イクメン召喚士の手記

43『主人の性(さが)』の書

女帝陛下だろうと宮廷騎士団長のきみからの命令だろうと従いたくないね…。

『無礼者！口を慎め！！』
パンッと平手打ちされた頬は熱と腫れを伴った。

「あー嫌だ嫌だね。娘さんを下さいと言われる親御さんの気持ち？それに近いのかもね。僕の"転生者加護"はあげたくないし、あげないよ」

木蓮は指輪の無い指を頬に充てながら、手当てにすらならないね…と独りごちる。

傲慢な宮廷騎士団長は『奴隷所有者許可証』を提示し、所有権を破棄しろと命じた。

「所有されたモノはゴミ扱いすら出来ぬ。つくづく、人間とは回りくどい方法を好む面倒な生き物だ。クソがッ」

唾を吐くかのように吐き捨てていた。

「その物言い…。きみは人間では無い何かのようだ」
「俺の主人は、俺が何であろうと構わないと応えたがな」
「世話する者が何者であっても構わないのが主人の性さがだからね」
「ならば、噛み付きたくなるのが世話される者の性だろうよ」

木蓮は引き摺られるように地下牢に放り込まれた。
冷たく湿った空気に壁に苔、ポチャンポチャンと滴り落ちては床に溜まる水。此処は水牢で処刑場だった。
時間が経てば溺死、運が良ければ寒さで凍死か餓死。

「奴隷の手続きなど取るに足らん。全て何もなかったで消せるのだ。穏便に事を済ませようとしたが無駄な時間だった。…貴様は此処で死ね」

錠を下ろし地上に向かう濃紺の外套と会話が耳に残る。振り払うように首を左右に振った。
木蓮は愛しく大切な"転生者"を想う。

「加護も僕に噛み付いてくれたらいいのにね。甘え下手なのは前世元からかい？」