姫の血縁

姫宮瑠璃

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聖女の繭⑥

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シオンは、井上浩美を連れて、神皇国の聖教会の教皇の元を訪れていた。
目の前で、教皇と井上浩美は和気藹々と笑顔で楽しそうだ。
話す内容が、意地の悪い、残虐な話が多いのが、シオンには居た堪れない。
今は、数十分前のテルニアとエンダールの国境での魔法攻撃について、楽しそうに話していた。
前回の比では無いくらい、井上浩美は、竜巻をいくつも作り、エンダール兵や騎馬などを巻き上げ、雷を何百と落とし、逃げ惑う兵をまた竜巻で巻き上げるという攻撃を、魔力を使い切るまで続けた。
前回の倍以上の死傷者が出ている事だろう。

「さすが私の娘。さすが『聖女』だ。
皆を黙らせるには、やはり強く大きな力が必要だ。
時には非情にならなければ、下の者はつけ上がる。」
「ええ、そうですわ。
人の物を奪っておいて、何食わない顔をしている者など、泥に塗れて野垂れ死ねばいい!」
「その通りだ。
私は子を持たぬが、そなたは正に我が子のようだ。私とよく気が合う。」
「私も、ロクでも無い役立たずの両親から開放されて、素敵なお義父様を持てて、嬉しいです。」

悪人面がよく似合うとは、嫌なものだとシオンは思った。
血の繋がりも無く、これが初対面だというのに、いやらしく笑う顔は、そっくりだった。

「それでぇ、お義父様。シオンが、姫小路裕美を殺してくれないの。」
「おや、何故だろうねぇ。」

教皇は、シオンを睨み付けるように見た。

「私は、殺すように命令したんだけどねぇ。」

顔をシオンに向けたまま、教皇は井上浩美と会話する。

「なんか、テルニアの王様に殺さないように命令されてるみたいで。
いったい、シオンの主人は、お義父様とテルニアの王様のどちらなのかしらね?」
「ほう。我が甥にねぇ。」

教皇は、手で顎を擦りながら、鋭い視線をシオンから動かさなかった。

「で、代わりに私が痛めつけようとしたら、あの女が眠りながら防御魔法を使っちゃって、触れない、動かせない、殺せないって状況になっちゃったの。」
「防御魔法を?」
「そう。でも、このまま寝続けたら、あと数日で死ぬと思うわ。
誰も近づけないから、水すら飲めなくなっちゃってるから。」
「ほう。なるほどねぇ。」
「本当は、のたうちまわるくらい、悲惨に絶望に飲み込まれたあの女に、私が刃を突き立ててやりたいんだけど。
存在しなくなってくれるなら、死ぬ事を許してあげるわ!」
「おやおや。私の娘は、なんて優しい、良い子なんだろうねぇ。」
「でしょう?」

教皇は、井上浩美の頭を優しく撫で、2人は笑顔で見つめ合う。
シオンは、胃がよじれるような痛みと喉を締められるような苦痛で、唾をゴクリと飲み込んだ。

「シオン。ヒメノコージが死んだ事を確認し次第、報告を。
しばらく、お前は我が甥の身辺で甥の動向を探れ。」
「はい。かしこまりました。」

教皇に頭を下げ、シオンは退室したが、ドアを完全に閉める前に聞こえた声に、動きを止めた。

「シオンに任せて大丈夫?」
「気にする事はない。アレにかけた呪術は記憶が解けぬ限り、私には逆らえぬ。
何故、甥の命令を我が命令より優先させたかは気になるが。
何か思い出していたら、逃げ出しているか、私を殺しに来ている事だろう。」
「まあ。お義父様ったら、何したの?」
「おまえが、喜びそうな悪どい事だよ。」
「何、何?聞かせて!」

シオンは、音を立てないようにドアを閉め、急いで自室に行き、扉を閉めると、フラフラと崩れ落ちた。

ーーーどういう事だ?
ーーー私は、何をされたのだ?

シオンは頭を抱えて、うずくまった。
シオンは、テルニアで陛下に謁見した時、「本物の『聖女』」という言葉に、強く惹かれた。
そして、前の聖女の伝説を思い起こさせる『聖女の繭』を見て、姫小路裕美こそ、本物だと思った。
そして、井上浩美から発せられた『下僕』、『奴隷』という言葉で、頭に浮かんできた過去の記憶の一部。
少しずつ、鳥の雛が卵から孵るように、何かがシオンの中から取り払われていく。

ーーー私は、何者なのだ?

シオンは顔を上げ、窓の外に見える青空と白い雲を茫然と眺めた。


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