不遇王子は、何故かラスボス達に溺愛される。

神島 すけあ

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第五章 変わる関係

96 マールの決心

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ジークハルトを治療して少し休むと僕はマールとノーマと一緒に温室に籠っていた。
エスターは、今日は王宮の元々の自分の部屋にいるという。
陛下が、エスターに王宮での謹慎を言い渡しているからだ。
外にいるよりは危険は少ないだろうと陛下が僕に言った。
確かにそうだろうが…少し不安はある。
それが何かわからないが。

「どうしたの?」

ノーマが首を傾げた。

「うん…何となく不安で…。」

ノーマはうーんと唸る。
リノとしていた時に彼も少しおかしくなっていた経験がある。

「強制力とか…運命力とかそういうのかなぁ。」

僕が首をかしげるとノーマが眉を寄せた。

「この世界に正解というか運命のルートがあって…世界がそのルートに戻そうとして介入してくる力?というのかしら??たぶん…リノはエスター様の代わりだったの。そして…第二王子が悪いって勘違いして毒を飲ませた。」

わかるでしょ?とノーマは言う。
傍にいたマールが首を傾げた。

「なぜ…と聞いて良いことですか?」

ノーマは少し悩んでから頷いた。

「そうね…そうだね…簡単に言うとさっき言ったでしょ。この世界にルートがあるって。ルートって歴史に置きかえれるかしら?世界が決めたルートに戻そうとする力…、陛下は…皆…そのルートに逆らうことを望んでいるということになるわね…。だって…そのルート通りにいったら…第二王子が死ぬ運命になるから。第二王子が亡くなった罪は賢者リオン様が何かしら関わっていることになるの。リオン様はその罪のために試練を受けることになる。そして…リオン様が試練に失敗したら…世界は炎に包まれてやり直しになるの。」

マールは目を見開く。

「なにそれ…そんなのオカシイよ。」

ノーマは視線を落として雑草を丁寧に抜いた。

「そうよ…おかしいわね。本当に。でもそれがこの世界では繰り返されている。一部の人はその記憶を持っているの。わずかずつずれていることとかがあるから…意外に違和感を感じている人は多いでしょ。」

マールはちらりと僕を見る。

「…ラスティ様も…そうだということですか?」

ノーマと僕はそれには答えない。

「誰がその記憶を持っているかは…持っていない貴方は知らない方がいい。ただ…陛下達はそれを理解し…破滅の運命を避けるために第二王子を守ることを選んだという事。もちろん陛下の妃のラスティ様はそのことを理解されている。おそらく…教会も…。…陛下達は第二王子を守ることを選択したけれど…他の人はどうかはわからない。どこを守って世界の破滅を回避するかは…それぞれの考えによるでしょう。」

マールは、眉を寄せる。

「貴方は…違っていたという事?」

ノーマはそうねとつぶやく。

「……そうね…リノは違った。第二王子が死んでから始める試練を求めた…リオン様が完全なる聖者となる運命を選びとるためにね。でも…そのリノはいないわ。ここにいるのは…ノーマ。第二王子を守ってリオン様に辛い試練を回避してもらう方向にシフトした裏切者よ…。」

マールは、よくわからないと言って首を横に振る。

「第二王子という称号を持つ者がということ?だったら王子を一人にしたら…そうしたら……」

マールは少し考えて僕を見た。

「っ……ラスティ様が…第二王子の称号になる?」

そうとノーマは頷く。

「陛下は…ジークハルト様なら…その試練を超えることが出来ると、回避できると第二王子に彼を置いた。けど…リノという裏切者が出てきてジークハルト様は第一の試練に巻き込まれた。超えることは出来たけれど…第二の試練は過酷になる…エスター王子は罰としてその試練に立ち向かわないとならない…試練はあと二回は確認されている。エスター王子が超えることが出来れば…滅びは回避できるかもしれない。」

マールは、僕を見る。
僕は、頷いた。

「信じれないと思うけど…そういう事みたいなんだ…。そうだね…試練という言葉が当てはまるかもしれない。リオンが予言していたよね…ロイスに…。第二の試練は…ロイスも巻き込まれる可能性があった。現状ではその可能性は無いと思う。断言はできないけれど…第三の試練は…トリスティが巻き込まれる可能性があった…たぶん…そそれもないと思う…」

ノーマは、目を閉じる。

「リノが陛下に渡した薬の解析は…あなた方がしているのでは?」

マールが肩を揺らした。

「あれは…」

ノーマがため息をつく。

「リノの…運命に対する脆弱な抵抗。第三の試練に使われる可能性のある薬をかすめ取ったの…。」

マールは目を見開く。

「ここで君にこのことを言うのは、そういう事…。あの薬の解析はとても重要なことなの…それと…今なら…手を引けるからよ。」

ノーマの言葉に僕は目を丸くする。
マールは首を傾げた。

「陛下からの言葉でもあるの…君とノルンにこのことを話して…嫌だと言ったらあの薬の解析から手を引かせるって。解析はジェン公が引き継ぐ。君たちは…この国ではトップクラスの薬学の研究者だ。固定概念に囚われていない若さもある。ジェン公達の研究者が思いつかないような解決法も考えれるかもしれない。だから…君たちに任せたいけれど…この研究を行うということは…世界に逆らう事になる。どんな危険があるかわからないの。」

マールは目を閉じる。

「そういう事ならば…ご心配は無用です。僕だけでもその解析は続けます…ノルンも同じだとは思います。」

目を開いてマールは僕をまっすぐに見た。

「…ラスティ様…もしや……いえ…いいえ…大丈夫です。きっと僕が解析して無効化させます。」

マールはにっこりと笑う。
ふるふると手を震わしながら握りしめている。
ちょっと目が危ない…。

「とりあえず…絶対に陛下には使わせませんから。」

僕は首を傾げた。

「え?なんで??」

陛下は使わないと思うけど…。
僕の顔を見てマールは片手だけ僕の手から外した。
そして、更にこぶしを握り締めていた。

「…なんか…誤解させたか?」

ノーマは頭を痛めていた。

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