不遇王子は、何故かラスボス達に溺愛される。

神島 すけあ

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第七章 終わりという名の始まり

209 どうしてこうなった?? アスside

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「うそぉ…」

何もできずに抜けられたアスは呆然と気を失ったジークハルトの下敷きになっていた。
気合入れていた自分が馬鹿ではないかと情けなくなる。
心配されて逆に魔力を差し出された状態なのだ。
ディオスの魔力の半分くらいを差し出されたので消耗はさせることができているが…そうではないだろうと思う。
自分の上で気絶している男にため息をつく。
気を失っても拘束が解かれていない。
ディオスに対しての忠誠か、愛情か…まぁ徹底しているものだとアスは思う。
とはいってもジークハルトが憎いわけでもない。
このままだと完全に魔力が枯渇するなと、防御魔法を解除をした。
これ以上ジークハルトの魔力を吸い上げないよう処置をする。

「はぁ…皮肉だなぁ…」

魔力は充実している。
しばらくは、強化しなくとも動けるほどに。

「……陛下…ラスティ…」

陛下のネガティブが発動しないか心配になる。
ジークハルトの拘束が無ければ、陛下を追いかけたいところなのだがとアスは眉を寄せる。

上の戦いも決着がついたのか静かだ。
と思ったらまた爆発音がした。
一体何が起こっているのか。
気にはなるが、まずはジークハルトをなんとかしなければならないだろう。

がっちりと拘束されている。
意識はないはずなのだが。
ゆらゆらと揺するとジークハルトの目がうっすらと開く。

「ん…アス…」

うっとりとしたジークハルトの瞳にアスは、首をかしげる。
まだ意識ははっきりとしていないらしい。
魔力を急激に失って少し酩酊しているような状態なのだろう。
と、ジークハルトの手がアスの服の中に滑り込んだ。

「ひゃぁ…!!!な…何!!」

ジークハルトの手は、アスの心臓のあたりで止まって鼓動を確かめているようだった。
しばらくそうしていたかと思うとほっとしたように息を吐く。
だが、ジークハルトは、ぼんやりとアスを見ている。
完全には起きていないようだ。

「はぁ…カワイイ……」

はい?とアスは首をかしげる。

「好きだ…なんて愛らしい…愛しているよ…アス…」

アスは、頭を真っ白にさせる。
ちょっとジークハルトの表情が危険だ。

「ジー…ジークハルト…大丈夫ですか??頭でも打ちました。」

手は肌の上を這いまわっている。
アスは、これってもしかして襲われているのか?と首をかしげる。

「…アス…君を閉じ込めたいんだ…誰にも見せたくない…」

寝ぼけてとんでもない事言ってるとアスはあわてる。
魔力を失った酩酊状態以上に何かおかしい。
ジークハルトは、倒れた時にでも頭を打ったのだろうと判断した。

「ジークハルト…頭でも痛い打ちました??痛いところありませんか??」

アスの言葉にジークハルトは、優しく微笑む。

「心配してくれているのかい?大丈夫…ああ…でも…こうやって君が俺の腕の中に居てくれないと…何をするかわからないかな…」

そういいながらアスの瞼や頬に口づけを落とすジークハルトにアスはすっかり困惑していた。
どういう状態かさっぱりわからないのだ。
ジークハルトがおかしくなっているのはどうしてかがわからない。

「アス…返事をくれないか?」

アスは、なんのだろうと首をかしげる。
ジークハルトは、焦れたように目を細めた。

「俺は君を好きだと…愛していると言ったんだが?閉じ込めてもいいかと聞いただろう?」

アスは首をかしげる。

「えーっと???」

何に応えろと?とアスは思う。
好きだと愛しているに??それとも閉じ込めていいか??ということに??
何故、好きと愛していると閉じ込めてもいいか…がセットなんだとアスは眉をよせる。

