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  カイル皇太子視点

 私はこの国の皇太子。
 品行方正眉目秀麗謹厳実直…と、言われるよう日々努力している。
 学園の生徒会長も勤める私は入学式で挨拶をするため会場の脇に並べられた席に座っていたのだが…。
 隣のこのかわいい生き物はなんだ?
 幼子のような小さな身体にピンクがかったプラチナの髪。なのに…あの…あれだけはふっくら膨らんでいる。
 姿勢を正してはいるが、目は落ち着きなくキョロキョロ動いている。身内を見つけたのか小さく手を振るお行儀の悪ささえもかわいい。
 うわっ!こちらを見た。
 慌てて目を反らせたが、
「大丈夫ですか?」
 と、ハンカチを渡された。
 具合が悪いのかと思われたのか?
 やさしいっ!!
 挨拶を終えると側近に具合が悪い事を告げ、生徒会室に逃げ込んだ。
 このまま会場に居ると醜態を晒しそうで怖かった。それほどまでに今までに経験した事のない感情だった。
 ここは生徒会室といっても皇太子である私の為のプライベートルームのような部屋だ。
 身体が熱い。
 ああ、これは彼女のハンカチ。持って来てしまった。
 そっと匂いを嗅いでみると甘くて爽やかな果実のような香りがした。
 あの子の香りだろうか?
 あの子の…あの果実はどんな味がするのだろう?…はっ!いけない!私にはクラウディアという婚約者がいるではないか!
 …だが…クラウディアに対してこんな気持ちになった事は…?無いな。
 クラウディアは美しく聡明で私にも皇太子妃にもふさわしい女性だ。
 時々私の事を虫けらを見るような目で見ている気がするが、それすらも古の高貴な女王を思わせる気品がある。
 それから私は寝ても覚めても彼女、リリアンの事が頭から離れなかった。
 何度か偶然を装い接触を試みたが、常に側にはクラウディアがいて近づく事が出来なかった。
 仕方なく彼女をパーティーに招待する事にした。
 リリアンを出迎え、手をとり、ダンスを申し込んだ。
 後で後悔する事になるが、その時はリリアンの事で頭がいっぱいでクラウディアの事はすっかり失念していた。
 だが彼女とダンスをしてはっきりとわかった。
 ダンスとは身も心も踊るものだったのだな。
 クラウディアと踊っていた時はいつも体術の訓練をしている気分だった。
 リリアンは慣れない足取りで、しかし一生懸命にステップを踏む。真剣な眼差しもなんと愛しいのだろう。
 ああ…これが恋のときめきというものか。
 私は気が付けば告白してしまっていた。
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