不遇王子は、何故かラスボス達に溺愛される。

第一章 終わりと始まり

02 弱肉強食の世界

陛下が僕を引き取った理由。

一つはコンプレックスを抱えたエスターのため。

最初は僕をエスターの妻にしようとしていたらしい。
エスターの母君も王族なので、王家の血を引いているのは確かだ。
けれど、そのまとう色と容姿で王の子ではないのではという噂が絶えない。
僕という、金の瞳の妻を持てばその噂も払しょくされるのではという理由だ。

けれど、2歳年上のエスターはそれをとても嫌がった。
僕を一目見て嫌だと言った。

王は早々にエスターの婚約者ということはあきらめたようだ。

そのため王は僕を王子として引き取った。

王子の地位に僕をつければいろいろなことから守れるからだろう。
一つは、へたな男の妻にされたりしないように。

この世界は男ばかりの世界だ。
そのため、男同士で結婚する。

…この世界では性別の概念がないけども。
それと、結構、この世界は弱肉強食だ。

力を持つ者が妻としてのパートナーを選べる。
妻として選ばれた者には、夫の家の紋章が体に浮かぶ。
その紋章の力で子を宿すことのできる体に作り変えられる。

その紋章が体に浮かぶ条件は、力の差。
愛とかそういうのはあまり関係がない。
だから、弱いものは強いものに無理やり妻にされたりすることもある。
あまりに力の差があった時は、逆らえないことがあるのだ。

国王が僕を第二王子にしているのは、権力という力の庇護に入れるため。
力というのは、腕力だけではないから。

基本的に王というだけで、力を持つという認識らしい。
僕を王子としたのもその王族の力の庇護にいれるためだ。
金の瞳を持っている僕を他の者に取られないようにするため。

この瞳を持つということだけでも、傀儡の王にして権力を握ろうとする者がいる。
力がない僕を放置すれば、そんな者に利用されてしまうかもしれないから。

僕は僕が王子になったのは、それが大きな理由だと思っている。

あとは…王位継承権を持つ者のスペア。

…結構、エスターはポンコツ王子だ。
僕の方がかなり優秀らしい。

陛下ですら、僕を王にしようかと悩むほどに。

僕もエスターも、この時は知らないことだけれど。
けれど、知らなくともエスターにとっての僕は邪魔な弟。

エスターは陛下を慕っていた。
けれど、陛下はエスターに厳しく、僕を可愛がっていた。

それはエスターが王位継承権を持っているから。
国のために育てなければならないものだから。
だから、厳しく育てていた。
エスターはそれを理解していなかった。

王の愛を奪ったと僕を憎んでいるエスター。
その憎しみは苛烈なほどに。

その感情のママ、彼は行動してしまう。
本当に愚かな男。

愚かな廃エスター王子。

彼はこれからそう呼ばれるようになる。
だって、これから起こることは、すべて彼が勘違いで暴走したことによるもの。

そう暴走だ。
単独の暴走。

今、王は数日不在にしている。
その間エスターが全権を持っている。
だから…彼を止めることのできる者はいなかった。

勝手な思い込みで僕を罪人にして毒を渡して死ねという。

違うと言っても彼は嘘だと決めつけて。
嘘をつけば力を失う聖者が嘘など言うはずないと。

青い空を見上げる。
この空が赤くなる前には真実はエスターに伝わる。

…もうすぐエスターは知るだろう。

聖者が力を失ったことを。

聖者は知るだろう。
僕が死ぬということが何だったのかを。

聖者の嘘で神の眼が失われる。
この世で最も清きものとして生み出された聖者の嘘。
その嘘の所為で、神が世界を見放したことを。

僕はそれを知っている。
けれど、僕は知っていても、毒を飲み死ぬ。




何度も繰り返した。





いつものことだ。