cross of connect

ユーガ

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絆の邂逅編

第三十一話 その『思い』は

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ああ、とシノは息を吐いた。こんな風に明確な拒絶も何度目だろうか。幾度となく拒絶されてきたこの命も、いざ奪われるとなれば一抹の寂しさもある。だが、これで解放されるーこの苦しみから逃れられると思えば、怖くない。しかし、後悔はーある。ユーガ達を巻き込み、命の危機に晒した事。そして、『こんな自分と出会ってしまった事』。ユーガ達が自分と出会わなければ、こんな目に遭う事もなかったはずだ。最後まで、迷惑をかける事になってしまうとは。シノは自嘲して目の前に収縮されていくソニアの魔法を見つめ、ゆっくりと眼を閉じた。仲間がーユーガが、自分を呼ぶ声が聞こえるが、もう良いのかもしれない。生きていて意味などないのだから、消えた方がー。
「・・・何?」
ソニアの声と共に目の前の収縮された元素(フィーア)が、不意に弱まるのをシノは感じ、それとは反対に蒼色の輝きが周囲に満ちていくのを感じて、シノが眼を開けるとソニアはもはや顔をシノには向けておらず、その眼は驚きに見開かれていた。シノもその方向に視線を向けるとー。
「・・・気に食わねえな」
その声は、これまで冷たさを感じさせながらも優しさを含んだ声。ーだが、今は違う。その声に含まれている感情は、怒りだ。紛れもなく、普段とは違う感情が含まれているのだ。
「・・・人の命をてめぇが決めるのが気に食わねぇ。それが自分の娘だろうと、どんな関係だろうとな・・・そうやって生き方を決めるのが大嫌いなんでね」
その声の主ートビは、そのこれまでとは違う輝きを放つ眼をソニアに向けて、低い声で告げた。トビの言葉が終わるのと同時に周囲に緋色の輝きも満ちて、その方向をシノとソニアが見るとユーガもまた、緋色の輝きを放つ眼でソニアを睨んだ。
「・・・それ以上、仲間は傷付けさせない。俺達が守ってみせるっ!」
ユーガは震える足でトビと並び、剣をソニアに向けた。他の仲間達も、トビの回復魔法でー万全とは言わないだろうがー立ち上がり、それぞれ武器を構えてソニアを見据えた。
「・・・いいわよ。なら、最初にあんた達から消してあげるわ。あんた達のそんなくだらない繋がりなんて、私が打ち砕いて・・・」
「くだらなくなんか・・・ない!閻魔、滅穿撃‼︎」
ユーガの奥義がソニアの言葉を遮り、ソニアは魔法の障壁でユーガの技を防ぐが、『緋眼』を解放したユーガのその威力にソニアは吹き飛ばされ、地面に仰向けで倒れ込んだ。く、と顔を歪めてソニアはユーガを睨み、ハッとして倒れ込んだ地面を見て、再び顔を歪めて『それ』の外に出ようとするが、もう遅い。そこには、トビが事前に詠唱していた魔法陣が展開されていたのだ。
(・・・わざわざ奥義で吹き飛ばしたのは、そのため・・・⁉︎)
ソニアはそう理解してユーガを睨んだが、魔法陣の輝きを感じて咄嗟に防御の構えを取るがー。
「・・・安心しな。怪我したらよ・・・俺が治してやるからな。今は存分に苦しめ」
「シノの受けた痛みを・・・味わえ!」
トビとユーガのその言葉に、ソニアは思わず背筋が凍るのを感じてー。
「狭間より出でし閃光の結晶、七光の波紋を伝えるべく隆起せよ」
それは、これまでトビが使ってこなかった『光属性魔法』。しかも、詠唱を進めるトビの周囲に元素が収縮されていくのが、ユーガ達とソニアの戦いに万全ではないため参加できなかったルインにはわかり、その光景に思わず身震いした。おそらくは、他のユーガ達以外の仲間達も。ソニアが驚愕に眼を見開き、トビが右手を上空へ上げると、足元の魔法陣がより一層強い輝きを放った。
「・・・プリズムクラッシャー!」
トビは上げた右手を顔の位置まで下げ、人差し指を上に向けた。ーすると、魔法陣一帯から七色の輝きを放つ結晶が隆起し、ソニアの体を吹き飛ばした。
