3 / 61
3 『回生』の書
しおりを挟む
「未来!!」
動悸と眩暈と後悔が渦巻く。
自身の耳朶をも貫く様な声で、私は君の名を叫んだ。
アルコールの力を借りて『回復』だなんて言い訳だ。それは『現実逃避』…私は、逃げたのだ。
上手く立ち回れない苛立ちから。
"勇者"の召喚士として、なんと愚かで狡く最低な行動をしてしまったのか。
『未来』と名付けたその名は君を揺さぶる。小さな指が微動するのを見逃さなかった。
生きてる…!
唇が変色して紫。声も出ていない。これは窒息の兆候。
咄嗟に印を組み詠唱する。
嗜んだ程度ではあるが、攻撃魔法を組み換え加圧の術式を未来の身体に施す。酸素の循環を整えた。
「ぁ…」
掠れた声が漏れた。
ギュッ!
その瞬間、私は小さく柔らかな温もりを抱きしめた。
ふわふわの髪に指を通し、柔らかい頬に頬擦りをする。そして口付けをする。
白糖乳を飲まない、ではない。
「飲みたい」と君から欲するのを待たねばならなかった。
二度と放置などしない。
君を愛おしく抱きながら寝台のシーツを新しく敷き、顔の位置を合わせるための添い寝を。
「あーうー」
機嫌の良い未来の声は、すぐ側で、鈴を転がすように可愛らしい音となり響いた。
頬に触れる私の指を、君は小さな手で器用に口に運ぶ。チュッチュッと咥え、やがて安心したように目を閉じる。
寝息を立て始めたのを見て私は安堵の息を吐く。
『愛しい』という感情は…擽ったい。
【召喚士は転生者に過ぎた愛情を向けてはならない。世界のため勇者候補を『服従』させよ】
世界資格を持つ召喚士の規則だった。
【勇者候補を死亡させた場合、其の召喚士は死罪と処す】
…。
未来に毛布をそっと掛け直すと寝台から降りた。机に向かい、引き出しから取り出すのは羊皮紙と筆。
世界が認定する"召喚士"
そんな特務職に私は不向きだったのだ。転生者を命の危険に晒してしまった。
然るべき審査を受け、その罪状を受理しなければ。
未来…
君は今後、才ある召喚士に育てられてもらうことになるだろうね。どうか、立派な勇者に育ってほしい。
伝書鳩に自白をしたためた封書を括り付けた。宛先は調査院。世界調査士の元へ。
調査士は判定士と罪の善悪を判断し、それを審判する。
速度を上げる魔法を鳩に付与した。恐らく、明日の早朝には封書は届けられる。
木枠に腰を掛け窓を開いた。
夜風が入り込み、酒気と火照りを何処ぞへと攫って行った。
動悸と眩暈と後悔が渦巻く。
自身の耳朶をも貫く様な声で、私は君の名を叫んだ。
アルコールの力を借りて『回復』だなんて言い訳だ。それは『現実逃避』…私は、逃げたのだ。
上手く立ち回れない苛立ちから。
"勇者"の召喚士として、なんと愚かで狡く最低な行動をしてしまったのか。
『未来』と名付けたその名は君を揺さぶる。小さな指が微動するのを見逃さなかった。
生きてる…!
唇が変色して紫。声も出ていない。これは窒息の兆候。
咄嗟に印を組み詠唱する。
嗜んだ程度ではあるが、攻撃魔法を組み換え加圧の術式を未来の身体に施す。酸素の循環を整えた。
「ぁ…」
掠れた声が漏れた。
ギュッ!
その瞬間、私は小さく柔らかな温もりを抱きしめた。
ふわふわの髪に指を通し、柔らかい頬に頬擦りをする。そして口付けをする。
白糖乳を飲まない、ではない。
「飲みたい」と君から欲するのを待たねばならなかった。
二度と放置などしない。
君を愛おしく抱きながら寝台のシーツを新しく敷き、顔の位置を合わせるための添い寝を。
「あーうー」
機嫌の良い未来の声は、すぐ側で、鈴を転がすように可愛らしい音となり響いた。
頬に触れる私の指を、君は小さな手で器用に口に運ぶ。チュッチュッと咥え、やがて安心したように目を閉じる。
寝息を立て始めたのを見て私は安堵の息を吐く。
『愛しい』という感情は…擽ったい。
【召喚士は転生者に過ぎた愛情を向けてはならない。世界のため勇者候補を『服従』させよ】
世界資格を持つ召喚士の規則だった。
【勇者候補を死亡させた場合、其の召喚士は死罪と処す】
…。
未来に毛布をそっと掛け直すと寝台から降りた。机に向かい、引き出しから取り出すのは羊皮紙と筆。
世界が認定する"召喚士"
そんな特務職に私は不向きだったのだ。転生者を命の危険に晒してしまった。
然るべき審査を受け、その罪状を受理しなければ。
未来…
君は今後、才ある召喚士に育てられてもらうことになるだろうね。どうか、立派な勇者に育ってほしい。
伝書鳩に自白をしたためた封書を括り付けた。宛先は調査院。世界調査士の元へ。
調査士は判定士と罪の善悪を判断し、それを審判する。
速度を上げる魔法を鳩に付与した。恐らく、明日の早朝には封書は届けられる。
木枠に腰を掛け窓を開いた。
夜風が入り込み、酒気と火照りを何処ぞへと攫って行った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜
具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです
転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!?
肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!?
その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。
そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。
前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、
「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。
「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」
己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、
結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──!
「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」
でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……!
アホの子が無自覚に世界を救う、
価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
異世界ママ、今日も元気に無双中!
チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。
ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!?
目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流!
「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」
おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘!
魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる