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恋人ごっこの終わり
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卒業式が近づくにつれ、レイン君とは少しギクシャクするようになった。
多分、お互いに言いたいことを言えずにいる。どうやってお別れしようかと、頭の中ではぐるぐると考えているのだ。
レイン君もきっと、どうすれば私が有利に別れられるかと考えてくれているに違いない。彼は、真面目だから。
エリアナさんはレイン君に話しかけなくなった。
というか、一人の男性に絞ったらしい。一時期、学園内がその話題で持ちきりだったが、私にはどうでも良かった。
卒業式まで1か月を切った頃、久しぶりにレイン君が一緒に出かけようと誘ってくれた。
そろそろ今日あたりお別れを切り出されるのだろう。
覚悟を決めて彼が迎えにきてくれるのを自室で待った。
「レイン君が来たわよー!」
お母さんの陽気な声が部屋まで届く。随分テンションが高い。まぁとか、あらまぁとか、ドアの向こうでメイドたちと大はしゃぎだ。
こちらは陰鬱な気分なのに、とドアを開けると、そこには抱えきれないほどの花束を持ったレイン君が立っていた。
私はサプライズの対応に困ってしまった。最後の思い出作りだろうか?
「ユーリル、どうか俺と・・・」
レイン君は跪いた。
「どうか、俺と、結婚をしてほしい」
「まあっ!」
「お嬢様良かったですね!」
「素敵!」
母をはじめ、メイド達や執事も見ている中で私はカチコチに固まる。
これは何の演出だろうか?
もうあと一ヶ月もすれば卒業なのに、彼は一体何を言い出すのだろうか。
「ユーリル、話がしたい。いいだろうか」
「え、ええ、わかったわ」
ゲストルームで二人きり、向かい合ってソファに座る。
母やメイド達が気を利かせてセッティングしてくれた。
メイドがお茶菓子を置いて去っていった後、レイン君はおもむろに切り出した。
「最初はお互いの事情を理解した上で、形だけの婚約者という契約を交わした。あの時は卒業したらちゃんと別れるつもりだったんだ」
「うん」
「全部、正直にいうよ。実は姉から、俺は『留学生に付きまとわれ、堕ちていく人生だ』と予言されたんだ。このままでは謀反の疑いで処刑される可能性もある、と」
「……え?」
「ごめん・・・全部聞いてから判断してほしい」
「う、うん」
何だかいきなり、想像とは違う話だ。
「留学生と接点をなるべく減らし、平和に学園生活を送ること。それが姉からの指示だった。信じられないが、姉の予言はよく当たった。そもそも留学生が来ることも、来る時期も姉の言う通りだったんだ。本人は夢で見た、って言うんだが。」
「お姉様のおっしゃる通りにしようと思ったのね」
私がそう言うと、レイン君はゆっくりうなずいた。
「留学生は何人かの男にターゲットを絞り、交流を深めてくる。俺もその一人だ、と。騎士になる未来のためにも、留学生の話に耳を傾けてはいけない、と姉は言っていた。」
レイン君のお姉さまの予知能力にはただただ驚くばかりだ。万物を見通せる聖女様なのだろうか。
「そんな時、鍛錬場でユーリルを見かけた。時々ユーリルは鍛錬場にいただろ?その…気になってて」
レイン君は私を穏やかに見つめた。
私がこっそり見に行っていたのはバレていたようだ。
「いつか話をしたいとは思っていたんだ」
レイン君は少し顔を赤くして、困ったように微笑んだ。
「留学生を避け、ユーリルと穏やかに学園生活を過ごせないかと、とっさに思いついたのが婚約者のフリだった。俺もユーリルを守ってあげられるし、婚約者がいれば留学生も俺を諦めるだろう、と」
私は黙って続きを待った。
レイン君がずっと抱えていた気持ちを、聞き逃すわけにはいかない。
「だけど最初の契約が、どんどん俺にとって足枷になっていった。別れる約束なんてしなければ良かったと、何度後悔したかわからない」
レイン君はソファからスッと立ち上がり、ゆっくりと私の前に膝をついた。
「ユーリルのことをどんどん好きになった。引き返せないくらいに」
そう言って、彼は私の手をとって指を絡めてくる。優しい瞳が、真っ直ぐに私を見つめてくる。
「本当はずっと触れたかった。抱きしめたかったしキスもしたかった。でもそういうことは、ユーリルが本当に好きな人とするべきだ、と」
絡めた手を、レイン君はぎゅっときつく握った。感激のあまり、もうすでに私の瞳には大粒の涙が溢れている。
「誰よりも君の幸せを願う人でありたいのに、ユーリルが誰か他の男と仲良くしている場面なんて想像でも嫌だった」
小刻みに震える私の手を、レイン君は自らの手で包み込んだ。
そしてレイン君は私の頬に手を当て、流れていた涙をそっと親指で拭う。
くしゃくしゃになった私の顔は、きっとひどいだろう。
「別れを前提にした関係をもうやめたい…。好きだ。ずっと、好きだったんだ」
私はボロボロと嬉し涙を流しながら、かろうじて「はい」と答えた。
レイン君も少し震えていた。
「二度と別れの約束はしないと誓うよ」
その言葉に、私は笑顔で頷いた。
Fin.
