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子供時代
他視点 アウクシリアの聖女③
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私の横に座るこの国の宰相であり私の夫であるガラハットに威圧を放たれ、顔が青くなったり冷や汗をかき始めたりと忙しい目の前の男を冷めた目で見やる。
「禁忌とされる『勇者召喚の儀』を強行して勝手にこの世界に連れてきたくせに、いざその『勇者』が使えないと分かると身一つで放り出すのはまさに今は亡きあの国と同じですね~え?」
「ぐっ……!」
「そもそも私たち『聖女』は神の声を聞き、神の声を代弁する者です。その聖女が亡くなる以外で国を去るという事は、つ~ま~り~?神は聖女にその国を出るように告げたという事。イコール神はその国を見捨てたって事じゃありませ~ん?」
「貴様ぁっ!せ、聖女だからと言いたい事を言わせておけば偉そうにーー」
「ええ、偉いですよ?神の次に」
「ーーーっ!!」
怒髪天を衝きそうなくらい顔を真っ赤にしている目の前の男にニンマリと笑うと、横からボソッと「やり過ぎだ」と窘められた。
宰相様の判定でイエローカードが出たのでどうやら少し言い過ぎたようだ。
コホンと誤魔化すように咳払いすると少し声のトーンを落とした。
「まぁでもどうしてもと言うなら~?条件次第でそちらのお願いを叶えてあげない事もないですよ?」
「……何?」
先程まで煽りまくっていた私の言葉をさすがにそのまま鵜呑みには出来ないと理解したのか、目の前の男は訝しげな顔をする。
「『勇者召喚の儀』のやり方が書かれてた“黒の魔導書”って本ありますよね?…あ、見たことないんですっけ?魔術師が使ってた黒い本ですよ、黒い本。それを私の元に持ってきてください。レプリカでは無く本物の方ですよ~?」
(持ってこれるものならね~?)
──────────────
「……良かったのか?」
会談がなんとか終わり、宰相の執務室で我が物顔で寛ぐ私にこの部屋の主であるガラハットが珍しく控えめに声を掛けてきた。
「ん~?なに、黒の魔導書の事言ってる?」
「それも含めて、だ」
「あーはん。グリモワに関しては大丈夫、神様曰く召喚が成功すると消えるらしいし」
夢の中のお告げで神から『勇者召喚の儀』について教えられた者の所にいつの間にか現れる不思議な書物、それが“黒の魔導書”。
その書物を扱うには多くの生け贄が必要となるらしい。
最初の召喚時は村が丸々一つ犠牲になったと記録にはあったが、もしかしたらもっと犠牲は多かったかもしれない。
なんにせよ、あれは人の手には負えない物だ。
「遅かれ早かれあの国はもうダメっしょ。前の王様がまだマシだっただけに残念……でもないか。今頃どこでどうしてるのかね、『勇者』とクェダットの『聖女』は」
「そもそもあの国が召喚したとされる『勇者』は本物なのか?」
書き物をする時に使っている窓際の机に背を向けて私の方に体を向けて座っている彼は、私と話しながらも机に積まれた紙を手に取って確認していたが、途中でちらりとこちらを見た。
「ほんとは召喚失敗したんじゃないかってやつ~?あれでしょ、召喚された『勇者』の居た場所が、昔ミッガルトの一部だった森で過去の勇者たちが眠っている墓の近くだったってやつ。本来なら儀式の間に出てくるはずなのに違うところに出てきて、しかもそれが『勇者』の墓の前に出てきたもんだから、儀式は失敗したんじゃないかって疑ってるんだっけね」
「それだけじゃない。勇者の見た目は神託通りだが、召喚された『勇者』は力が使えなかった」
「あ~そうだった、そうだった」
勇者召喚が行われた10年前よりもっと前、クェダットの王弟だか王子だかが受けた神託で、いずれこの国が召喚するであろう『勇者』の外見が黒髪に青い目、右目に泣きボクロがある青年だと教えられたらしい。
そして神託通り『勇者召喚の儀』を行った当初、用意していた生け贄だけ消えてその場には勇者らしき人物が現れなかった為、そもそもその時点で儀式は失敗したと思われていた。
だがその後にたまたま森を巡回していた兵士が勇者らしき青年が倒れているのを見つける。
兵士は魔物にやられた負傷者として青年を詰め所に連れて帰ってきて、そこから儀式を行った彼らへ話が届き彼らの知る事となった。
一時は儀式が成功していたと喜ぶが、その後勇者らしき青年は異世界から召喚されたらしい事は認めるものの、神から何も聞いていないし力も貰っていないと言い、やはり失敗だったのかと落胆した彼らはその青年を身一つで城の外に放り出した。
「ん~……本人を見てみないと何とも言えないけど、私的には本物だったんじゃないかと思う」
「その根拠は?」
「え~?そうだなぁ……」
グラハットにそう問われて答えを改めて考えようとした時、ノックも無しにバターンと勢いよく執務室の扉が開いた。