「・・・これは・・・まだ半端ですが、『覚醒』の兆候・・・⁉︎」
ユーガはルインのその声を聞きながら、上空へ吹き飛んだソニアの体を視界に入れてー眼を見張った。
「な・・・!」
ソニアは何事もなかったかのようにその場に降り立って、再びユーガ達を睨んだ。
「・・・怪我したら、俺が治す・・・ですって?・・・笑わせないで。あんた達の攻撃なんて・・・そもそも貧弱すぎて効かないわ」
馬鹿な、とルインが呟くのを聞いて、彼女はーリフィアは、ふふ、と場違いながらも静かに微笑んだ。
(・・・なるほど。ソニアさんの固有能力、『安眠』だっけ?それは自分も治せるんだねぇ)
相手の動きを封じ、自分の傷を癒せる。そんな能力ー。
(面白いね)
「・・・面白ぇじゃねぇか」
今、考えていた事が思ってもいない人物から出て、リフィアは思わずその声の主、ネロを見た。ネロは剣を握ったままソニアをその金色の瞳でじっと見つめて、にやり、と笑った。
「・・・なら・・・遠慮はいらねぇな。ユーガ、トビ」
「え・・・」
いきなり話題を振られて、ユーガはいつもより強い輝きを放つ瞳でネロを見た。ーそれに答えるより早くトビが、ふん、と鼻を鳴らした。
「・・・こっちは真面目にやってるっつーの」
「でも」とネロは左足を引いてーそれはアルノウズで『災魔族』を倒した時と同様にー、ソニアを見た。「お前らならまだやれるだろ?」
ネロの体が光に包まれるのを感じながらユーガは、ああ、と頷いてもう一度剣を握った。その剣も、ユーガの意思に呼応するように緋色の輝きを纏い始める。
「・・・もちろんだ!シノを助けるんだからな!」
「甘く見るんじゃねえよ。俺を誰だと思ってんだ?お前こそ遅れねぇようにせいぜい頑張るんだな、ネロ」
ソニアの前にユーガ、トビ、ネロの三人がそれぞれの武器を手に立ち、ソニアは忌々しげにユーガ達を一瞥した。
「・・・あんた達・・・なんなのよ。なんであんた達はシノに絡むのよ」
「・・・そんなの、決まってんだろ」とユーガは眼の高さまで剣を持ち上げてそれを横にし、その剣に焔を纏わせた。「仲間で友達だからだ。俺達とシノは・・・誰がなんて言っても、仲間なんだ!『絆』があるから、俺達はシノを助けたいんだ!」
「・・・腐れ縁ではあるが」とトビはその銃口をソニアに向けて、眼を細めた。「お前に運命を左右されるのを見るとイラつくんだよ。人の命はそいつだけのもんだからな」
「俺は」とネロは輝く全身をちらりと見て、微笑を口の端に浮かべて言った。「仲間が苦しんでんのに、それを側から見てる事ができるほど、お前に対しての親切さは持ち合わせてないからな。実の娘に手をかけようとした事・・・後悔させてやる」
「・・・皆さん・・・」
シノが動かない体で俯くのを見て、ユーガは大きく息を吸ってー、
「シノは、どうしたいんだ!」
と、洞窟内に反響するほどに叫んだ。
「・・・・・・」
「最後は、シノが言うんだ!シノの意思を・・・自分の想いを!」
「・・・私の・・・想い・・・」
その言の葉は、シノの心の奥深くまで響き渡り、溜め込んでいたものの『蓋』を外した。
「・・・私は・・・」
そこまで言っただけなのに、少し口が震えて抑えていた感情が溢れそうになるが、それを堪えてもう一度口を小さく開く。
「・・・まだ・・・皆さんと・・・旅を、したいです」
その一言は、紛れもなくシノの本心。ユーガ達と旅をして、学んだ事も新たな発見もたくさんあった。少なからず、その日々は楽しかったから。こんな自分の全てを受け入れ、『仲間』とはっきりと言い切ってくれた彼等だから。だからこそー。
「・・・助けて、ください・・・」
シノの瞳から涙が溢れて本当にか細い声でそう、確かにそう言った。再びソニアの視線がシノに向くのを、トビは見逃さなかった。眼にも止まらぬ速さで銃弾を放ち、ソニアの背中に向けて銃を放つ。だが、それより早くソニアは魔法の障壁でトビの弾を防ごうとしてーハッとした。いつの間にか、腕を伸ばして張っている障壁と体の隙間に、青髪で金の瞳を持つ少年ー確か、ネロといったーが、そこにいたからだ。
