イクメン召喚士の手記

まぽわぽん

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28『塵灰渦中②』の書

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血染めのローブを揺らし木蓮は痛みに顔を歪める。不知火は彼を支えた。

「あぁ腕ね…。筋力を鍛えていなかったツケが出たのだろうけれど…うっ!
参ったな…痛みに慣れてから加護のところに行きたい。頼んでもいいだろうか。少しの間、僕を狙う魔物を排除して欲しい」
「馬鹿を言うな。それより"転生者"も此処に居るのか!?だとしたら魔物を排除したあと俺が向かうぞ」
「ダメだ。これは勇者選抜試験の最終項目…僕と加護の問題だから」

襲い掛かる魔物を弾く。

反吐が出る!
目も腕も失う大怪我を負い、魔物が暴挙しても誰も咎めに来ない試験などあり得ない。

「はぁ…。動けるようになってきた…かな。不知火教師は誰にも見つからないうちにこの場から離れるように」
「俺を気にしている場合か!」
「気にもするよ。全て全て消される試験だろうと気付いたからね」

"転生者"も"召喚士"も"此処に居る命"全てを消す…!?
世界の中枢"宮廷"の意思が?

「馬鹿な。世界にとって"勇者候補"並びに"勇者"の存在意義は何だと言うんだ!」
「形だけ必要な『厄介者』なんだろう。理由なんて知りたくもないね。
ともあれ、そんなのどうでも良い。僕の大切な"転生者加護"を泣かせ、世界の思惑で排除させるというなら反抗するよ、召喚士保護者だから」

木蓮は引き摺るような足取りで爆発の余波が強い中心部に向かった。追って来るな、痛々しい背中は頑なに語っていた。


勇者は
だとすればのは何だ?


「無事に戻られて何よりです!院長、状況確認は!?」

部下から外套と腕輪を受け取りながら、不知火は粉塵が舞い黒煙が上る空を振り返る。

「手に負えない状況下だった。火の粉を払うくらいには動きたいと思ったぞ、俺は」

"転生者"が泣き"召喚士"が憤る…
『世界』は間違っている。
それを目の当たりにしてきた。

* * *

「葉巻を吸うのか吸わないのか、判断が難しいよね~。さあどっち?」

フワッと揺れる三つ編みと笑顔が目の前に飛び込んだ。世界判断士の弥勒だ。

「おぉ。調査院の嬢ちゃんじゃないか」
「戦闘院のトップである貴方が加護クンに会いに来た理由が知りたいなー♡て思うシチュエーションだったので声をかけちゃったわ」
「俺は講義を中座する不届きな教え子に個人指導しに来ただけだ」
「うわわ!まだやっていたのね、講師のアルバイト」
「時給は悪くないぞ。嬢ちゃんは何をしに来た?」
「わたし?加護クンに、少し冷めたカカオ茶を淹れてもらうの♡」

そう言いながらも防護魔法の強度を確かめていた素ぶりだ。
弥勒が取り出した火に葉巻を添え、二人は「目的は似てる?」微笑した。

「なぁ嬢ちゃん。世界が"勇者"を『厄介者』とする場合があるなら、その理由は何だと思う?」

巨漢のアルバイト教師が出題する問いの奥を、弥勒は考える。

「そうねぇ。直感で応えるなら『絶対的な魅力』と『保護と寵愛の吸引力』。一言で表すなら"嫉妬の対象"だから」

さすがは判断士の思考力と思うところか。
不知火は葉巻の味を噛み締めながら「嫉妬は確かに厄介だな」独りごちた。

吐き出される葉巻の白煙は空気に溶けて消えて行く。溶けて消え行くのは勇者選抜最終試験も同じ。
"転生者"や"召喚士"が誰知らぬところで不要だと揉み消されている。灰の跡が動かぬ証拠だ。

あの時は未然で済んだが、
そんなふざけた状況にしてはいけない。
戦う相手は自身が選んで臨む。何が良くて何が悪いのか…。
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