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     第十九章

雨が降る帰り道

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 本当に今日は災難だった。

昔、孤児院で一緒だった紀伊名がこの学校に転校してくるなんて。でもこっちに転校してきたって事は、またいじめに遭ってたんじゃ。
 
 紀伊名は僕が守るって言っといて、守れていない自分が恥ずかしい。それよりも、なんで紀伊名がここにいるんだ?
「紀伊名、先生に雑用任されたの僕なんだけど。どうして紀伊名もいるの?」
「涼ちゃんと一緒に帰りたいから!」

 あー。そういうことね。
まあ、手伝ってもらってるし雑用自体はもう少しで終わりそうだから、感謝してるんだけど。

「じゃあ、一緒に帰る?」

「うん!」

紀伊名は相変わらず元気がいい。
それはそれでいい事なんだが。

「紀伊名、どうしてこの学校に転校してきたの?まさかまたいじめに遭ってたの?」

「違うよ!高校二年まで可奈さんにお世話になりっぱなしだったから、私も独り立ちする事にしただけだよ」

「本当にそれだけ?」

「それだけだよ!涼ちゃんは相変わらず心配性だね!」

 本当にそれだけならいいんだが。
話ている内に仕事も終わって帰ろうとしたが、タイミング悪く雨に降られた。

「どしゃ降りだね涼ちゃん。走って帰ろうか?」

「紀伊名の家ってどこら辺なの?」

「家から学校まで五十分はかかるかな?」

「風邪ひくよ?僕の家はここから二十分だから、僕の家においでよ」

「でも悪いよ」

「遠慮しない!さぁ、行くよ!ちゃんと付いて来てよ!」

「分かった」

 これで、なんで紀伊名がこっちに来た理由が聞ける。
昔から紀伊名は隠し事が下手だから、嘘をついてもすぐにバレていた。
だから、今回もきっと何かある。
 やっぱり走ると家までが近くに感じてしまう。
とりあえず、雨で濡れた髪を拭かせよう。後風呂にも入れさせないと。風邪を引いてしまう。

「はい。タオル、髪を拭かないと。風呂はちょっと待ってね。もう少しだから」

「ありがとう。涼ちゃん昔より優しくなったね」

「そうかな?」

「そうだよ」

 そんな会話をしている間に、風呂が沸いた合図が鳴った。

「ほら、紀伊名入ってきなよ。服は僕ので我慢してね」

 そう言って、風呂場まで紀伊名を案内して僕は、僕の部屋に服を取りに行っていた。

「ここが、涼ちゃんの家…。やっぱりしっかりしてる」

「紀伊名?服とタオルここに置いとくからね?」

「ありがとう、涼ちゃん」

本当に優しい。最初に見た時は暗い子に見えたけど、どんどん明るくなっていって、優しくなっていった。

「紀伊名が出てくるまで、夕飯の準備でもしとこっかな?」

 そういえば、可奈さん元気にしてるかな?今度の休みに紀伊名と一緒に行ってみようかな?

「あれっ?紀伊名もう上がったの?温まった?」

「うん。充分なくらいに!」

「そういえば紀伊名。料理出来たっけ?」

「全然!」

  いや、自慢気に言わないでよ。

「じゃあ、ご飯はどうしてるの?」

「コンビニとかレストラン」

そんな食生活してたら、いずれ太るかもしれないな。

「お金は?」

「可奈さんに少し貰ってなんとかしてる」

という事は、お菓子とかだな。
紀伊名の場合考えないから安いからっていう理由で買ってるに違いない。

「ねぇ紀伊名?ちょっと提案なんだけど」

「何?」

「僕の家で一緒に住まない?そしたら紀伊名の食生活も安心だし」

「いいの?やったー!」

 この時の紀伊名は目をキラキラしていた。
流石にこれ以上、紀伊名に変な食生活をさせたくない。
そうだ!紀伊名に聞かないと行けない事があったんだ!

「紀伊名、本当の理由教えてくれないかな?ここに来た理由」

「いいよ。やっぱり涼ちゃんには敵わないや。誤魔化しが全然通じない」

 紀伊名の口から出た話は聞くだけでも辛かった。
いじめにあっていた事を聞いた僕は、情けなかった。
自分から守るって言ったくせに、守れていない自分に。

「ごめん。守るって言ったのに、守ってあげれなくて」

「いいよ。涼ちゃんのせいじゃない。誰のせいでもないんだよ?だから泣かないで」

今の自分に腹が立った。紀伊名は辛い思いをしていたのに、僕はここで楽しんでばかりだった。

「紀伊名。僕は君を守ってみせる!絶対に」

「うん!ありがとう涼ちゃん!」

僕はもっと強くならないといけない。
皆を、守れるぐらいに。
                    続く……
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