「・・・喰らいやがれ!」
ソニアが反応するよりもさらに早く、ネロは剣を抜刀して剣を斬り上げた。その剣が間違いなくソニアに届いているのを確認して、トビはさらに追撃で弾を放つ。元々放った弾はネロの攻撃によりソニアの障壁が無くなっていたため既に直撃しており、さらにその体に弾が食い込む。
「自分で回復しちまうなら、それより早くぶちのめせば関係ねぇよな?『クィーリアの天才魔導士』はシノだ。他の誰でもねぇ・・・。あんたが天才魔導士なら、俺が変えてやるよ。・・・てめぇのその腐りきった精神ごとな」
トビはソニアに指を突きつけて言い、チラリとユーガを見た。ユーガはそのトビの言おうとしている事を理解して頷き、ソニアに向けて脱兎の如く走りだした。ソニアの顔が苦渋と痛みに歪み、ソニアはトビとネロを睨んでーその後ろからユーガが思い切り跳躍して剣を振りかぶっている事に気付いて、本能的に、しまった、と感じたがーもはや遅い。ソニアが障壁を張ろうとするが、全身の痛みにそれは叶わずに、咄嗟に構えた短剣とユーガの振り下ろした剣が火花を散らしてぶつかり合った。
「・・・俺はシノを・・・助けてみせる!うぉぉぉぉぉっ!」
ユーガの叫びと共にソニアはユーガの剣に込められた力がより一層強くなるのを感じて、思わず力に押されてしまった。それが、まずかった。その一瞬の隙をユーガは逃さず、さらにその剣に焔を纏わせて、その握った剣に力を込めてー。
(・・・何で・・・なの・・・。私は・・・)
ソニアのその思いも、その焔に打ち消されていくような気がしてー。ソニアは、その場に膝から崩れ落ちた。

「ユーガ!トビ!ネロ!シノ!無事ですか!」
倒れ込んだソニアに次いで倒れそうになったユーガをミナが、ネロをリフィアが、そしてトビをーソニアの『安眠』から解放されたシノが支えた。それを確認して、ルインが全員に声をかけた。
「あ、ああ・・・大丈夫・・・それより、シノは・・・」
「・・・大丈夫、です・・・」
ユーガはシノの言葉に、良かった、と微笑んで安堵の表情を浮かべた。シノはユーガ達に回復魔法をかけて、ゆっくり口を開く。
「・・・私・・・」
「あん?」
シノに支えられながら、トビはシノに怪訝そうな表情を向けた。
「・・・私は・・・皆さんに着いて行っても・・・良いんですか・・・?」
当たり前です、とミナがユーガを支えながら頷く。
「私達は仲間でしょう?仲間を否定なんてしませんよ?」
シノが驚いたように眼を見開き、ユーガ達を一瞥した。ユーガ達もミナと同様に頷いて、それぞれがシノを見た。
「・・・つ・・・」
その瞬間、ソニアがゆっくりと壁に手をつきながら立ち上がって、ユーガ達を見た。
「・・・あんた達・・・は・・・」
「彼は」とユーガを支えているミナがユーガを伴いながらゆっくりとソニアに歩みを進めた。「・・・ケインシルヴァのガイアから来た、ユーガさん・・・ユーガ・サンエットさんです」
「・・・!あんたが・・・⁉︎」
「・・・?はい・・・」
ユーガは頷いて、ソニアを見た。ソニアは動揺を隠せていない様子で眼を泳がせ、そんな馬鹿な、と呟く。
「・・・やっぱり・・・ユーガさんの家を滅ぼすように指示したのは、あなただったんですね」
そのミナの言葉に、ソニアは動揺をさらに深めた。ユーガの仲間で驚いたのはユーガとネロのみで、他の皆はゆっくりと頷いた。
「・・・おかしいとは思ってたぜ」とトビ。「確かに俺の家を滅ぼしたのはレイト・・・いや、フィムだ。だが、それをクィーリアの人間が調べ、その恨みを晴らすためにユーガの家に攻め込んだにしては早すぎるからな」
「ですね」とルイン。「その期間は僅か三日でしたか・・・、フィムの事を調べ、サンエット家に行き着くまでにはあまりにも早すぎますからね」
トビとルインの冷静までなその言葉に、ユーガはソニアに視線を向けて眼を見開いた。このソニアが、サンエット家をー?