多分、お互いに言いたいことを言えずにいる。どうやってお別れしようかと、頭の中ではぐるぐると考えているのだ。
レイン君もきっと、どうすれば私が有利に別れられるかと考えてくれているに違いない。彼は、真面目だから。
エリアナさんはレイン君に話しかけなくなった。
というか、一人の男性に絞ったらしい。一時期、学園内がその話題で持ちきりだったが、私にはどうでも良かった。
卒業式まで1か月を切った頃、久しぶりにレイン君が一緒に出かけようと誘ってくれた。
そろそろ今日あたりお別れを切り出されるのだろう。
覚悟を決めて彼が迎えにきてくれるのを自室で待った。
「レイン君が来たわよー!」
お母さんの陽気な声が部屋まで届く。随分テンションが高い。まぁとか、あらまぁとか、ドアの向こうでメイドたちと大はしゃぎだ。
こちらは陰鬱な気分なのに、とドアを開けると、そこには抱えきれないほどの花束を持ったレイン君が立っていた。
私はサプライズの対応に困ってしまった。最後の思い出作りだろうか?
「ユーリル、どうか俺と・・・」
レイン君は跪いた。
「どうか、俺と、結婚をしてほしい」
「まあっ!」
「お嬢様良かったですね!」
「素敵!」
母をはじめ、メイド達や執事も見ている中で私はカチコチに固まる。
これは何の演出だろうか?
もうあと一ヶ月もすれば卒業なのに、彼は一体何を言い出すのだろうか。
「ユーリル、話がしたい。いいだろうか」
「え、ええ、わかったわ」
ゲストルームで二人きり、向かい合ってソファに座る。
母やメイド達が気を利かせてセッティングしてくれた。
メイドがお茶菓子を置いて去っていった後、レイン君はおもむろに切り出した。
「最初はお互いの事情を理解した上で、形だけの婚約者という契約を交わした。あの時は卒業したらちゃんと別れるつもりだったんだ」
「うん」
「全部、正直にいうよ。実は姉から、俺は『留学生に付きまとわれ、堕ちていく人生だ』と予言されたんだ。このままでは謀反の疑いで処刑される可能性もある、と」
「……え?」
「ごめん・・・全部聞いてから判断してほしい」
「う、うん」
何だかいきなり、想像とは違う話だ。
「留学生と接点をなるべく減らし、平和に学園生活を送ること。それが姉からの指示だった。信じられないが、姉の予言はよく当たった。そもそも留学生が来ることも、来る時期も姉の言う通りだったんだ。本人は夢で見た、って言うんだが。」
「お姉様のおっしゃる通りにしようと思ったのね」
私がそう言うと、レイン君はゆっくりうなずいた。
「留学生は何人かの男にターゲットを絞り、交流を深めてくる。俺もその一人だ、と。騎士になる未来のためにも、留学生の話に耳を傾けてはいけない、と姉は言っていた。」
レイン君のお姉さまの予知能力にはただただ驚くばかりだ。万物を見通せる聖女様なのだろうか。
「そんな時、鍛錬場でユーリルを見かけた。時々ユーリルは鍛錬場にいただろ?その…気になってて」
レイン君は私を穏やかに見つめた。
私がこっそり見に行っていたのはバレていたようだ。
「いつか話をしたいとは思っていたんだ」
レイン君は少し顔を赤くして、困ったように微笑んだ。
「留学生を避け、ユーリルと穏やかに学園生活を過ごせないかと、とっさに思いついたのが婚約者のフリだった。俺もユーリルを守ってあげられるし、婚約者がいれば留学生も俺を諦めるだろう、と」
私は黙って続きを待った。
レイン君がずっと抱えていた気持ちを、聞き逃すわけにはいかない。
「だけど最初の契約が、どんどん俺にとって足枷になっていった。別れる約束なんてしなければ良かったと、何度後悔したかわからない」
レイン君はソファからスッと立ち上がり、ゆっくりと私の前に膝をついた。
「ユーリルのことをどんどん好きになった。引き返せないくらいに」
そう言って、彼は私の手をとって指を絡めてくる。優しい瞳が、真っ直ぐに私を見つめてくる。
「本当はずっと触れたかった。抱きしめたかったしキスもしたかった。でもそういうことは、ユーリルが本当に好きな人とするべきだ、と」
絡めた手を、レイン君はぎゅっときつく握った。感激のあまり、もうすでに私の瞳には大粒の涙が溢れている。
「誰よりも君の幸せを願う人でありたいのに、ユーリルが誰か他の男と仲良くしている場面なんて想像でも嫌だった」
小刻みに震える私の手を、レイン君は自らの手で包み込んだ。
そしてレイン君は私の頬に手を当て、流れていた涙をそっと親指で拭う。
くしゃくしゃになった私の顔は、きっとひどいだろう。
「別れを前提にした関係をもうやめたい…。好きだ。ずっと、好きだったんだ」
私はボロボロと嬉し涙を流しながら、かろうじて「はい」と答えた。
レイン君も少し震えていた。
「二度と別れの約束はしないと誓うよ」
その言葉に、私は笑顔で頷いた。
Fin.
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