「んーー???」

ジークハルトはどういう状態なのだとアスは、ジークハルトを鑑定する。
魔力不足、寝不足、疲労、以外は正常だった。
アスは首をかしげる。

「起きてます?」

ジークハルトはそれには答えない。
アスは、寝ぼけていると判断した。

「きちんと起きてから、言ってくれたら考えます。」

寝ぼけて変なことを言っている。
きっときちんと起きたら正常になるだろう。
そうアスは判断した。

「しっかり起きていたら…俺の愛を受けてくれる?」

どうしてそうなると、眉を寄せた。

「ジークハルト??」

寝ぼけているには目はしっかり開いているなとアスは思う。

「俺は本気だ…ようやく君を見つけたんだ」

こいつは何を言っているんだとアスは首をかしげる。
正気でない。
それがアスの結論だった。

「ジークハルト…しっかりしてください。錯乱しすぎです。」

アスの返事に不満だったのだろう。
ジークハルトは、少し考えている。

「……陛下と全面戦争になっても…ここで奪うか……」

そうでもしないと信じてくれそうにないと不穏なつぶやきがアスの耳に飛び込んでくる。
ジークハルトの目が危険だとアスは感じた。
おかしい、絶対に何か怖い。

「正気に戻ってください!!!落ち着いて!!!」

悲鳴に近い声をアスが上げた時だった。
ジークハルトがアスを抱えて素早く逃げる。
2人がいた場所に魔法弾が降り注ぐ。
花を守っていた防御魔法を解除したばかりなのにとアスは別の悲鳴も上げた。
だが、花は何故か動かない。
誰かが花を守ったのだろう。

「…ジークハルト…様…何しやがってますか?」

そこには、見たこともない程冷たい瞳をしたノルンがロイスを肩に抱えて立っていた。
その後ろには青くなったトリスティが、マールを背負ってついてきている。
若干トリスティが煤けているのは気の所為ではないだろう。
マールは、トリスティの背中から花を守るための防御魔法を使っている。
肩で息をしつつマールは、軽くノルンを睨んだ。
魔法弾を放ったのはノルンで、花を守ったのはマールのなのだろう。

「アス様はまだいろいろ不自由になさっている状態ですよ…今…何をしようとしました?」

マールが必死にノルンを止めようと声をかけている。
ジークハルトに拘束されたままのアスは、青くなりながらノルンとマールに声をかける。

「ノルン!!マール!!陛下を無傷で通してしまったんだ…ごめんよ…少しは粘れると思ったんだけど…」

ノルンは、にっこりと優しい笑顔をアスに見せた。

「ここにラスティ様がいないという事は…覚悟を決められたのでしょう?大丈夫です。」

それより…とノルンはジークハルトを睨む。
マールが、トリスティの背中から少し慌てた声をだした。

「ジークハルト様!!そろそろアス…様を離してくれませんか?ノルンが限界ですから!!」

マールの必死の願いにジークハルトは首を横に振る。
ディオスの元にノルンやマールを行かせることはできないと小さくつぶやいたジークハルトの言葉にアスが彼を見上げた。
ジークハルトは、微笑む。
とても悪い顔だ。

「はぁ…可愛いな…食べてしまいたい…」

ひぃと声なき悲鳴をアスは上げる。
ジークハルトが壊れたとしかアスには思えない。
なんだこの変わりよう、と逃げようとするが拘束は緩まない。
アスの頬に口づけながら、ジークハルトはノルンを横目で見た。

「ふふ…相手にとっては不足なし…」

アスは、ジークハルトがノルンを煽るための餌にされていることに気が付いた。
そう思うと、少しジークハルトがいつもに戻ったのかとほっとする。
だが、別の危険が目の前にあった。
冷静なノルンが何故かぶち切れている。
いつもは隠している能力が全開状態で臨戦態勢。

「一度…本気のお前と戦って見たかったんだよなぁ。」

ジークハルトの楽し気な声に、アスはこの戦闘狂が…と顔をゆがめるのだった。

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