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第一章 終わりと始まり
23 エスター王子
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聖者は、むっとした顔で僕らを見下ろしたままだ。
陛下は、聖者を無視することにしたらしい。
老神官に微笑みかけた。
「エスターに話があってね。あの子はどこかな?」
老神官が、エスター王子は今日はここには来ていないと困ったように言った。
陛下は少し首をかしげて苦笑する。
「なるほど…会いたくないということか。」
老神官は困ったように眉毛を下げている。
小さく申し訳ありませんと頭を下げた。
つまり、リオンがかたくなにあそこを動かないのは、その中にエスターが居るためだろう。
リオンはエスターを守っているつもりなのかもしれない。
なら、あの態度もわかる。
「そうか…なら仕方ないね。あの子に伝えてくれないかい?」
陛下は、穏やかに笑っている。
老神官は、少し安堵したように陛下を見た。
おそらく、陛下が来るという連絡を聞いて会いたくないとエスターは暴れたのだろう。
神官たちは寸前まで彼の暴走を止めていたのか、よく見ると白い神官服はところどころしわくちゃな部分があった。
「お前を廃嫡してジークハルトに王位継承権を譲る。どこへなりとも行くがいい、と。」
老神官が固まった。
おそらく陛下の通る声は、扉の奥のエスターまでとどいたのではないだろうか。
扉の前のリオンが顔色を変えていた。
ぱくぱくと口を開いたり閉じたりをしている。
何か言おうとして言葉を探しているようだ。
厳めしい神官に止められているリオンの、違う…僕が…という声が聞こえた。
おそらくは、リオンがエスターに会いたくないなら隠れていろとでも言ったのだろう。
庇ってるのか、彼がエスターに隠れると言ったのか。
どちらかはわからないが…悪手だ。
陛下は、にこやかに口元だけに笑みを浮かべている。
「わが子への温情と思い、議会ではエスターとジークハルトを競わすように言ったが…あの子がこの状態では、意味がない。あれは、最後の機会も気が付きもしない愚か者だ。私も庇いきれない。」
老神官は言葉も無く立ち尽くしている。
リオンは、厳めしい顔の神官に抑えられていた。
陛下は、そんな三人の様子を少しだけ眺めて、僕を抱えなおした。
「帰ろう。」
ジークハルトは、何事も無かったようにはいと返事をして馬車へと足を向けた。
教会の扉が乱暴に開く、そこには赤毛の少年が立っていた。
「父上!!」
転び落ちるようにエスターは、階段を走り下りてくる。
陛下に縋りつこうとした彼をジークハルトが厳しい表情で止めた。
「無礼でしょう。貴方は、王城で暴れては陛下の顔に泥を塗って、今度は陛下に対して居留守とは…。どこまで陛下を愚弄するのですか?」
ジークハルトの言葉にエスターは癇癪を起したようにうるさいと叫んだ。
「私は、父上と話すんだ!!お前は関係ないだろう!!」
これは、ダメだなと思う。
感情に流されすぎる。
陛下は、エスターをちらりと見た。
エスターは、その視線で固まる。
僕には陛下がどんな目でエスターを見たのか、見えなかった。
だが、老神官さえも顔を青ざめさせていた。
相当怒っているのだろう。
「陛下、ダメですよ。議会で決まったことです。きちんとエスター様にお伝えしましょう。」
僕は、とっさにエスターが可哀そうになって口をはさんでしまった。
子供のやることだ。
王族としてはダメだろうけども。
陛下はため息をついた。
「あんなことを言われていたのに…ラスティはエスターを庇うのかい?」
僕は首をかしげる。
出会った時に、ののしられたのだろうけども。
覚えていないことだ。
「僕は覚えていませんから。」
陛下は、僕を抱えなおすとエスターを見る。
「ラスティの願いだ。廃嫡は無しにしよう。だが、私はお前と話す気はない。ジークハルト、説明してやれ。私とラスティは馬車で待っている。」
陛下はエスターに背を向けた。
僕は陛下の肩越しにエスターを見る。
エスターは微妙な顔をして僕と陛下を見ていた。
安堵と悲しみ、そんな表情だ。
僕と目があって少し悔しそうに唇を噛んだ。
「父上…一つだけ答えてください…。」
エスターは、絞り出すような声で言った。
「私は…父上の子なのですか…。」
ここで血がつながっているのかと聞かれたら陛下は否と答えただろう。
だが、子供なのかと聞かれると答えは決まっている。
「ああ、お前は私の子だ。お前が惑わされた市井の噂が…真実でも、お前が私の子だということは変わらない。廃嫡したとしてもだ。それだけは生涯変わることはない。」
エスターは、膝から崩れた。
陛下の答えをどうとったのか、下を向いて泣き出したその表情からはわからない。
ジークハルトが、エスターを支えた。
老神官たちはどこか複雑な、それでいて安堵した表情でエスターを見ている。
陛下は、そのまま馬車へと僕を連れて歩き出した。
ジークハルトは、おそらくエスターに議会の報告をする前に泣き出した彼を慰めているのだろう。
優しい表情を浮かべて話しかけている。
僕は陛下の肩越しに馬車に乗るまで彼らを見ていた。
一つ気になったのは、扉の前にずっと立っているリオンだ。
彼は、エスターにさえ侮蔑の視線を向けている。
