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61 ジョゼフィーヌ・ラッシェル子爵令嬢(1) ジョゼフィーヌ視点
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はぁ…。
憂鬱ですわ。
16歳になれば皆必ず行かなければならないルミナス学園。
私はしがない子爵令嬢。
侯爵令嬢であらせられるグロリア様に目をかけていただき、お側に置いていただけていることはたいへん光栄な事ですのに、何故か学園に行く事が憂鬱なのです。
グロリア様はいずれは王妃様になられるお方。
親しくしていただければ私も我が家門にとっても有益な事は間違いありません。
現に私には勿体ない方との仮婚約を結ぶ事もできました。
テリオス・コルト伯爵令息。
少し子供っぽさが残っていらっしゃいますが、茶色の巻き毛のかわいらしい方。
でもその見た目に反してとても博識で優秀な方だとお聞きいたします。
学問に秀でた名家で、王様の側近でもあられる。
それに比べて私はとりわけて秀でた所も無く、平凡を絵に描いたよう。
グロリア様と懇意にさせていただいている令嬢の中でも一番身分は低く、気の弱い私はいつも気が休まらない。
今日も当たり前のようにサロンで皆様にお茶を入れるのは私の役目。
「今日はお客様を招待しましたから、お茶をお願いね。」
「はい。」
お客様ですって?お菓子は足りるかしら?
お菓子作りは趣味だからよいのですけれど、いつもせっかく作ってもグロリア様は一口だけしか召し上がらない。
グロリア様だけではない。貴族女性は人前では少食であらねばならない。大食いははしたなく、暴食は浪費家とされるから。
今日はアップルパイを用意したのだけど、皆様少食だから小さく切り分ければ大丈夫ですわよね。
招待されたお客様はリノス男爵令嬢をはじめとしたモデルの方々。
モデルの方々!
あの雑誌、ルンルンの!
きゃーーーっ!
レティとミーシャにエリルとメルルの双子。
すごい!
モデルなんて華やかでお忙しい仕事をしているのに、皆様Aクラスだなんて、なんて優秀で素晴らしい方々!同じクラスだとわかった時は感動いたしました。
グロリア様はそういうのお嫌いだから内緒だけれど、私、毎月こっそりルンルン購読してますのよ!
可憐でお可愛らしいレティにクールビューティーなミーシャ、それになんてったって双子のエリ・メル!私の推し!
エリ・メルの何がいいかって一見普通の令嬢っぽいんだけど、つぶらな黒い瞳にフワフワの茶色の髪。本当に普通っぽいんだけど、そこがいい。
ちょっとがんばれば私でもエリ・メルみたいに可愛くなれるんじゃないの?なんて錯覚してしまう。だけどぜんぜん普通じゃないの。仕草の一つ一つがかわいい。小首をかしげたり上目遣いしてみたり、あのアヒルみたいな口も、全部かわいいの!そしてその仕草が全部シンクロしてるの!
かわいい×2なのよ!
はぁぁ~かわいい。
お茶を飲む仕草もシンクロしてる~。
それに、今日の髪型もステキ!
私もしてみたい。
「…ねえ、ジョゼフィーヌ?」
はっ!何?
「もちろんですわ。」
聞いてなかったけど、これ言っておけばだいたい大丈夫。
「あのぅ…。」
エリ・メルが口を開いた。
かわいいけど、エリルとメルルどっちがどっちかわからない。本当にそっくり。
「私達、堕落なんてしていませんよ。」
そうよ、そうよ。
「私達、レティのおかげでお仕事をもらえて、勉強も出来てとても充実しているの。」
「レティに会う前は着る物なんてサイズが合えば文句なんて言えない生活だったわ。」
「レティはおしゃれする喜びを教えてくれたわ。」
「おしゃれすると幸せな気持ちになるの。」
「私達、女の子に幸せのお手伝いが出来る立派なお仕事をしているの。」
その通りよ。
私、ルンルンを読んでる時、すっごい幸せ。
こんな服を私が着たらどんなだろう?っていつも想像してる。
「あっ、このアップルパイすごく美味しい!」
まあ、レティったら嬉しい事言ってくれる。
私ったらレティだなんて馴れ馴れしいわ。でもルンルンを毎月見てるうちにレティ達が友達みたいに思えてしまって、心の中ではもうすっかり勝手に親友なのよ。
「ジョゼフィーヌが作った物よ。」
グロリア様が言って下さった。
レティ達みんな完食。
完食?