「・・・あんたは元からフィムの事を知ってたんだろ。だからこそ、迅速に対応をした。使という事を知っていたからこそな」
トビはシノの支えから離れ、ソニアに指を突きつけた。それでもソニアは何も言わず、ただ固くその拳を握りしめて座っていて。
「・・・だが、今はフィムと共にいるときた。・・・本来ならフィムを憎むはずのお前が、俺の家を滅ぼした張本人と行動している」
「・・・そうする事で」とシノも切なげにソニアの前まで歩く。「あなたが憎んでいる『私』という存在も消えて・・・あなたは『天才魔導士』として認められるから、でしょうか」
「・・・ええ、そうよ」
ソニアはゆっくりと頷いて、シノと同じ水色の瞳にうっすらと涙を浮かべ、ユーガ達を見た。
「理解してもらえないなら、どうせならって・・・そう思ったのよ。あんた達にもどうせ・・・理解できないでしょう?」
「わかりませんけど・・・」
ソニアの言葉に、ユーガは即座に俯いて呟いた。ーが、すぐに前を向いてソニアを見てー。
「その話、ちゃんと聞かせてください。俺にも何か協力できるかもしれませんから・・・」
「・・・ユーガさん・・・」
ユーガの言葉に、シノはユーガの顔を見た。その緋色の瞳には迷いなどはなく、はっきりと本心をソニアにぶつけていた。
「・・・何を言っているの?・・・私はあんた達の・・・敵よ」
「敵じゃありません。・・・協力できる事があるなら、俺も手伝います!」
ソニアは何も言わずー何も言えず、ユーガの顔を見た。少なからずとも、つい先ほどまでは彼等の命を狙ったというのにもかかわらず、彼はーユーガは、自分を助けようと言うのかー?
「それに、俺はソニアさんは立派な魔導士だと思います。確かにシノに対する態度は許せないけど・・・夢に向かって一途に直向きに努力する姿は、俺はすげぇなって思います」
その、純真までなユーガの言葉にソニアの眼から涙が流れた。そうか。自分は『天才魔導士』になりたい、というよりもー認められたかったのだ。この努力を、この姿を誰かに認めてほしかったのだ。
「・・・過程の時点で・・・私の式には間違いが生じていた・・・のかしら・・・」
「ソニア」
涙を流しながら呟くソニアに、トビは蒼色の瞳にソニアの姿を捉えながら口を開いた。
「あんたがやってきた努力は、確かにあんたの才能だ。とても真似できるもんじゃねぇ。これまで失ったものもでかかっただろうな。ーだが、あんたにはまだ残っているものがある。こんな時でも、あんたを心配する・・・シノがな」
トビのその言葉に反応するかのように、俯いていたシノは顔を上げてーその眼はどこか不安そうにーソニアを見つめた。
「・・・大切なものは、いつだって側にある・・・。こんな事にも気付けないなんてね・・・」
いつだって側にいてくれる存在が、どんなに大切だったか。どんなにその存在を求めていたか。ーだが、そんなものはすぐ側にー本当にすぐ側にあった。理解してくれて、支えてくれる存在が、そこにはあったのだ。それに眼を背け、自分が悲劇のヒロインのように振る舞っていただけだ。努力が認められたいがために、たくさんの人をー娘さえもー踏みにじってきた。
「・・・やっぱり」
ユーガはその様子を笑みを浮かべて見つめながらぽつりと呟いた。仲間達が怪訝そうな瞳をそれぞれユーガに向ける。
