じゃあ、まさかトビの家が滅んだのはレイトの研究のミスじゃなくて、起こるべき事故だったってのか・・・⁉︎」
ネロが苦痛に顔を顰めながら、言った。フィムはそれに答えず、ユーガを見る。
「さぁ、ユーガ様・・・こちらへ。共にこの雑魚どもを殺すのです。私達の、仲間となるために」
ユーガは俯き、答えない。
「おい、ユーガ・・・!」
ネロが顔を上げると、ユーガは拳を握って震えていた。そして、きっと顔を上げる。
「・・・っ!ふざけんなっ!」
フィムが驚いた顔をして、ユーガを見つめた。
「おや・・・なぜ怒るのです?」
「そいつは、俺の仲間だ!仲間を傷付けるなら、いくらお前でも・・・許さねぇっ!」
ユーガは剣を引き抜いた。仲間。何度も聞いてきた単語だが、相変わらず慣れない、とトビは思った。そもそも、ユーガの事も仲間とも思ってはいないが。だがー。
「・・・仲間?このような雑魚どもが?あなたも落ちぶれましたね・・・良いでしょう。ならば、あなたの言う仲間の強さを私に証明してください」
「レイト・・・いや、フィム!」
「ユーガさん!トビさん!ルインさん!来ます!」
ミナの声が聞こえ、シノの回復を受けてトビとルインは立ち上がって武器をそれぞれ構えた。
「はぁぁぁっ!烈牙斬っ!」
「大地のざわめきよ・・・!ロックストーム!」
「踊れ、駆け抜ける疾風よ!ウィンドダンス!」
「やぁぁっ!千靭翔刃!」
ユーガの、トビの、ルインの、ミナのそれぞれの術技をフィムはことごとく避け、さらに一人一人に掌底の波動を打ち込んでいった。
「ぐ・・・⁉︎」
「どうですか?ユーガ様・・・この十二年間、遊んでばかりだったあなたとはレベルが違うのですよ」
「・・・!ユーガは、遊んでなどいません・・・!」
ルインが叫び、フィムに魔法を放とうと腕を出したが、フィムはその腕に全く臆することなく人差し指を突きつけた。
「言ったはずですよ?あなた達は雑魚区分です。いわばあなた方は脇役です」
フィムはそう言うと両手を広げて開き、ぐっ、と手を握った。すると、フィムを中心に風が渦巻き、ユーガ達は顔を腕で覆った。
「何だ・・・⁉︎」
「くっ・・・この風は・・・?」
「く・・・!」
ユーガとトビが呟き、ミナもコートがめくれないように抑えた。しかし、ルインは。ルインだけはただ、呆然と風を受け続けている。
「ルイン⁉︎どうしたんだ⁉︎」
風の中でもよく聞こえるようにユーガは叫んだ。ルインはそれに答えず、一歩、また一歩とその風の中心へ近付いた。
「まさか・・・シルフ・・・⁉︎」
ルインのあほ毛が、彼の動揺を表すかのようにぱたぱたと揺れた。

「・・・シルフ・・・って・・・」
ユーガは風を遮っていた腕を少し下ろし、変わらず吹き荒れる風の中で呟いた。
「風の精霊・・・だったか・・・。まさか、この風がシルフの力とでも言うのか・・・?」
トビもユーガ同様に呟き、ルインを見た。ユーガ達は吹き荒れる風の中で立っているだけで精一杯であるのに、ルインは平然と立ち尽くしている。
「ふふ・・・はははは!流石、ケインシルヴァの天才魔導士と言ったところでしょうかね?」
フィムは両手を広げ、さらに悪魔のような笑みを浮かべた。
「・・・シルフ?いいえ、そんな精霊などという存在を探していてはキリがありませんからね・・・」
「・・・まさか・・・‼︎」
フィムの言葉を聞いたシノがハッとして立ち上がり、フィムの方へと駆け寄った。
「あなた方なのですか・・・⁉︎あの、『人工精霊』の研究を始めたのは・・・‼︎」