いや…憎しみすら感じるような視線。
本当に彼は僕の知っている聖者なのだろうか。
再び疑問に思った。
陛下は、聖者を無視することにしたらしい。
老神官に微笑みかけた。
「エスターに話があってね。あの子はどこかな?」
老神官が、エスター王子は今日はここには来ていないと困ったように言った。
陛下は少し首をかしげて苦笑する。
「なるほど…会いたくないということか。」
老神官は困ったように眉毛を下げている。
小さく申し訳ありませんと頭を下げた。
つまり、リオンがかたくなにあそこを動かないのは、その中にエスターが居るためだろう。
リオンはエスターを守っているつもりなのかもしれない。
なら、あの態度もわかる。
「そうか…なら仕方ないね。あの子に伝えてくれないかい?」
陛下は、穏やかに笑っている。
老神官は、少し安堵したように陛下を見た。
おそらく、陛下が来るという連絡を聞いて会いたくないとエスターは暴れたのだろう。
神官たちは寸前まで彼の暴走を止めていたのか、よく見ると白い神官服はところどころしわくちゃな部分があった。
「お前を廃嫡してジークハルトに王位継承権を譲る。どこへなりとも行くがいい、と。」
老神官が固まった。
おそらく陛下の通る声は、扉の奥のエスターまでとどいたのではないだろうか。
扉の前のリオンが顔色を変えていた。
ぱくぱくと口を開いたり閉じたりをしている。
何か言おうとして言葉を探しているようだ。
厳めしい神官に止められているリオンの、違う…僕が…という声が聞こえた。
おそらくは、リオンがエスターに会いたくないなら隠れていろとでも言ったのだろう。
庇ってるのか、彼がエスターに隠れると言ったのか。
どちらかはわからないが…悪手だ。
陛下は、にこやかに口元だけに笑みを浮かべている。
「わが子への温情と思い、議会ではエスターとジークハルトを競わすように言ったが…あの子がこの状態では、意味がない。あれは、最後の機会も気が付きもしない愚か者だ。私も庇いきれない。」
老神官は言葉も無く立ち尽くしている。
リオンは、厳めしい顔の神官に抑えられていた。
陛下は、そんな三人の様子を少しだけ眺めて、僕を抱えなおした。
「帰ろう。」
ジークハルトは、何事も無かったようにはいと返事をして馬車へと足を向けた。
教会の扉が乱暴に開く、そこには赤毛の少年が立っていた。
「父上!!」
転び落ちるようにエスターは、階段を走り下りてくる。
陛下に縋りつこうとした彼をジークハルトが厳しい表情で止めた。
「無礼でしょう。貴方は、王城で暴れては陛下の顔に泥を塗って、今度は陛下に対して居留守とは…。どこまで陛下を愚弄するのですか?」
ジークハルトの言葉にエスターは癇癪を起したようにうるさいと叫んだ。
「私は、父上と話すんだ!!お前は関係ないだろう!!」
これは、ダメだなと思う。
感情に流されすぎる。
陛下は、エスターをちらりと見た。
エスターは、その視線で固まる。
僕には陛下がどんな目でエスターを見たのか、見えなかった。
だが、老神官さえも顔を青ざめさせていた。
相当怒っているのだろう。
「陛下、ダメですよ。議会で決まったことです。きちんとエスター様にお伝えしましょう。」
僕は、とっさにエスターが可哀そうになって口をはさんでしまった。
子供のやることだ。
王族としてはダメだろうけども。
陛下はため息をついた。
「あんなことを言われていたのに…ラスティはエスターを庇うのかい?」
僕は首をかしげる。
出会った時に、ののしられたのだろうけども。
覚えていないことだ。
「僕は覚えていませんから。」
陛下は、僕を抱えなおすとエスターを見る。
「ラスティの願いだ。廃嫡は無しにしよう。だが、私はお前と話す気はない。ジークハルト、説明してやれ。私とラスティは馬車で待っている。」
陛下はエスターに背を向けた。
僕は陛下の肩越しにエスターを見る。
エスターは微妙な顔をして僕と陛下を見ていた。
安堵と悲しみ、そんな表情だ。
僕と目があって少し悔しそうに唇を噛んだ。
「父上…一つだけ答えてください…。」
エスターは、絞り出すような声で言った。
「私は…父上の子なのですか…。」
ここで血がつながっているのかと聞かれたら陛下は否と答えただろう。
だが、子供なのかと聞かれると答えは決まっている。
「ああ、お前は私の子だ。お前が惑わされた市井の噂が…真実でも、お前が私の子だということは変わらない。廃嫡したとしてもだ。それだけは生涯変わることはない。」
エスターは、膝から崩れた。
陛下の答えをどうとったのか、下を向いて泣き出したその表情からはわからない。
ジークハルトが、エスターを支えた。
老神官たちはどこか複雑な、それでいて安堵した表情でエスターを見ている。
陛下は、そのまま馬車へと僕を連れて歩き出した。
ジークハルトは、おそらくエスターに議会の報告をする前に泣き出した彼を慰めているのだろう。
優しい表情を浮かべて話しかけている。
僕は陛下の肩越しに馬車に乗るまで彼らを見ていた。
一つ気になったのは、扉の前にずっと立っているリオンだ。
彼は、エスターにさえ侮蔑の視線を向けている。
いや…憎しみすら感じるような視線。
本当に彼は僕の知っている聖者なのだろうか。
再び疑問に思った。
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