イクメン召喚士の手記

まぽわぽん

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4 『ともだち』の書

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トントン…トントントン♪

朝焼けが広がりゆく東の空の時刻、遠慮がちに部屋のドアを叩く音がした。
客人の来訪にしては随分と早い。

「どちら様でしょうか」

未来に白糖乳を飲ませ、背中をトントン叩いてげっぷをさせたばかり。そっと寝台に置くと機嫌良さそうに手足を動かしていたので、客人に向かった。

「お待たせしました」
「やぁ!SS級召喚士の加護様っすよね!選抜検定試験、過去にないトップ成績保持者の。どうもどうも、お会い出来て光栄の至り。オレは千の手と書きまして『センジュ』て名で、世界調査士やってまーす。加護様に少し劣る美青年なのが悔しいっす。マウント取りたいのにがっかり!」

小声でテンション高く大仰に名乗るのは、中に居る転生者を気遣っての事だろうか。
いや、それにしても…

「千手様、封書をもうご覧に?」

断りもなく部屋に入ってキョロキョロと観察する千手。未来を見てニコッと笑ったあとに棚からグラスを二つ取り出した。
テーブルに置き去りの葡萄酒をグラスに注ぐ。

「読みましたよ?長文だから掻い摘んで♡ ま、だからこうして高速処理をしに来たわけなんす」

グラスの一つを私に差し出す。手で遠慮すると「挨拶だから」真顔で言われて乾杯した。

「高速処理か。焦らされるのが苦手なので結論を願います、千手様。私は死罪になりますか。転生者を危うく死なせるところだった。それに、転生者を可愛いと思い慈しんでしまう。正直、勇者育成への自信も…半月で喪失している」

千手は二杯目の葡萄酒を手酌しながらニヤリとする。
「例えばねぇ」徐に、私のローブをグイッと引っ張り胸元をはだけさせると、顔を寄せて唇を首筋に当ててみせた。彼の熱い息が掛かり私の身体はヒヤッと硬直する。

「慈しむ者がどうの、じゃないのよ…加護様。過度の愛情があるのかどうかは相手の反応次第でわかるでしょ。ね、加護様、オレの愛は重く嫌でしょ?」

あとはね~と言いながら未来を慣れた手つきで抱くとあやす。

勇者レベル :  0
ステータス「体力」「精神力」: +2

「転生者の回復の速さだけどぉ。窒息寸前からの処置が的確、加圧魔法とヒーリングの回復魔法の施しだよねぇこれ。一般の召喚士じゃ出来ない芸当なのよ。ふつー死んでるよ、勇者候補」

つまり…と言いながら千手は未来を私に手渡す。

「ま、罪なんて元から無い。助けるために必死になれる者が罪に問われるもんかってね!加護様のは『愛ゆえに』の想いが真面目過ぎただけの『召喚後の憂鬱』でーす。よくあるよくある!」

よくある?
精神の弱さも自身では全く感じていなかったが、召喚後の憂鬱?この私が?
訝しむ私に千手は頷く。

「召喚後は転生者も不安定なんすけど召喚士の方がより不安定なんすよ。命懸けで世界のために勇者候補を召喚しますから。…て事で、オレは加護様の様子を特に調査してた。でもって調査の結果なんすが…」

加護は未来を抱く私にガバッと抱き付いた。その勢いで尻餅をつく。

「千手様?これは一体…。私は調査の結果、どうなるというのか」

千手はより一層、抱き締める腕に熱を込める。すんすんと匂いまで嗅いだりして、少し気持ち悪い。

「はぁぁ~オレは好きっすね萌えるっす。天才肌の人が凡人を醸し出すギャップが!調査しに来てしてホントよかった~」
「良かったとは…?千手様、私は死を覚悟して封書を送ったのだが。決して良くない」

うんうん♪と聞いてるような聞いてないような千手は、私の耳元で囁いた。

「今日からオレと加護様は『マブダチ』だからよろしくっす。憂鬱の改善は、相談できる友達とストレス発散が一番なんすよ」

調査…
独りよがりとも言える審判の結果のようだ。私には死罪もお咎めもなく、『召喚後の憂鬱』という心の病の診断、勝手なことに『友達』も処方されたらしい。

腕に抱く君の小さな人差し指が、私の鼻の穴を襲撃する。目尻に涙?チクリとした痛みが、気分を晴らそうと悪足掻きするみたいだった。
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