人工精霊。聞いた事がないがー。シノの顔を見る限り、かなり大事なのだろう、とユーガは思って口をつぐんだ。ぴたり、と吹き荒れていた風が止み、フィムは、ほう、と感心したような声をあげる。
「・・・ご存知でしたか・・・『人工精霊』の事を」
「その研究を・・・今すぐやめなさい・・・!」
シノは顔を蒼白にさせて叫んだ。普段表情を露わにしないシノがここまで焦りを見せるとはー、とユーガは思った。
「止めるわけにはいきませんよ。ようやく・・・ようやく私の研究が、全世界に認められるのですから・・・!その研究が達成され、全世界から認められれば・・・私は真の天才になる!」
彼の表情は悪魔のように歪み、それはユーガのよく知るフィムとは程遠いほど、彼の顔は歪んでいた。
「真の天才ねぇ」トビが自身に回復術をかけながら嫌味のように言った。「その『人工精霊』とやらが全世界に広まったところで、このシノの反応を見る限りかなりやべぇんだろ。そんな奴が天才ね・・・馬鹿馬鹿しいな」
「黙りなさい」
そう言うと、フィムはトビに向けて風の波動を打ち出した。ーが、ユーガはその瞬間『緋眼』を解放して、それを剣で弾き返した。その直後、風の波動の元素は散り散りになって大気へと返っていった。
「・・・何っ・・・?」
フィムの顔が怒りに歪み、さらに風の波動を連続で打ち出した。そのことごとくをユーガは元素へと返し、さらにその元素を剣を纏ってユーガはフィムに向かって剣を振った。
「吹け、烈刃の風よ・・・!」ユーガは唱えて、風の元素を纏った剣を思い切り斬り上げた。「飛燕、空破翔‼︎」
ユーガの剣はフィムの体を掬い上げて浮かせ、さらにそこへユーガは蹴りを入れ、もう一度フィムの体に剣を振り下ろし、その剣から真空刃が舞い飛んだ。
「・・・おい、ユーガ!」
そうトビの声が聞こえ、トビを振り向くと彼は魔法の詠唱にかかっていた。
「・・・行け、焔の槍よ・・・フレアランス!」
宙に浮き、落ちてくるフィムの足元からフィムの体を焔の槍が貫いた。くっ、とフィムが苦悶の表情を浮かべる。
「おい、まだ・・・行けんだろ?」
トビは眼を閉じて尋ねた。
「・・・もちろんだ!」
ユーガは、にっと笑って消えかかる炎の元素を剣に纏った。トビは、ふぅ、と息を吐き、閉じていた眼を開いた。
「駆けろ、緋炎の焔!」
ユーガは緋眼の力を感じつつ、トビが連携を合わせてくれた事に胸が熱くなるのを感じて叫んだ。
「焔牙っ、烈翔駆!」
ユーガの周りを焔が囲い、落下してきたフィムの体に炎の連撃、さらに炎は鋭くフィムの体を突き刺し、フィムは血を吐いて膝をついた。
「・・・これが俺の・・・俺達の絆の力だ」
ユーガは剣を振って血を払い、緋眼を鎮めた。ーその直後、ミナがユーガの体を支えてくれたおかげで、ユーガは倒れずに済んだ。
「・・・さぁ、フィム・・・『人工精霊』の事を吐きなさい!」
ルインがフィムに詰め寄り、あほ毛を揺らしながら叫んだ。しかし、フィムはそれでも笑みを消す事はなく、ふっ、と笑った。
「何がおかしい・・・?」
ネロは剣を握り直して尋ねる。ーと、その直後。フィムの体を風が包み込み、ユーガ達は風圧で吹き飛ばされた。
「・・・ふふふ・・・素晴らしい・・・!」
風が収まり、ユーガ達は頭を振ってフィムの方を見て、驚愕した。フィムの傷は完全に癒え、風が翼のように広がっていた。
「・・・何だと・・・⁉︎」
「とは言ったものの・・・流石にこれ以上ここで戦っては少々武が悪いのは事実ですね」
フィムは残念そうな表情を浮かべて、風の翼を羽ばたかせて宙を舞った。
「ここは一旦引かせていただきますよ。ユーガ様・・・次こそ、あなたの緋眼をいただきます」