「・・・俺は『絆』を信じるよ。繋がってないように見えても、ちゃんと話し合えば・・・こうやって、理解し合えるからさ」
「・・・ええ、そうですね」とルインが。
「ああ」とネロが。
「はい」とミナが。
「うん、そうだねぇ」とリフィアが。
「・・・ふん」とトビが。
トビだけは素直ではなかったが、きっと本心では信じてくれているのだろう、とユーガは思って、ソニアの方に視線を向けてー。眼を、疑った。ソニアの体に、炎の槍が突き刺さっており、シノが驚きに眼を見開いていてー。
「お母ー」
シノの言葉が終わるよりも早く、ソニアの体はまるでスロー再生かのようにゆっくりと、それでも確実にー地面に伏した。

「・・・そ、ソニアさんっ⁉︎」
ユーガは倒れたソニアの横に座り込み、その体を揺すった。小さく呻き声が聞こえるが、その体からは間違いようもない赤い液体がー血が、溢れているのがユーガにはわかってしまい、息を呑んだ。
「待てユーガ!動かすな!」
トビの鋭い叫びが響き、ユーガはびくっと肩を震わせてトビの方向を見た。そんな泣きそうな眼で見なくてもわかっているっつーの・・・トビは内心で舌を打ち、回復術をかけようとしてーその手を止めた。
「・・・ルイン・・・守れ」
「・・・わかりました・・・どうやら、登場という事のようですね・・・」
ルインの言葉が終わると同時に、炎の槍が雨のようにユーガ達に向かって降り注いだ。それをルインが防御魔法で食い止めてーその魔法の発動者の姿を、ユーガは捉えた。
「・・・フィム・・・!お前・・・!」
「おや・・・これはこれはユーガ様。・・・ああ、この者はもはや使ので・・・処分するんですよ」
発動者ーフィムはユーガの質問を先読みし、ソニアを恐ろしいほどの冷徹な瞳で見下した。
「や、やめろ!ソニアさんをどうして殺そうとするんだ!」
「使えない人間だからですよ。この世に必要のない人間がいる価値などありませんからね」
「な、なんだって・・・⁉︎」
ユーガは眼を見開き、すぐに眉を寄せてフィムを睨んで剣に手をかけた。
「ふざけんな!ソニアさんはお前の仲間なんじゃないのかよ⁉︎」
「違いますよ」
その、紛れもない否定に。ユーガはさらに胸に怒りが渦巻くのを感じた。そもそも、とフィムは憐れさすら含んだ眼でユーガを見つめる。
「私は自分の目的のために動いています。自分の目的が果たす事は・・・スウォー様への忠誠よりも大切な事ですしね。そんな足手まといがいたところで、私にメリットなどありませんよ」
「シノ」と、それまで黙っていたトビが徐に口を開き、肩越しに言った。「ネロとルインと一緒にソニアを離れた場所へ避難させろ。まだ俺もそいつに死なれたら困る」
「・・・・・・はい」
シノは無表情のままだったが、その瞳には紛れもない焦りが表れていて、ユーガは鞘に収められているがその手に握られている剣にさらに力を込めた。せっかく、ソニアとシノの心が通じ合えるようになったというのに、それをー!
「・・・邪魔なんて、させない」
ユーガは『緋眼』を解放しようとしたが、先程の疲弊もあったからか思ったように使用できず、ユーガは内心、くそ、と息を吐いた。
(それでも、やるしかないっ・・・!)
