お嬢様と魔法少女と執事

星分芋

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第三十二話①『夏休みの想い人』

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 兜悟朗とうごろうからの連絡を受けて数日後に嶺歌れか形南あれなと遊ぶ約束を交わしていた。

 久しぶりに招かれた形南の自宅に気持ちを高鳴らせながらも兜悟朗にも同時に会える喜びで嶺歌の気持ちはこれ以上ない程に上昇していた。

 当日は形南と兜悟朗がリムジンで迎えに来てくれるのだと言う。

 何かあるといつも迎えに来てくれる彼女らの意向に、嶺歌は有難さを感じながらいつでも出られるように準備万端の状態で待機していた。

『ピンポーン』

 インターホンが鳴り、嶺歌が応答すると兜悟朗の声が耳に響いた。

 自分が彼の声を聞いてこうなる事を分かっていながらも、嶺歌は己の気持ちの高鳴りが止められない事に嬉しさを感じる。

 兜悟朗という一人の人間に恋をしている今の自分が好きだ。

 楽しくて、声が聞けただけで嬉しく幸せな気持ちになれる。それがまた嶺歌の気分を上げていた。

 それからすぐにエントランスの方へ足を運ぶといつものように清潔感のある執事姿でこちらに丁寧な一礼をする兜悟朗がいた。

「嶺歌さんお久しぶりで御座います。お元気そうで何よりです」

「お久しぶりです。連絡、ありがとうございます」

 嶺歌は気持ちの高揚を抑えながら兜悟朗にそう言葉を返す。好きな人とのやり取りはどのような会話でも心が弾む。それがまた不思議でしかし嬉しい。形南もこのような気持ちでいつも平尾と接しているのだろうか。

 すると兜悟朗は直ぐに嶺歌をマンションの敷地外に停車させているリムジンへと誘導してくれる。

 彼は他愛もない話をこちらに振ってくれ、そんな彼とのやりとりに終始胸を躍らせていた。

 そして一瞬でリムジンの元へ到着すると形南がこちらに大きく手を振り、嬉しそうな顔をして「嶺歌!」と声を掛けてきた。

 彼女の天真爛漫な笑顔に嶺歌も先程とはまた違った嬉しい気持ちが湧き起こる。

「おはようあれな。誘ってくれてありがとね! めっちゃ楽しみにしてた」

「ふふ、こちらこそお受け下さりありがとうですの。本日はたくさん楽しみましょうね! ささ、お乗りなさいな」

 そう言って形南は嶺歌に手を伸ばす。今日はどうやら形南がエスコートしてくれるらしい。

 嶺歌はその形南の行動に対して嬉しい思いに駆られながらも彼女の手を取りリムジンの中へと乗り込む。

 そうして素早く兜悟朗が運転席につくとそのまま黒いリムジンは発進して高円寺院こうえんじのいん家の元まで向かい始めた。



「いらっしゃいませ和泉いずみ様」

 嶺歌れか高円寺院こうえんじのいん家に訪れると数多のメイドや執事に出迎えをされた。少なくとも五十人くらいはいるのではないだろうか。

 以前訪れた時はなかった事なので驚いていると形南あれながくすくすと笑いながらこちらに声を掛けてくる。

「嶺歌、とても驚いていらっしゃるのね」

「今日はどうしたの? この人数は流石にびっくりした」

 嶺歌がすかさずそう答え質問すると形南は最近の高円寺院家の事情を説明し始めてくれた。

 何でも夏休みに入ってから時間がいつもより取れるからと、形南の専属メイドをもう一人採用しようという話になり、一時的にメイドの人数を増やして試用期間を設けているらしい。

 候補者たちが日替わりで形南のお世話をしていき、形南が総合的にどのメイドが専属に相応しいのかを審査するという話であった。

 そのためこうして多くの形南の専属メイド候補者が高円寺院家に滞在しているのだと言う。試用期間は三週間らしく、あと一週間はこれほどの人数が高円寺院家に滞在するのだとか。

「メイドさんもきっちり考えて採用してるんだね」

 形南の専属メイドは以前会ったエリンナ一人だけだと思っていたのだが、あくまで一番そばに仕えさせる人物が彼女なだけで、基本的には専属メイドは五人程控えているのだと言う。それはメイドに限らず執事も同じようだ。

 つまり形南には計十人の専属従者が存在する事になる。

「基本的には兜悟朗とうごろう一人をそばに仕えさせているけれど、女性でしか話せない事柄などは全てエリンナに相談していますのよ。残りの者達は時々わたくしの指示でそばに控えさせるのですの」

 形南の従者に関する話を今回初めて事細かく聞いた嶺歌は、そのような仕組みで高円寺院形南は守られてきているのだと理解した。

 いつも兜悟朗がそばにいる印象が強いため、兜悟朗が完全に一人きりで行っているのだと思っていたが、エリンナや他の執事、そしてメイド達も陰から形南を支えているのだ。それはとてつもなく頼もしい話であった。


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