不遇王子は、何故かラスボス達に溺愛される。

神島 すけあ

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閑章 リオンside 華

閑話 03 研究

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リオンは己を拘束している足枷を眺める。
一応傷つけないように足枷の内側がやわらかいファーのようなもので包まれている。
人を傷つけるのは男の趣味ではないのだろう。
足枷は、いつも清潔で綺麗な状態でこのをリオンにつけている男はこの足枷を毎日交換していた。
神経質な男だ。
その男は今は、いくつかの薬草を粉にしたものを混ぜている。
リオンは、ぼんやりその男の背を見つめる。
机の上の華の一つにリオンは眉を寄せた。
根元が薬草になる華だ。
その華が好きだった少年の顔がリオンの脳裏によぎる。
リオンには、もう会えない大好きな少年。
今のリオンには…と言った方がいいのだろうが。

「ねぇ…聞いた?」

リオンの言葉に、男は頷く。
男は、机に置いてあった手紙をリオンに投げた。
リオンはそれを広げて、悲し気にため息をついた。

「本当だったんだね……間に合わなかったのか…。」

手紙には、ラスティ王子が亡くなったと短く書かれていた。

「…結局君は、ヒトゴロシになったね。」

リオンの言葉に、男はそうだなとつぶやいた。
冷静なようでリオンの前の男が震えていることに気が付いていた。
ラスティ王子が死んだ原因は、目の前の男だ。
彼が、飲ませた薬の所為でラスティ王子は、色に狂い死んだのだ。
リオンが、ラスティ王子に会いたいのに会えないと言った言葉を曲解した。

聖者であるリオンが恋焦がれる相手と、そう誤解した。
彼に思いを寄せていた男は嫉妬に狂ったのだ。

その思いのままラスティ王子に、毒薬を飲ませて狂わせた。
リオンが、そういう意味で言ったわけではないと彼に言った時はすでに手遅れだった。

男は、何の罪もないラスティ王子を色に狂わせた。

その罪で男は、男に薬を売った商人と共に国を追放された。
追放で済んだのは、彼の父、宰相が命を断って彼を生かしたからだ。

ラスティ王子を救うための薬を作れと。

不可能だと知っていただろう。
それでも、宰相は父として彼を生かした。
王と騎士団長が手を尽くしたようだったが…。
救うことはできなかった。
彼がラスティ王子に飲ませた毒は体の組織を破壊するものだ。
解毒剤を飲ませたとしても…体の組織は壊れたまま。
ラスティ王子は、長くは生きれない状態になっていただろう。
リオンは、じっと手紙をみる。

「…ダメだったんだね……。」

リオンは、知っていた。
男がやっていることは無駄だと。
だが…ラスティ王子が生きている限りは…と思った。
だから、男の実験に付き合っていた。

それがこの世界の破滅になると知っていても。
リオンが聖者に戻らねば…人のために、欲望に溺れずに生きねば世界は神に見捨てられる。
それを知っていてもリオンは、ラスティ王子を救える方法を探すために世界を捨てた。
毒薬を飲み、その上で男の作った解毒剤を飲む。
解毒剤が効かなければ、時間まで男に抱かれて効果をごまかす。

そのの能力こそ、リオンの背負った罪であった。
神と契約した時にリオンは時が来るまで復活する力を得た。
取り込んだ毒は、一定時間で消える。
例えその毒の効果でのたうち回っても。
命を奪われても、時間が来れば生き返る。
すでにリオンは人とは違う生き物になっていた。

世界を救う時まで…もしくは滅びる世界を見送るまで。

だから…リオンもわかっていた。
己に効いてもラスティ王子を救う薬になっているかなどわからない。
それでも…男の狂気にリオンはラスティ王子を救う可能性を賭けた。

男がリオンの前に立つ。
神経質そうな眼鏡をかけた男…トリスティはじっとリオンを見つめた。

「試薬だ…。」

どうする?と男は問う。
もう、目的のラスティ王子はいない。
この研究を続ける意味はない。
そうトリスティは言う。

その目の狂気は絶望の光を宿している。
何もかも失った男の姿にリオンは、微笑む。
自分もすべて失った。
世界も、もう救われる道はない。
リオンがここに男と閉じこもったその時に、すでに世界は神に見捨てられた。
顔を上げてリオンは、机の上の華を見つめる。
ラスティ王子の好きだった華。
彼を救う成分を含む薬草でもあった華。




「続けるよ…。」




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