仲間達も武器をそれぞれ構えて、フィムに向き直ってー異変に、気付いた。フィムの体に炎が渦巻き、凄まじいほどの闘気がフィムの体に蓄積されていきー。
「伏せ・・・!」
トビの言葉が終わり切る前に、その闘気が噴出され、ユーガ達は咄嗟に防御をするが間に合わず、凄まじい熱気に包まれながら壁や地面に体を打ち付けた。
「・・・い・・・一体・・・何が・・・」
「・・・『人工精霊』・・・?いえ・・・それだけでは・・・」
ミナがゆっくりと顔を上げながら呟いた言葉に、ルインがそこまで呟きーハッとした。
「・・・『覚醒』・・・⁉︎」
「・・・流石ですね。ええ、そうですよ」
フィムは悪魔のような歪んだ笑みを口に浮かべ、その背後に『それ』を現した。『それ』は、全身が緑色の人型の魔物のような姿をしていて、『それ』の背中には普通の生物ではあり得ない、以前ゼロニウスでフィムが見せた風の翼が、そこには存在していた。
「そして、私の固有能力(スキル)・・・『煉獄』の覚醒が・・・」
「これが、風の『人工精霊』かよ」
トビはフィムの言葉を遮って『それ』をー『人工精霊』を見据えて、わざとらしく感心したように声を上げた。
「ん?ああ、悪い。話・・・どうでも良すぎて聞いてなかった。どちらにせよ、お前はここで死ぬんだからな」
「・・・ふふ・・・やはり、あなたは殺しておいた方が良い存在・・・という事ですね?」
フィムは側から見てもわかるほど怒りを顔に浮かべ、トビを睨む。
「・・・さてな?まあ、お前に負ける事なんてねぇけどな。・・・おい、ユーガ」
「・・・な、何だよ?」
「こいつの相手は俺がやろうかと思ったが・・・特別にてめぇは付き合わせてやる。ルイン、ミナ。てめぇらは大人しくしてろ」
「え、けど・・・」
「『相棒』様の頼みだぜ。いーから、付き合えよ」
トビの言葉は、絶対に引かないという意思が籠っており、ユーガはそれ以上言えずに曖昧に頷いた。ルインとミナも困惑しながらも頷いたのを確認して、トビはフィムの方向へ視線を向ける。
「・・・舐められたものですね。私があなた方二人だけのような貧弱な者にやられるとでも?」
「あ?何言ってんだ、ルイン達がいると邪魔だからそう言ったんだよ。逆に聞くが・・・ユーガならまだしも俺がお前なんかにやられるほどヤワだとでも思ってんのか?頭お花畑なのかよ」
トビは双銃を構えながらフィムに嫌味を含んで、にやり、と笑い、それによ、と真剣な表情でフィムを睨んだ。
「・・・ソニアを刺したてめぇのツケは・・・払ってもらうぜ。金じゃなく・・・命でな。だろ、ユーガ」
「トビ・・・」
ユーガはトビの明確な怒りがフィムに向けられているのを感じ、その手に握られた剣をもう一度しっかりと握り直して、緋色の瞳が収められている眼を細めた。
「・・・ああ・・・。シノとソニアさんの『絆』を・・・俺達の『絆』を、潰させるもんか!」
そこまで言って、ユーガは一呼吸置いて、先程とは代わって低い声で、さて、と言葉を継いだ。
「・・・覚悟してもらうぜ、フィム・・・。絶対にお前だけは・・・許さない」
その、ユーガの恐ろしいほど低い声にーフィムは内心、鳥肌が立った。それは、これまで知っていたユーガではなくー。
「・・・いいでしょう。どちらにせよ、あなた方は消えてもらわなければならない敵ですし」
フィムの言葉が終わると同時に、ユーガとトビは力を振り絞って『緋眼』と『蒼眼』を解放させ、互いに頷き合ってフィムに向かって駆け出した。

「・・・お母様・・・」
ユーガ達がフィムと戦っているところから少し離れたところで、シノは回復魔法をかけながら眼を閉じて動かないソニアに語りかけ続けた。
「くそ、どうなってんだ・・・回復魔法が効いてねーぞ⁉︎」
ネロの言う通り、ソニアの傷はシノの回復魔法を持ってしても癒えなかった。まさか、とリフィアは少し考えるように俯き、ハッとして顔を上げる。
「リフィア・・・?」
「もしかしたら・・・これが、フィム・・・だっけ?の『覚醒』なんじゃないかな・・・?」
「・・・どういう事だ?」
「『癒えない傷』・・・。炎の槍でソニアさんを貫いて、その炎が癒えない・・・回復魔法では治らない、そんな魔法だとしたら・・・この状況、納得はできるでしょ?」
「な、なんだって・・・?」