「っ・・・待て、フィム・・・!」
ユーガの叫びは風によって遮られ、顔を上げた時にはフィムの姿は既に消えていた。
「くっ・・・!」
シノが悔しげに唇を噛んだ、その時。
「何の騒ぎだ!」
「侵入者か・・・!」
という声が聞こえ、ユーガは支えてくれていたミナに礼を言って自分で立って、くそ、と呟いた。
「・・・これって、見つかったらやべーよな?」
「当たり前だろう。仕方ねえ、信者の事は後回しにして今は脱出するぞ」
トビの言葉に全員が頷き、できるだけ信者に出会わないように注意して本部から脱出した。

「とりあえずここまで逃げてきたけど、追手は来ないみたいだな」
教会の外へ出て、太陽の眩しさに眼を細めたネロの言葉にルインが頷いた。
「顔は見られませんでしたからね。恐らく大丈夫だとは思いますが・・・しかし・・・」
「・・・フィム・・・」
ユーガはフィムの顔を思い返し、ぞわ、と鳥肌が立った。
「・・・シノ。『人工精霊』って何なんだ」
トビは腕を組んで、シノに尋ねた。ユーガは一旦フィムの事を考える事を止めて、シノの言葉に耳を傾けた。
「・・・『人工精霊』・・・精霊と同じように無限の元素を持てて、その力を使えれば膨大な元素力を使う事ができます」
膨大な元素力ー。それが、フィムの力の正体なのだろうかー?
「しかし、所詮人に作られた存在・・・。結果、元素の均衡バランスを崩す可能性が大いにあります。だからこそ、世界中の研究者が研究を止めました」
「・・・けれど、フィムは・・・それを利用し始めた、と言う事ですか・・・」
ミナは胸の前で手を組んだ。ええ、とシノは頷く。
「・・・けどさ」と、ユーガは呟いた。「あの風の羽みたいなの、カッコよかったよな!なぁなぁ、あれって俺も『人工精霊』・・・あ、いや。それは危ないんだった。精霊と友達になれば羽とか出せるようになるのかな!」
「・・・あ?」
トビは腕を下ろして呆れたようにユーガを見た。
「お前・・・あの状態でそんな事考えてたのかよ・・・?」
「いや、今思い出したんだよ。あの時は皆を守ろうと必死だったしさ。けど、思い出したらめっちゃあれカッコよかったなって思ってさ・・・!」
「・・・やれやれ、緊張感がありませんね・・・」
「ホントだよ・・・」
ルインとネロも呆れたように首を振った。何だよ、とユーガは頬を膨らませた。
「・・・なぁ、ちょっと良いか?」
ネロが腰に手を当ててそう言った。全員の視線がネロに向く。
「・・・もしかして、元素の流れが不安定だってのも・・・あいつらのせいなんじゃないか?」
「・・・けど、それは精霊を呼び出して、ミナを・・・」
そこまでルインは言って、ハッとした。
「・・・そうか・・・そういう事なのか・・・!」
「ルイン?」
ユーガが首を傾げると、ルインはユーガに向き直って口を開いた。
「まだ仮定ですが・・・マキラを呼び出す方法、ユーガは覚えていますか?」
「え?えっと・・・誰かの生贄、と・・・?」
「・・・そうか、この世界の精霊を全て呼び出す事か・・・」
ユーガの言葉をトビが受け継ぎ彼も、なるほど、と頷いた。
「ええ。トビ、あなたの考えの通りですよ」
「な、何だよ?どういう事だ?」
ユーガが尋ねると、トビが呆れた。ここまで言ってもわからないか、と腕を組む。
「要は・・・その呼び出す精霊を『人工精霊』で彼等は補うつもりなんですよ」
「・・・待ってください。そうすると、元素のバランスがどんどん崩れて・・・」
ミナが焦ったようにそう話す。そこまで聞いて、ユーガはハッとした。
