不遇王子は、何故かラスボス達に溺愛される。

神島 すけあ

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第六章 運命の一年間

153 妄想と言う名の検討 ディオスside

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ディオスは、ふと床の冷たさを感じてもう一人のラスティを見る。

「冷たいよねぇ。」

そう言うとディオスは片手でもう一人のラスティをひょいと自分の膝の上に座らせた。
あわあわと真っ赤になって慌てる姿がかわいらしい。

姿は愛しいラスティのものだ。
可愛くないはずがない。

それでいて、少しもう一人のラスティは行動は幼い。
考え方や言葉使いはラスティよりしっかりしているのは感じていたが、動きが幼いのだ。
言葉使いなどはラスティよりしっかりしているのだが、動作が幼い。
幼いというよりぎこちないのだろう。

ー体の使い方がわからないのか?ー

ディオスは、少し考えておそらくそれで間違いないだろうと確信する。
体を持っていない人格だけの存在という弊害。
たまにしかラスティの体を動かしていないから、どうも動きがぎこちない。
上手く隠しているが、稀に幼子のような行動をしている。

器用なようでどこか不器用なもう一人のラスティにディオスは少し不安を感じていた。

ーこの子に単独の体を与えて…動かせるか??ー

おそらく、彼が体を動かしているのはラスティの体に染みついている経験を利用できているからだろうとディオスは思う。
まったくまっさらの体を与えて、どこまでこのもう一人のラスティが体を扱えるのか。
最悪、はいはい状態だぞとディオスはその様子を想像してそれも可愛いかもしれないと笑い出すのを必死に耐えた。
真っ赤になったままだが、きょとんとした顔で自分を見上げているもう一人のラスティに微笑む。

ー実際に会うと…この子も可愛いのだよなぁ…ー

ラスティから分離させて使い魔にする相談を受けた時は、実はそこまで深く考えていなかった。

ーこの子が言っていたように、ラスティに寄生していた魔法生物の一種と考えていたんだよな。ー

悪いモノでもないということは分かっていたし、行動も可愛らしかったが、消さねばならなければためらいはなかったのだ。
あの時は、まだ。
ラスティが気に入っているみたいだし、小鳥くらいにして話し相手になればいいだろうと考えていた。
危険のないように力を抑えるつもりだった。

全面的にディオスを信じてるラスティには悪いが、小鳥以上の体を与えることはできるが出来ないと嘘をついた。
実際、ジェンがやったとしてもそこまでだろうとディオスは思っていた。
ラスティの周りの者でもうひとりのラスティに、小鳥以上の体を与えられるとしたらディオスだけだ。

それは、御伽噺の兄弟の創造の一族の血を現状の世界で一番濃く引いているディオスの特殊能力でもある。
基本的にはその能力を使う機会はないので、使うつもりもなかった。
ただ、こうやって直接、もう一人のラスティとして話してみると、妙な懐かしさと親近感を感じる。

ラスティとは別に、彼を特別だと感じているのだ。
この短時間で死んだ弟と重ねている自分にディオスは気が付いていた。
生まれ変わりなど信じない。
だが、もう一人のラスティは弟と同じ性質なのだなという事は言動で気がついた。
自らを大切にしない。
ディオスが最も、弱い性質の命だ。

ーこの子を世界のために殉じさせるものか。ー

聖者リオンはすでに消耗して今後起こるだろう災害から世界を守ることは出来ないだろう。
ラスティともう一人のラスティが力を合わせることで失った聖者リオンの代役となるのだろうとディオスは思う。
膝の上でおとなしくディーの様子を心配そうに見ているもう一人のラスティにディオスは目を向ける。

ー我ながら絆されやすいというか…ちょろいというか…ー

実際に意識して会うと、やはりもう一人のラスティと言うだけあって、ラスティの分身だった。
分身という言い方はおかしいだろう。
同じ目線で一緒に育った双子…いや、ラスティが育てた人格だから子か?とディオスはそこまで思ってふと浮かんだ言葉に、わずかに鼓動が上がる。