ネロは、くそ、と舌を打ってソニアに変わらず回復魔法をかけ続けるシノに詰め寄った。
「シノ、こういう時どうすりゃいい?これが治らないわけない。何か方法がある筈だ!」
「・・・無駄・・・よ・・・」
その時。その瞬間、ソニアの意識は戻った。しかし、虚ろな眼で口の端から血を流してゆっくりと口を動かしていてー。それは、まるで最後の命の灯火のようにも、ネロには見えた。そう見えてしまった。
「・・・その証拠に・・・さっきから私の固有能力で・・・回復を図っているのだけれど・・・フィムの『覚醒』はそれすらも・・・許してはくれないようね・・・」
「そんな・・・」
回復魔法も、ソニアの固有能力すらもー無駄だと言うのか?このままではー。
「・・・お母、様・・・」
「・・・何かできる事がまだある筈・・・!」
「ネロ君」
ネロの言葉を遮って呼ばれたその声は、リフィアの口から出たものだったが・・・その声は、感情を押し殺しているようにも思えるほどー冷たく、低い声だった。
「・・・もう・・・駄目だよ」
「・・・!」
その一言が、ネロにはとても重い物に感じられた。母を失う悲しみは、よくわかっているつもりだがーこうして目の当たりにして、よくわかった。人の死にはー抗えないのだと。それを、理解してしまった。医学には詳しくないネロにも、わかってしまうのだから、シノにはさらによく理解できてしまうのであろう。
「・・・シノ・・・。最後まで母親らしい事はできなかったけれど・・・産まれてきてくれて、ありが、とう・・・」
「・・・お母様っ・・・」
ソニアの瞳が、ゆっくりと閉ざされていきーソニアは、それ以降動く事はなかった。どんなに願っても、ソニアはもう帰ってこないのだ。しかしーソニアの顔は、安らかだった。清々しさすら感じさせるほどにー。

「せやぁぁぁっ!殲鋼狼破衝!」
「貫いてやる。エクスプロードレイザー」
ユーガとトビの奥義をフィムに叩き込むがーいまいちダメージを与えていない事に、トビは内心歯噛みした。
(ちっ・・・まずいな・・・。このままだとジリ貧の流れかよ)
トビは息を吐きながらフィムの後ろへ回り込み、ユーガは正面から剣を振りかざして、せーの、と言葉に出したようにぴったりのタイミングで攻撃が重なるがーフィムはそれを跳躍でかわし、ユーガ達に向けて上空から魔法を放ち、炎の槍がユーガとトビに襲いかかりー彼らは咄嗟の判断でかわす。
「・・・ふっ・・・やはり、あなた方では相手にもなりませんね」
「・・・あぁ?調子乗ってんじゃねぇぞ・・・?」
「・・・乗ってなどいませんよ・・・。やはり、テリー・サンエット様と・・・その『相棒』のセイガ・ナイラルツの息子という事で期待はしていましたが・・・特にトビ。あなたは見当違いでしたねぇ」
「・・・え?『セイガ』?今、『セイガ』って言ったのか⁉︎」
その名はーアルノウズで、サキュバスの男性ーレギンから聞いた名だった筈だ。その、『セイガ』が父親の、『相棒』ー?
「・・・親父は親父だし、俺は俺だ。残念だが・・・今の俺には関係ねぇ。今はただ・・・てめぇをぶちのめす事しか考えてねぇ」
トビは一度ユーガを見て言葉を区切り、一息ついてもう一度口を開く。
「なぁ、そうだろ?ユーガと・・・」
ユーガは思いもよらぬ情報を得た事で少しパニックになっていたが、トビの言葉に頷くと、さらにトビは言葉を告げた。
「シノ」
トビに名を呼ばれたその名を持つ人物は、ユーガとトビの後ろからゆっくりとーその顔は相変わらずの無表情だったがー現れたシノは氷のオーラのような物を纏っていて、それはー。
(『覚醒』・・・⁉︎)
そう気付いたルインは、さらに眼を見開いた。シノの体に、次第に氷が張り付き始めていたのだ。
「・・・あなたは・・・」
か細い声で、それでも確かに聞こえてきた声に、ユーガとトビはもちろん離れていたマハ、ミナ、リフィア、ネロ達も、体がーいや、心そのものが震えた。心に直接語りかけるような、そんな冷たさが籠っていて、それはまるで、ラズフェア鏡窟で出会った『精霊』ーセルシウスの時のような、そんな気がユーガ達にはした。

まるで機械のように告げられたその言葉に、ユーガは腕に鳥肌が、ぞくり、と立つのを抑えられずに、体を震わせた。
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