「・・・世界は、滅ぶ・・・?」
そういう事ですよ、とルインは頷いた。
「しかも、世界は滅びつつマキラも呼び出す事ができる・・・。彼等からすれば、一石二鳥なんですよ」
と、シノが説明してくれた。なるほど、それなら確かに手っ取り早い。
「じゃあ、早くあいつらを止めないと・・・!」
「馬鹿、落ち着け。あいつらの居所もわからねぇのにどうやって探すんだよ」
「けど、早く止めないとヤバいんだろ⁉︎」
ユーガ、とネロがユーガを呼び、肩に手を置いた。
「とにかく落ち着け。確かに早く止めないとヤバいけど、焦っても何も始まらないのも事実だろ?」
「あ、ああ・・・そうだな・・・」
ユーガは頷いて、頭を掻いた。
「それなら・・・次はどうする?これ以上信者の事を調べるのも得策ではないと思うけど」
ネロはユーガの肩から手を離し、誰にとも言わず尋ねた。
「ルインの固有能力でスウォーやら四大幻将やらを探してもらうってのも、現実的ではないしな・・・」
ユーガの言葉にそれはそうだ、とトビは呆れた。そんな事をすれば、ルインの身体的疲労はとんでもない事になってしまうだろう。それに、ユーガの言う通り非現実的すぎる、とトビは腕を組んだ。
「でしたら」とミナが手を上げた。「制下の門に行きましょう」
制下の門。制上の門から出て使用された元素が収束する場所だ、と聞いた事がある。
「元素が不安定なら、何らかの警告が出るはずです。ならば、既に使用された元素を調べれば・・・」
「何の『人工精霊』が作られてるのか調べられるって事だな」
トビの言葉に、ええ、とミナは頷いた。確定しているのは、フィムとー。
「レードニアを氷に包み込んだキアルも、『人工精霊』を従えているのでしょうね」
ルインの言葉の通り、恐らくそうなのだろう、とユーガは思った。あれほどの力は、明らかにおかしい。
「・・・わかった。制下の門に行こう」

夜の『フィアクルーズ』の甲板で、シノは星空を見上げていた。久しぶりに、こんなにゆっくり星空を見上げたような気がする。
「・・・シノさん?」
そんな声がして振り返ると、ミナが風に揺れる髪を押さえてそこに立っていた。
「・・・何か、用でしょうか」
「・・・いえ、姿が見えなかったのでどうしたのかと・・・。たまには、女性同士お話ししましょう」
確かに、同性同士話すのは本当に久しぶりだ、とシノは思う。ミナは傍に置いてあった椅子を二つ持ってきて、シノに一つを差し出した。
「・・・本当に、多忙ですね」
「そうですね・・・。けれど、ユーガさん達と一緒にいるから大丈夫、という気もします」
ミナはそう言って、ふふ、と笑った。シノは微かに笑みを浮かべてミナを見た。
「・・・ミナさん。あなたは・・・ユーガさんの事、好きなんですね」
「‼︎」
ぼっ、と顔が赤くなる。
「な、なん、何で・・・」
「その反応からしてですよ。わかりやすいです」
シノは笑みを浮かべたままそう言う。
「え、えっと・・・その・・・」
「良いのではありませんか?ユーガさんは事実優しい方ですし、他人に気を配る事もできますから」
「・・・し、シノさんには・・・好きな方はいないのですか?」
「・・・私は・・・まぁ、色々とありますから」
ふっ、と翳ったシノの横顔に、ミナは口を開きかけた。ーが、何を言えばいいのかわからず、結果何も口から言葉は出てこなかった。
長い夜は、まだまだ続く。その夜は、太陽が昇らない限り明ける事はないのだったー。
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