ーラスティが育てた子供と考えたら…ちょっと来るものが…我ながら危険な思考だなぁー

ここで自分が体を作ったとしたら自分とラスティの子供だよなぁと微妙な妄想をする。
自分の妄想にニヤニヤしてしまう姿は国王の威厳などないだろう。

だが、自分自身の子供というものにはディオスには少し憧れのようなものはある。
エスターは養子のようなものだし、はやくから手放して教会に行かせて手放していた。
結局は手元に戻ってきたとはいえ、複雑な関係なままだ。

妻と言う立場だがラスティは息子のような感覚ではある。
ジークハルトも居る。
マールもノルンもカワイイ我が子のようなものだと思っている。

だが、実子は今のところいない。
自分の子供というものをディオスは半分諦めている。

ラスティに産ませるという選択肢はある。
だが、ここまで子供として育ててきた子に手を出すというのは、実は抵抗がある。
紋章による欲情は感じているのは確かだが、手を出さないのはその抵抗の所為もあるのだ。

ラスティを愛しているが、本当に妻として愛しているのだろうか。
やはり子供としてでは?というディオスにも迷いはある。
今更とディオスも分かっている。
もう一人のラスティに嫉妬を感じている時点でそう言う意味で愛している。
だが、ディオスのどこかでラスティは家族で手を出してはいけないという強制力も感じる。

妻として愛していると思っているが、実は違うのかもしれない。
自分はやはり壊れているから愛情の種類がわからないのだろう。
ディオス自身はそう考えていた。

周りから見ると違うようだが、愛情の種類がディオスには、やはりわからない。

自分のことを愛せないディオスは、愛情と言う感情のがあまり良くわからないままだ。
エスターもジークハルトもラスティも可愛いし、愛しいと思う。
それぞれ少し色が違うと感じるがディオス自身が判別だがつかない。

そう言う意味でディオスは壊れているのだ。
これからはもう一人のラスティもそこに加わるのだろうと思うが、彼は他の三人とはまた違った色の感情をディオスは自分の中に感じていた。

もう一人のラスティは、子供という感覚がしっくりくる。
自分の手で生み出すというのことと、ラスティが人格を育てているという事実を考えてそう思ったのだ。
弟が死んでからは感じることを忘れていた感覚だなとディオスは思う。
家族のような親近感を何故か、膝の上に座らせているもう一人のラスティに感じているのだ。

ディオスの中で、もう一人のラスティについての聖者とは別にもう一つ可能性がある。
だがそれはラスティと分けてみないとはっきりしない。
もし…そうならば…ラスティとディオスの関係は変わるだろう。

良い方に。

ディーからの報告で知っていたが、色々とラスティともう一人のラスティが、ずいぶん前からもう一人のラスティの正体を考えていた。
ずいぶん、面白いことを何度も考えていたようだったが。
ひとり遊びとしばらくは考えて放置していたが、もう一人のラスティの存在をしってそれはそう言う事だったのかと気が付いたが。

もう一人のラスティの正体。

現状では確認の方法が無いのはディオスも同じだった。
唯一の確認できるのは胸の星。
彼が聖者と言うことだけだ。

体を作り出して、人格を分けるときに念のため確認しようとディオスは冷静に思う。
そこでディオスは、ふと彼の体について考えた。

ーいっそ子供の姿に…いや…それはダメなんだよなぁ…ー

おとなしく膝に座っているもう一人のラスティの頭を片手で撫でながらもう片方の手でディーに魔力を与える。
興味深そうにディーを眺めているもう一人のラスティは、自分もディーのような小鳥になると思っている。
自分の未来の姿を見ている感覚なのだろう。

奥にいる大物の核があれば人の姿を生み出すことは出来るだろう。
子供の姿にしてそれから、核と人格の成長に合わせて安定する外見に育てることもできる。

だが、それだとおそらく聖者として戦わねばならない彼は成長する前に消滅する。

とはいっても、ラスティと同じくらいの年齢に設定して安定させることは難しい。
休ませるためにもう一つの消費の少ない姿に変化するようにしなければならないなとディオスは思う。
使い捨ての使い魔として、数年で消える体なら可能だが、補充できるようにと考えればならない。
補充するときは人の姿ではなく小動物に変化させてこうやって外から魔力を補充できるようにすれば、補充できるほどの魔力を持つ者が傍にいれば彼はかなり長く存在できる。

この方法で行くかと、ディオスはどうするかと急ぎ検討を脳内で始めていた。

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