姫の血縁

姫宮瑠璃

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色無し③

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「タリアテリーヌ様が⁈」
「当時は伯爵家であった、ヴァイロン子爵令嬢が『聖なる子なのでは』と言われるようになると、またデヴォン卿が神託を受けたと言い出しました。」
「何て?」
「『聖女は唯1人、他に在らず』と。」
「教皇猊下はそれに対して何かおっしゃられなかったの?」
「猊下は、『聖女は唯1人、故に他に有らず』と。」

似ている言葉だけれど、解釈が違えば意味は変わる。

「・・・もしかして、デヴォン卿は、教皇猊下の宣託を諜報していた?」

先の言葉も、今の言葉も、少しだけ違う。
内容を耳で聞いた諜報員が伝えた事を、デヴォン卿が神託だと発表していたのではないだろうか?

「当時は、アスタリア皇家の血筋では無いのに、女神様の御心に触れる事が出来ると、デヴォン卿の評価が高まっていきました。
ましてや、猊下よりも先に神託を受けたデヴォン卿の信頼度が増し、猊下の方が疑われたのです。」
「そんな・・・。」
「聖女様を『聖女』と認定したのは、100年近く前の教皇猊下です。
でも、それが間違いだったと、デヴォン卿は言い出しました。
聖女が黒髪である筈が無い。生まれ出でた『聖なる子』こそ、『聖女』であると。」
「でも、100年近く前の教皇猊下だって、宣託によって、大伯母を『聖女』と認定したのでしょう?」

でなければ、魔物や魔物に近いと言われる黒髪が、『聖女』などと言われる筈が無い。

「死人に口はありませんから、我がエンダールが金を積んで身分を買ったのだと。」

ハリエットは、悔しそうに唇を噛んだ。

「そしてデヴォン卿は、大災害はアスタリア皇家の長年の間違いを正す為に、女神様が罰を与えたものだと、言い出しました。」
「まさか、大伯母を『聖女』だと認定したからだと⁈」
「はい。」

ハリエットは頷くと、目を伏せた。

「それが、アスタリア皇家の不信に繋がって、内紛が起きたの⁈」
「はい。
それまで、神の声を聞けるのはアスタリア皇家の血筋でしかありませんでした。
それが、デヴォン卿が神託を受ける人物となり、アスタリア皇家でなくても良いと、人心が動いてしまったのです。」
「あからさま過ぎる・・・デヴォン卿に反対する人達はいた筈でしょう?
皇家の方々を逃す事は出来なかったの?」
「デヴォン卿は、国に争いをもたらしてはならないと、全ての枢機卿と猊下及び皇族全員による会議を要請しました。」
「そんなの、殺されに行くようなものじゃない!」
「アスタリア聖皇国は、争いと無縁の国でした。疑う事も無く、会議に皆参加したのです。
そして、捕らえられました。」

憤りが止まらない。

「我が国が事態を知り、応援の兵を派遣した頃には、国境にはテルニアの旗がなびき、解放軍という名の反乱軍が皇城を占拠していました。
そして、デヴォン卿が『教皇』を名乗ったのです。」

私は、気を落ち着かせる為、もう冷めてしまったお茶を飲み干した。

「タニア教を信仰する他の国は、どうしたの?」
「静観する国もありましたが、我が国と同盟を組み、アスタリア皇家を奪還しようとする国が多くありました。
でも、既に遅かったのです。
会議と称して集められたその日に、デヴォン卿に反対していた枢機卿共々、皇族は処刑されていました。」
「・・・。」
「我が国や他の多くの国、及びその国教会は、デヴォン卿を教皇とは認めず、独立しました。
アスタリア聖皇国は、テルニアに接収され、聖都周辺をデヴォン卿が治め、神皇国と名付け、神聖タニア教教皇と名乗っています。」

ハリエットは、お茶のポットから私のカップにお茶を注いだ。

「話が逸れてしまいましたが、アスタリア皇家が神に仕える者、何者にもおもねらない者という意味でアスタリア皇族の方々の白髪を、色が付いていないからと、『色無し』と言われていました。」
「こちらは、良い意味で言われていた様ね。」

白と黒で対照的だというのに、同じ敬称とは奇妙なものだ。

「教皇猊下が聖女様を認定したからこそ、尚更、聖女様に対する嫌味のつもりで、白髪じゃないのに『色無し』と言っていたんだと思います。」

ああ、なるほどね。
正反対だからこそ、悪口になるのか。

「じゃあ、ナッサウ男爵令息が言っていた『赤』はやっぱり、赤髪のベルローズ家って事よね。」
「はい、そうです。ベルローズ公爵家は宰相をよく輩出している家系ですが、血統のほとんどの方が赤髪です。」
「うん。あの鮮やかな赤髪は、初めて見た時、衝撃的だったもの。
『赤』って称しても納得するわ。」
「旦那様は、『氷の微笑』とか『紅い氷石』などと影で呼ばれる事がありますね。」

『氷の微笑』は、王太后様も王妃様も言っていた。

「『紅い氷石』は、血生臭い感じで、なんか嫌ね。」

ハリエットが、コクリと頷く。

「その『赤』に、3代に渡って爵位を落とされたのが、ナッサウ男爵家です。」

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