イクメン召喚士の手記

まぽわぽん

文字の大きさ
上 下
27 / 61

27『塵灰渦中①』の書

しおりを挟む
虫の知らせ、だったのか。
それとも貴殿に呼ばれたのか?

部下だけでは手に負えない事件を追い、片付けた後の、辺境の地で起きた大爆発だった。

「尋常じゃないな。少し様子見して来るか」
「えぇ!?不知火院長、まだ働けと!?」
「ギャーギャー喚くな!諸君らがきちんと働いてたら俺が態々わざわざこんな辺境まで出張って来ることなど無かった。俺の時間だ、働いて返せ!」
「うぅ…」

戦闘院を示す深紫の外套を翻すと、渋々の体で部下が続いた。

辺境だと言うのに半壊した建物と粉塵、多数の魔物の蠢く影、そして蔓延した血の匂いが色濃く漂っていた。
傍に転がっているのは、恐らく白衣を着ていた人間だったと思われるもの…。

「酷いものだな」

戦闘院の者として当然、放置はできない。
状況確認と生存者確認を。そして急ぎ魔物を排除しなくては!

「諸君らに命ずる!」
不知火が声を荒げたとき、濃紺の外套を靡かせた男達が前方を塞いだ。

この外套は…!
此処に居るには場違いとしか思えない。

「戦闘院の者達よ。この建物は、元より我ら宮廷騎士団の管轄である。速やかに退却せよ!」

威丈高、声高々に先を封じる。
何だと?これほどの惨事を放って帰れ!?

「戦闘院は世界に準じる機関!何が起こったのかを知り救命に携わりたく思う!」
「必要ない。去れ!」

聞く耳すら持たないか。それでも…としぶとく声を出そうとしたが「不知火院長、駄目です!ここは引きましょう」部下が嗜め、自分以外の存在が居ることを飲み込んだ。

建物から死角に入ったところで部下が深い溜息をつく。

「どうせ何をどうとしても確認に向かう!と仰られるのでしょう?」
「諸君らは置いて行くが」
「これで問題が起きたら院長は辞任しなくちゃならなくなるって、わかってます?」

外套を外し、戦闘院とわかる紋様の腕輪も外す。

「辞任だろうと左遷だろうと、諸君らの誰かが代わりに院長になればいい。俺が厳しく教えて来ただろう!安心していいぞ」
「安心できませんよ!ああ、もう!お気を付けて!!」

せっつく声を背中で受け止め粉塵の中に飛び込んだ。無論、宮廷騎士団の死角を狙い抜いて走る。

畜生。魔物の数が多い…!
騎士団が現れたという事実は世界の中枢"宮廷"が関与していることを指す。どういう事だ!?
舌打ちしながら生存者を探す。

やがて
炎と黒を背景に、生存者。

「あ…れ?不知火教師?久しいね。困ったら呼べ、前にそう言ってたから名を呼んでみたけれど」

見知った人物と視線が交わる。

「木蓮殿…。呼ぶのが遅いぞ!何があった!?鍛え足らずな上腕二頭筋どころか、その腕はどうした?」

スゥ…と肝が冷えるのを感じる。
ボロボロのローブは元の色を忘れたか、木蓮から溢れる血で真っ赤に染まっていた。
しおりを挟む

処理中です...