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     レナード視点

「僕が何をしようが、誰に抱かれようがレナードには関係ないだろっ!」
 誰かに抱かれるだと?
 俺に対する当て付けにしたって度が過ぎる。
 あんな…あんなに官能的に誘うなんて。
「ジュリアス!」
 怒りと他のよくわからない感情に突き動かされ、押し倒し、抱きしめた。
 乱れた髪に涙を湛えた瞳。
 露出した肩、はだけた胸。
 このまま貪りつくしたい。
 なのに…なんなのだ、この冷えきった血の気のない身体は?
 震える冷たい手を俺の頬に添えて、
「抱いてみてよ…僕はきっとマーカスより上手に出来るから。」
「馬鹿な事を言うな。」
 怖かったんじゃないか。
 男達の欲望に満ちた目に晒されて、ジュリアスが平気なはずはないじゃないか。
 きっと今は俺の事も怖いはずだ。
 深いため息とともに身体をおこした。 
「ジュリアス、もう俺の事は諦めてくれ。
 お前は俺がいなくても大丈夫だろう。」
「ああ、僕は大丈夫だよ。
 僕は何だって自分で出来るから。
 なんでわかんないの?
 大丈夫じゃないのはレナードじゃないかっ!
 僕にレナードが必要なんじゃない!
 レナードに僕が必要なんだろ!
 帰る家が無いなら僕に帰ってくればいい!
 僕の隣にいたらいいじゃないか!」
 そんな子供のような理屈を喚くように俺にぶつける。
 その通りかもしれない。
 ジュリアスがいてくれたらこの虚しさは埋められるだろう。
 だけどジュリアスを犠牲にしてはいけない。
 俺が望む関係とジュリアスが望む関係は違う。
 今は自分の身体を犠牲にしてまでも俺を引き留めようとしているが、いつか後悔するだろう。
 シャツのボタンを留める手に、涙の粒が落ちる。
「俺の為に泣くな。」
 抱き寄せずにはいられなかった。
 欲望とは別の感情で、優しく。
 ジュリアスの震えが治まるまで。
「もうあんな事はしないでくれ。今でもお前の事は大切に思っている。
 だけど俺にはここがお似合いで、ここはお前が来る所じゃない。
 もう、ここには来るな。」
「…嫌だ。」
「なら俺はまたどこか別の場所を探す。
 お前にみつからない所へ行く。」
 俺の服をきつく握りる。
「行かないで。」
 ああ…愛しい。
 確かに俺にはジュリアスが必要だ。
 ずっと抱いていたい。
 ドアをノックする音がした。
 外でマーガレットが、
「ジュリアスの上着を持ってきたから、ノブに掛けておくから。」
 ジュリアスの顔色が変わった。
「もう帰る。」
 ドアを開けてマーガレットを睨む。
「…いい気になるなよ。」
「ジュリアス…。」
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