「宰相閣下、聖女様!お忙しいところ大変申し訳ございません!王城の警備から至急連絡が入りまして、現在城の前に『勇者』を名乗る人物が来ており、聖女様との面会を求めているとの事です!」
「…………なんだって?」
「禁忌とされる『勇者召喚の儀』を強行して勝手にこの世界に連れてきたくせに、いざその『勇者』が使えないと分かると身一つで放り出すのはまさに今は亡きあの国と同じですね~え?」
「ぐっ……!」
「そもそも私たち『聖女』は神の声を聞き、神の声を代弁する者です。その聖女が亡くなる以外で国を去るという事は、つ~ま~り~?神は聖女にその国を出るように告げたという事。イコール神はその国を見捨てたって事じゃありませ~ん?」
「貴様ぁっ!せ、聖女だからと言いたい事を言わせておけば偉そうにーー」
「ええ、偉いですよ?神の次に」
「ーーーっ!!」
怒髪天を衝きそうなくらい顔を真っ赤にしている目の前の男にニンマリと笑うと、横からボソッと「やり過ぎだ」と窘められた。
宰相様の判定でイエローカードが出たのでどうやら少し言い過ぎたようだ。
コホンと誤魔化すように咳払いすると少し声のトーンを落とした。
「まぁでもどうしてもと言うなら~?条件次第でそちらのお願いを叶えてあげない事もないですよ?」
「……何?」
先程まで煽りまくっていた私の言葉をさすがにそのまま鵜呑みには出来ないと理解したのか、目の前の男は訝しげな顔をする。
「『勇者召喚の儀』のやり方が書かれてた“黒の魔導書”って本ありますよね?…あ、見たことないんですっけ?魔術師が使ってた黒い本ですよ、黒い本。それを私の元に持ってきてください。レプリカでは無く本物の方ですよ~?」
(持ってこれるものならね~?)
──────────────
「……良かったのか?」
会談がなんとか終わり、宰相の執務室で我が物顔で寛ぐ私にこの部屋の主であるガラハットが珍しく控えめに声を掛けてきた。
「ん~?なに、黒の魔導書の事言ってる?」
「それも含めて、だ」
「あーはん。グリモワに関しては大丈夫、神様曰く召喚が成功すると消えるらしいし」
夢の中のお告げで神から『勇者召喚の儀』について教えられた者の所にいつの間にか現れる不思議な書物、それが“黒の魔導書”。
その書物を扱うには多くの生け贄が必要となるらしい。
最初の召喚時は村が丸々一つ犠牲になったと記録にはあったが、もしかしたらもっと犠牲は多かったかもしれない。
なんにせよ、あれは人の手には負えない物だ。
「遅かれ早かれあの国はもうダメっしょ。前の王様がまだマシだっただけに残念……でもないか。今頃どこでどうしてるのかね、『勇者』とクェダットの『聖女』は」
「そもそもあの国が召喚したとされる『勇者』は本物なのか?」
書き物をする時に使っている窓際の机に背を向けて私の方に体を向けて座っている彼は、私と話しながらも机に積まれた紙を手に取って確認していたが、途中でちらりとこちらを見た。
「ほんとは召喚失敗したんじゃないかってやつ~?あれでしょ、召喚された『勇者』の居た場所が、昔ミッガルトの一部だった森で過去の勇者たちが眠っている墓の近くだったってやつ。本来なら儀式の間に出てくるはずなのに違うところに出てきて、しかもそれが『勇者』の墓の前に出てきたもんだから、儀式は失敗したんじゃないかって疑ってるんだっけね」
「それだけじゃない。勇者の見た目は神託通りだが、召喚された『勇者』は力が使えなかった」
「あ~そうだった、そうだった」
勇者召喚が行われた10年前よりもっと前、クェダットの王弟だか王子だかが受けた神託で、いずれこの国が召喚するであろう『勇者』の外見が黒髪に青い目、右目に泣きボクロがある青年だと教えられたらしい。
そして神託通り『勇者召喚の儀』を行った当初、用意していた生け贄だけ消えてその場には勇者らしき人物が現れなかった為、そもそもその時点で儀式は失敗したと思われていた。
だがその後にたまたま森を巡回していた兵士が勇者らしき青年が倒れているのを見つける。
兵士は魔物にやられた負傷者として青年を詰め所に連れて帰ってきて、そこから儀式を行った彼らへ話が届き彼らの知る事となった。
一時は儀式が成功していたと喜ぶが、その後勇者らしき青年は異世界から召喚されたらしい事は認めるものの、神から何も聞いていないし力も貰っていないと言い、やはり失敗だったのかと落胆した彼らはその青年を身一つで城の外に放り出した。
「ん~……本人を見てみないと何とも言えないけど、私的には本物だったんじゃないかと思う」
「その根拠は?」
「え~?そうだなぁ……」
グラハットにそう問われて答えを改めて考えようとした時、ノックも無しにバターンと勢いよく執務室の扉が開いた。
「宰相閣下、聖女様!お忙しいところ大変申し訳ございません!王城の警備から至急連絡が入りまして、現在城の前に『勇者』を名乗る人物が来ており、聖女様との面会を求めているとの事です!」
「…………なんだって?」
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