不遇王子は、何故かラスボス達に溺愛される。

第二章 運命を壊す方法

34 漠然とした不安

夕方、ジークハルトと訓練と座学を終わらせ、彼を見送る。

「陛下…今日は遅いですね。」

ジークハルトは少し残念そうに言って奥の間を出た。
あまり遅くなると、陛下に危ないからと怒られてしまうのでジークハルトは、残念そうに日のあるうちに帰った。


奥の間は一気に静かになる。
一人いないだけだ。
なのに、とてもがらん…と感じてしまう。
いつもなら陛下はすでにここにいる時間。
最近は落ち着いていたから、ジークハルトの見送りは、陛下と一緒だった。

「今日はお仕事忙しいのかな？」

僕の言葉にノルンが、そうかもしれないですねと心配そうに言った。
陛下が忙しいのはあまり良いが起こっていないことが多い。
僕の様子を見てマールが、うーと小さく唸った。

「なら、ラスティ様。陛下に元気になるお茶を用意しようよ。簡単だから。」

マールの言葉に、僕は頷く。
ノルンが、口の利き方とマールをたしなめていた。
別に僕は気にしないが、ノルンはマールが他の人の前で失敗しても困るといつもたしなめている。

「はいはーい。では、ラスティ様、お手をどうぞ。」

少しおどけてマールは、僕に手を差し伸べた。
ノルンが、マール！！と怒っているが僕はマールの手に自分の手を添える。
暖かいマールの体温に少しほっとする。

「うん…ありがと…」

ノルンは、僕の様子を見て、一瞬、言葉を飲み込んだ。

「陛下はもうすぐ帰ってきますからね。」

マールの言葉に、うん、と頷く。
けど、どうしても気分は上がらない。
陛下の帰りが遅いと僕は少し落ち込んでしまう。
ダメだなぁと思う。
前の生を思い出すからかもしれない。
マールとノルンがいてくれるから全然いいのに。
部屋でぽつんと夜を過ごしていたあの頃を思い出してしまう。
ただ、死を待つ日々だったあの時を。
大丈夫と言い聞かせる。
あの時とは違うはずだと。

「大丈夫ですよ。」

ノルンの言葉にも、うんと答える
彼らから見たら、父親が帰ってこない子供に見えるだろう。
僕にとって陛下は家族だから。
姿に引きづられているのかな。
感情がコントロールできない。
大丈夫。
僕は抗おうとしている。
今までとは違って、いろいろ違って希望はある。
それなのに。
陛下が、帰ってこない…それだけで不安になる。

「騎士が多いとか話したのが怖かったですか？」

首を横に振る。
違うよと。

「怖いことが起こっているわけではないですから。」

ノルンの言葉に、大丈夫と答えるけど声は沈んでしまう。
子供っぽい感情だとも思ってしまう。
陛下が優しいから、甘えているんだとは思う。

「陛下はすぐに帰ってきますよ。」

マールの言葉にうなずく。
二人には、親が帰ってこない子供に見えているだろう。
親元を離れているのはノルンとマールも同じだ。
僕の使用人ということで親と合えるのは年に数度くらいになってしまっている。
まだ、親元にいていい年齢だ。
彼らの方がつらい。
実の両親の記憶が無い僕よりも。
特にマールは、まだまだ親に甘えていていい年なのに。
僕の所為で親元を離れなければならないのだから。
漠然とした不安で彼らの顔を曇らせてはダメだ。
そう思って顔を上げる。

「今日は…どの薬草を使うの？」

僕の問いにマールは笑った。

「うふふ、ラスティ様は可愛いですねぇ。」

僕の頭をなでるマールにノルンがこらっと軽く怒る。
マールは口をとがらせてノルンに舌を出した。
ノルンは、マールに余計に怒っている。

こらえきれずに笑う僕に二人も笑う。

マールのこの態度はわざと。
僕を元気づけようとしてくれているから。
ノルンもそれはわかっているけどマールを怒る。

こうやって僕の周りをにぎやかにしてくれるのだ。

優しい二人。
そうだ。
彼らが傍にいてくれることだって全然違う。

だから、不安に思わなくても大丈夫。
陛下が帰ってこないのはちょっと仕事が忙しいだけ。

そう思う。
顔を上げる。

大丈夫。

そう言い聞かせる。




でも、何故だろう。
何故か…不安が今日は何故か、まとわりついていた。