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第三十二話②『夏休みの想い人』
しおりを挟む「なんかそんなにたくさんいるって思うと心強いね。聞けてよかった」
嶺歌が笑みを向けながらそう言葉にすると形南はあらと言いながら嬉しそうに口元に手を当てて微笑み返してくる。嶺歌の感想が嬉しいといった様子だ。
「本日は子春が私の専属としてお付きしますの。子春、挨拶なさい」
そう言って形南が後ろに控えていた一人のメイドに声を掛けるとその女性は一歩前に出てロングスカートを持ち上げながら華麗に挨拶をしてくる。
「和泉様お初にお目にかかります。本日形南お嬢様にお仕えさせていただきますメイドの村国子春と申します。以後お見知り置きを」
メイドの子春は目を伏せながら小さく一礼をすると顔を上げて嶺歌をそっと見つめる。
彼女の文句ひとつ出ない程に綺麗なその所作は、形南の専属メイド候補としての優秀さを醸し出していた。嶺歌も直ぐに彼女にお辞儀を返し、言葉を発する。
「初めまして、和泉嶺歌です。こちらこそどうぞよろしくお願いします」
そう言って彼女の真っ直ぐこちらを見据える視線に失礼のないよう目線を返すと、子春はニコリと柔らかな笑みを向けてくれた。
微笑み方もピカイチだ。もしかしたら彼女こそが今回の専属メイドとして認定されるのかもしれない。
そう思う程に彼女はメイドとしての品格も美しさも兼ね揃えていた。
(兜悟朗さんも凄すぎるけど、メイドさんも皆ホントすごいな……)
エリンナと子春を見て心の底から本当にそう感じられていた。
するとそんな様子を見ていた形南は唐突に思いも寄らない情報を口にしてきた。
「実は子春は、兜悟朗の後輩なのですのよ」
「えっっ!?!?!? 兜悟朗さんの!?」
そう聞いて嶺歌はもう一度子春に目線を向けた。
彼女はこちらを和やかな笑顔で見つめ返すと「左様で御座います」と形南の言葉を肯定する。兜悟朗の後輩という事は、彼と同じ学校を卒業したという事なのだろうか。
そう思っていると少し離れたところで静観していた兜悟朗が口を開き始めた。
「村国は私が第三学年の際に第一学年として入学してきた後輩なのです。当時私は高等部で、彼女は中等部で御座いました」
つまり兜悟朗と子春は五歳離れているということになる。
その話を聞いて嶺歌は学生時代の兜悟朗のことをもっとよく知りたくなってきた。だがそれは今このタイミングではないだろう。
そう考えながら関心があるようにも無関心にも見えないよう意識して言葉を返すと、兜悟朗は微笑みながらこちらを見返してきた。
目が合うだけで、嶺歌の心は天にも昇りそうな思いに駆られる。
「宇島先輩には大変お世話になりました。ですから今回このような形で形南お嬢様に先輩と共にお仕えできます事を心より嬉しく感じております」
すると子春はそのような丁重な言葉を発して再び綺麗な一礼を披露してきた。
本当に美しいその所作は、嶺歌も思わず自分もこのような美しいお辞儀ができたらと感じ始めてしまう程である。
「村国、こちらでは私をそのように呼称するのは控えますように。形南お嬢様に失礼のないよう気を付けるのですよ」
兜悟朗は優しく諭すように子春にそう言葉を発すると、彼女はハッとした様子で申し訳御座いませんと形南と兜悟朗に深い謝罪をする。
嶺歌としては全く違和感がなかったのだが、先輩と呼称したのがよくなかったのだろうか。財閥にも財閥のしきたりがあるのだろう。
そう思いながら三人の様子を静観していると気を取り直した形南が「それでは嶺歌、長くなりましたがこれからアフタヌーンティーでもいかが?」と嬉しい提案をしてくれる。
「いいの!? めっちゃやりたい!」
そう返すと形南は満面の笑みをこぼし、兜悟朗と子春に準備に取り掛かるよう指示を出す。
二人は嶺歌と形南に一礼をしながらそのまま長い廊下の奥へ颯爽と消えていった。
兜悟朗の離脱に少々寂しい思いを抱きながらも嶺歌は形南との時間に意識を戻す。こんな考えでは彼女に失礼だ。
「ありがとうあれな。会った時にとっておいた話したい事が色々あってさ、聞いてくれる?」
「勿論ですの! 人払いが必要でしたらいつでも仰ってね! 内緒話も大歓迎ですの! 嶺歌のお話、とっても楽しみだわ!!」
形南は親しげにそんな風に答えてくれる。嶺歌は本当に彼女が友達でよかったと改めて実感しながら、形南と二人でアフタヌーンティーの会場へと足を運んでいった。
第三十二話『夏休みの想い人』終
next→第三十三話(8月1日更新予定です)
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