「まあ…皆様お腹がすいてらしたの?」
嫌みに聞こえるわ。グロリア様。
「グロリア様はお口に合わないの?そんなに残してもったいない。」
「まっ…はしたない。」
取り巻きの一人のエリアンナ様がぽろりともらした。
グロリア様は優しく。
「仕方がございませんわ、リノス男爵令嬢は田舎育ち。淑女教育も行き届いてませんもの。これから学園でよく学ばれるとよろしいわ。」
けれどレティは、
「淑女は少食であれっておっしゃるのでしょう?知ってますよ。でもね、あえてその風潮は変えていきたいのです。
フードロスを無くそうと思うのです。
たくさん作って並べてちょっとしか食べないなんてもったいないわ。
作ってくれた人にも失礼だし、何よりこんなに美味しいのに残すなんてありえないわ。」
嬉しい。
私のお菓子をそんなふうに言ってくれるなんて。
そう言えばルンルンはファッションだけじゃなくて若者の新しい考えも書かれていたわ。
グロリア様は伝統や格式を重んじていらっしゃる。それはとても素晴らしい事だけど、必ずしも正しいとは限らない。
レティは王都に吹く新しい風だわ。
憂鬱ですわ。
16歳になれば皆必ず行かなければならないルミナス学園。
私はしがない子爵令嬢。
侯爵令嬢であらせられるグロリア様に目をかけていただき、お側に置いていただけていることはたいへん光栄な事ですのに、何故か学園に行く事が憂鬱なのです。
グロリア様はいずれは王妃様になられるお方。
親しくしていただければ私も我が家門にとっても有益な事は間違いありません。
現に私には勿体ない方との仮婚約を結ぶ事もできました。
テリオス・コルト伯爵令息。
少し子供っぽさが残っていらっしゃいますが、茶色の巻き毛のかわいらしい方。
でもその見た目に反してとても博識で優秀な方だとお聞きいたします。
学問に秀でた名家で、王様の側近でもあられる。
それに比べて私はとりわけて秀でた所も無く、平凡を絵に描いたよう。
グロリア様と懇意にさせていただいている令嬢の中でも一番身分は低く、気の弱い私はいつも気が休まらない。
今日も当たり前のようにサロンで皆様にお茶を入れるのは私の役目。
「今日はお客様を招待しましたから、お茶をお願いね。」
「はい。」
お客様ですって?お菓子は足りるかしら?
お菓子作りは趣味だからよいのですけれど、いつもせっかく作ってもグロリア様は一口だけしか召し上がらない。
グロリア様だけではない。貴族女性は人前では少食であらねばならない。大食いははしたなく、暴食は浪費家とされるから。
今日はアップルパイを用意したのだけど、皆様少食だから小さく切り分ければ大丈夫ですわよね。
招待されたお客様はリノス男爵令嬢をはじめとしたモデルの方々。
モデルの方々!
あの雑誌、ルンルンの!
きゃーーーっ!
レティとミーシャにエリルとメルルの双子。
すごい!
モデルなんて華やかでお忙しい仕事をしているのに、皆様Aクラスだなんて、なんて優秀で素晴らしい方々!同じクラスだとわかった時は感動いたしました。
グロリア様はそういうのお嫌いだから内緒だけれど、私、毎月こっそりルンルン購読してますのよ!
可憐でお可愛らしいレティにクールビューティーなミーシャ、それになんてったって双子のエリ・メル!私の推し!
エリ・メルの何がいいかって一見普通の令嬢っぽいんだけど、つぶらな黒い瞳にフワフワの茶色の髪。本当に普通っぽいんだけど、そこがいい。
ちょっとがんばれば私でもエリ・メルみたいに可愛くなれるんじゃないの?なんて錯覚してしまう。だけどぜんぜん普通じゃないの。仕草の一つ一つがかわいい。小首をかしげたり上目遣いしてみたり、あのアヒルみたいな口も、全部かわいいの!そしてその仕草が全部シンクロしてるの!
かわいい×2なのよ!
はぁぁ~かわいい。
お茶を飲む仕草もシンクロしてる~。
それに、今日の髪型もステキ!
私もしてみたい。
「…ねえ、ジョゼフィーヌ?」
はっ!何?
「もちろんですわ。」
聞いてなかったけど、これ言っておけばだいたい大丈夫。
「あのぅ…。」
エリ・メルが口を開いた。
かわいいけど、エリルとメルルどっちがどっちかわからない。本当にそっくり。
「私達、堕落なんてしていませんよ。」
そうよ、そうよ。
「私達、レティのおかげでお仕事をもらえて、勉強も出来てとても充実しているの。」
「レティに会う前は着る物なんてサイズが合えば文句なんて言えない生活だったわ。」
「レティはおしゃれする喜びを教えてくれたわ。」
「おしゃれすると幸せな気持ちになるの。」
「私達、女の子に幸せのお手伝いが出来る立派なお仕事をしているの。」
その通りよ。
私、ルンルンを読んでる時、すっごい幸せ。
こんな服を私が着たらどんなだろう?っていつも想像してる。
「あっ、このアップルパイすごく美味しい!」
まあ、レティったら嬉しい事言ってくれる。
私ったらレティだなんて馴れ馴れしいわ。でもルンルンを毎月見てるうちにレティ達が友達みたいに思えてしまって、心の中ではもうすっかり勝手に親友なのよ。
「ジョゼフィーヌが作った物よ。」
グロリア様が言って下さった。
レティ達みんな完食。
完食?
「まあ…皆様お腹がすいてらしたの?」
嫌みに聞こえるわ。グロリア様。
「グロリア様はお口に合わないの?そんなに残してもったいない。」
「まっ…はしたない。」
取り巻きの一人のエリアンナ様がぽろりともらした。
グロリア様は優しく。
「仕方がございませんわ、リノス男爵令嬢は田舎育ち。淑女教育も行き届いてませんもの。これから学園でよく学ばれるとよろしいわ。」
けれどレティは、
「淑女は少食であれっておっしゃるのでしょう?知ってますよ。でもね、あえてその風潮は変えていきたいのです。
フードロスを無くそうと思うのです。
たくさん作って並べてちょっとしか食べないなんてもったいないわ。
作ってくれた人にも失礼だし、何よりこんなに美味しいのに残すなんてありえないわ。」
嬉しい。
私のお菓子をそんなふうに言ってくれるなんて。
そう言えばルンルンはファッションだけじゃなくて若者の新しい考えも書かれていたわ。
グロリア様は伝統や格式を重んじていらっしゃる。それはとても素晴らしい事だけど、必ずしも正しいとは限らない。
レティは王都に吹く新しい風だわ。
応援ありがとうございます!
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