不遇王子は、何故かラスボス達に溺愛される。

神島 すけあ

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第三章 学園生活の始まり

60 王と聖者

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バルハルト公が下りてきて上は鎮圧で来たぞと陛下に報告する。
それから、陛下が吹っ飛ばしたであろう者のほうを見てうわぁ…とだけ言った。

バルハルト公が、あまり詳しい状況を言わなかったのは、陛下が僕を、ロイスがマールをそちらに向かないように抑えているのを見たからだろう。
ジークハルトも僕とマールの視界を遮るように立っている。
たぶん、それほどにひどいことになっているのだろう。
陛下にがっちり頭を固定されていてその方向が僕には見えないが。

「やりすぎだ…。」

バルハルト公の言葉に陛下は、何ことだ?と、とぼけてから首を傾げた。

「お前の息子の方がやりすぎだろう?」

バルハルト公は、ジークハルトの方を見ると肩を落とした。
どっちもどっちだが、被害的にはジークハルトの方がひどい。
人質の上に対策なしで床を落として犯人つぶすとか騎士のやることか?と陛下は肩をすくめた。

「反論が出来ないな…。」

バルハルト公は、頭を痛めつつそう答えた。

「さっさと上に上がれ。あと皆の荷物は馬車に置いているぞ。」

陛下はそうかと頷く。

「買い物は出来たかい?」

はいっと僕が頷くと陛下は良かったねぇと微笑んだ。

「ここでする会話ではないからな…。せめて上に上がってからにしてくれ。」

バルハルト公に促されて上へと上がる。
幸い階段は問題ない。
僕は陛下に、マールはロイスに、リオンはジークハルトに連れられて階段を上がった。
外に出ると騎士団の人達が、男たちを縛り上げていた。

「ラスティ様!!マール!!」

少し離れたところにいたノルンとトリスティが僕らに気が付いて走ってきた。

「う…うわぁ…ノルンにいちゃん!!トリスティさまあぁ!!」

マールは、トリスティに飛びついて泣き出していた。
我慢していたんだなとほっとしつつその光景を眺める。
ノルンは僕を心配そうにのぞき込んでいたが特に問題ないとみてほっと息を吐いた。

「あれ…ラスティ、手首のとこ…」

陛下が、僕の手首についていた縛られていた跡を見つける。
明るいところで見たら、結構擦り傷だらけだ。
大きな傷にはマールが薬を塗ってくれているけれど。
細かいモノや打撲が残っていた。
トリスティもマールの手首を見ているし、ノルンはロイスとリオンの二人の傷を見ていた。

「縄で縛られて馬車で運ばれていたので…こすれたみたいですね。」

痛くは無いけどもというと、今は興奮状態だから後から痛むよと陛下に苦笑される。

「ん~このくらいなら…」

陛下は、やれやれと地面に座り込んだ。
膝の上に僕を座らせると手首の傷に手を添える。

「触ったら痛い?」

大丈夫と答えると陛下は頷いた。
陛下の手が淡く光る。
手首の縄の痕が消えていた。

「え?」

この世界で回復系の能力は奇跡と呼ばれる。
癒しの力をもつのは聖者だけでは?と顔を上げ陛下を見上げる。

「うん?ああ…ラスティは知らないか…。あまり知っている人は少ないことだからね。王族も回復系の能力を持っているんだ。神力も持っているよ。回復の力は強くは無いけど。金の瞳の一族と言われる直系だけだけどね。」

バルハルト公が、顔をしかめつつ地下室から出てきた。
僕が自分の、手首をを見ているのを見てどうかしたのか?とバルハルト公は、言った。

「不思議そうな顔をしているが…ああ回復か…。今では珍しい能力だからな。神力があるのは、今の王族だとディオスと俺とジェンくらいか?。自分以外を回復できるのは、ディオスくらいだ。俺やジェンは自分の自己回復能力がある。…もしかしたら、ラスティ様が王家では癒しの力がきちんと発現するかもしれないが…、ラスティ様は、回復魔法は試したことが無いだろう?」

陛下は、そうだなぁと頷く。

「魔術の訓練が始まったら試すつもりだ。…というか…ジークハルトは試さなかったのか?」

バルハルト公は、忘れてたと豪快に笑う。
忘れることか?と思いつつもきれいに消えた縄の痕に目を丸くする。

「一応、聖者と金の瞳の王族は神が直接作った者とされているからねぇ。聖者は奇跡の力を他のものに与えることができるが王族は基本的には自分だけだ。私のように他の者が治せるのは王族でも珍しいし、小さい傷を治すくらいしかできない。」

陛下は、ついでだとマールとロイス、リオンの傷を治している。
リオンは少し落ち込んでいるように見えた。

「…発言をお許しいただけますか?」

リオンがつぶやくように自分の傷を治す陛下に言う。
陛下は、どうぞとリオンを促した。

「貴方は…ぼくがどういう状況かわかっていて放置しているのですか?」

陛下は、首をかしげる。

「君の管轄は教会だ。私が君のことに関して教会に何か言うということはないな。それに、君への教会の待遇は問題はないように思うが。」

リオンはそうですか…とつぶやくように言った。
悩んでいる様子のリオンは、言葉を探しているかのようだった。
そんなリオンを陛下は黙って、言葉を待ちながら出来ている擦り傷を治している。
陛下は、傷を治し終えてから黙ったままリオンに苦笑した。

「とは言っても、君は私の国の国民でもある。国民が助けを求めるならば…私は君を助けることも考えるが…教会が君に危害を加えている報告はないから、今の状態では私には何も出来ないよ?」

リオンは、ええと頷く。

「そちらは問題ありません…、貴方は知っているのでしょう。ぼくは癒しの力を失った。」

陛下は、そうだねと頷く。

「聖者リオン、君は6歳までは神力があったとなっているね。今は、神力が全くない。けれども、そのかわりに予言の力を得たと聞いている。聖者と呼ばれるものは過去にもそういう者はいた。予言の力は奇跡の力の最上位だ。その力があるということは君には聖者の資格がある。それに聖者は教会が定めたものだ。教会が君を聖者と言うならば私が否定することはない。」

リオンは、じっと陛下を見る。

「聖者にもっとふさわしい方を貴方は知っているのでは?」

陛下は、首をかしげる。

「私にとっての聖者と教会にとっての聖者は違うということならば、そうだが…教会が聖者を決める。私がどう思おうが関係の無いことだよ。」





リオンは、そうですか…とつぶやくとうつむいてそれからずっと黙っていた。





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