お嬢様と魔法少女と執事

星分芋

文字の大きさ
108 / 164

第四十二話②『自覚するのは』

しおりを挟む


 そう思い絶望的な感情が押し寄せてきた嶺歌れかは、しかしその後すぐに起こった出来事にまた別の意味で目を見開いていた。

 兜悟朗とうごろうは女性たちに何やら手を振って誘いを断っているようなそんな様子を見せていた。

 しかし女性たちはしつこくしているのか否か、兜悟朗の仕草を見ても中々離れようとはしない。

 だが兜悟朗が深いお辞儀をして見せると彼女たちは諦めたのか彼のそばから重い足取りで遠ざかっていく。彼女らの表情は全員が残念そうな、そんな目をしていた。

 その光景を見ていた嶺歌は心の中でそれを嬉しく思う自分がいた。

(ナンパ、断ってくれたんだ)

 じんわりと胸の奥が熱くなる。

 兜悟朗に話しかけていた三人の女性達は清楚で綺麗なお姉さんというイメージが強かった。きっと多くの男が彼女らを放ってはおかないだろう。

 そう思えるほどに女の嶺歌から見ても美しく秀麗な印象がある三人だったのだ。そんな彼女らの誘いを断って彼は一人を選んだ。それがとてつもなく嬉しい。

 嶺歌ははやる気持ちを抑えながらも兜悟朗の元へ急いで足を向けた。

「嶺歌さん、どうされました? 何かお忘れものでしょうか」

 兜悟朗は先程と変わらない穏やかな笑みで嶺歌にそう尋ねる。

 まるで何事もなかったかのように話す彼はやはり自分より遥かに大人であるのだと、嶺歌はそれを実感しながらもレジャーシートに腰を下ろした。

「いえ、あれなと平尾の様子がいい感じだったので、戻るのは止めました」

 そう言って嶺歌が兜悟朗に笑みを向けると、彼は「そうで御座いましたか、有難う御座います」と自分の事のようにお礼を述べてくる。本当に、兜悟朗にとって形南あれなの存在は大きいのだとその彼の言葉で改めて感じていた。

 しかし兜悟朗への気持ちが大きくなっても形南と兜悟朗の二人の関係に嫌な思いを抱く事は本当になかった。

 きっと互いが恋愛対象ではないと、嶺歌も十分に理解しているからなのだろう。

「平尾様の呼び名を変えられたのですね」

 すると唐突に兜悟朗とうごろうはそんな言葉を口にする。

 嶺歌れかは突拍子もない言葉に驚いて思わず「えっ?」と声を出していた。まさか平尾の呼称表現について彼から言及されるとは思っていなかったのだ。

 兜悟朗の方を見ると、彼は口元を緩めながら「平尾様との仲も良好なようで安心いたしました」と言葉に出してくる。

「実は夏休みの間に電話したんです。平尾があれなとのデート服を悩んでたので相談に乗ってて、その時に呼び捨てにして欲しいって言われたんです」

「あっでも、それはあたしが普段男子を君付けで呼ばないからそれが嫌なだけみたいで……別に変な意味はないんですお互いに」

 嶺歌は自分が何か言い訳がましい事を口にしているのではないかと自覚しながらも、兜悟朗に変な誤解を与えたくないがために必死になって説明を続けていた。万が一にでも兜悟朗にだけは、平尾を嶺歌が好いていると思われたくなかったのだ。

「嶺歌さん、焦らなくとも大丈夫ですよ。僕は誤解をしている訳ではございません」

 すると嶺歌れかの意図を察してくれたのか兜悟朗とうごろうは微笑みながらこちらにそんな言葉を投げてくる。

 嶺歌はその言葉に安心して、早口になりかけていた口を一度閉ざした。

「嶺歌さんがお二人との仲を深められている事柄も、僕には嬉しい事なのです。ですから今後もどうぞ宜しくお願い致します」

 そう言って小さな会釈をしてくる。嶺歌もその姿を見て咄嗟に声を出していた。

「勿論です! あたしも二人と仲良くできる事は嬉しいので」

 嶺歌がそう返すと兜悟朗は口角を上げたままこちらを見据える。優しい笑みだ。それを自分に向けてくれている事が嬉しい。

「有難う御座います。是非、僕とも今後の関係を続けていただければと思います」

「も、ちろんです」

 途端に嶺歌の言葉はつっかえていた。兜悟朗のこの予測不可能なとんでも発言に嶺歌は何度も動揺してしまう。

 兜悟朗が嶺歌をそのような目で見てはいなくとも、彼にとって普通以上の、そんな存在にはなれているのかもしれない。これは自惚ではなく、兜悟朗の態度全てから感じ取れていた。

 少なからずそれが、兜悟朗の一言一句に何度でも心が踊らされてしまう要因ともなっている。

 彼の言葉に酔いしれるように、嶺歌は頭を俯かせるとペットボトルを手に取ってから特に意味もなくキャップを開け閉めするのであった。


第四十二話『自覚するのは』終

            next→第四十三話
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

処理中です...