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隠れ家①
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「お義父様ぁ。私、新しい衣装で式典をしたいですわ。」
教皇の執務室に乗り込んで来た井上浩美は、部屋に入るなり、教皇に訴えた。
「・・・何だ、いきなり。
式典の衣装なら、既存の物を仕立て直すからそれで良いだろう。
今から作っていたら、式典をするのが遅くなる。」
教皇は、書類に羽ペンを走らせながら、どうでもいいとばかりに、シッシと手で追い払うようにした。
「嫌よ!
私は『聖女』なのよ!
それ相応の素晴らしい衣装でなくてはいけないわ!」
「・・・今から作れば最低でも3週間はかかる。
まさか、式典後のお披露目のドレスも、新しく仕立てたいなどと言うのではあるまいな?」
顔を上げ、井上浩美を見据えた教皇は、羽ペンで指差すようにしながら、目を細めた。
「当然、新しく作るに決まっているじゃありませんか!」
井上浩美は、瞳を煌めかせている。
「1ヶ月以上かかるぞ。
早く『聖女』になりたいのではなかったのか?」
教皇は、眉間に皺を寄せている。
「先に、内々で『聖女認証』すれば良いでしょ?
姫小路裕美は、どうせもうすぐ死ぬんだから。」
「まだ、死んではいない。油断するな。
目を覚ますかもしれないとは、考えないのか?」
「魔法障壁をあの女が出す前、陵辱前に、睡眠薬を追加したの。
普通なら死んでしまう量を更にね。
結局、陵辱出来なかったけど。
先に飲ませた薬でも起きないくらいだもの。今回だって、たぶん起きないわ。
薬でさっさと死んでくれたら、簡単だったんだけど。」
口を尖らせて拗ねた表情の井上浩美を、教皇は静かに見つめた。
良心のカケラが無さそうな発言に、口元が緩みそうになる。
もう少し、慎重さや我慢強さ、狡猾さがあればとは思うが、自分と合う波長の井上浩美を見ていると、教皇はつい甘やかしてしまいたい衝動にかられた。
本来なら、注意すべき卑怯な行動は、教皇にとっては、楽しみで可愛らしく感じられたのだ。
教皇という立場でありながら、人助けや、自己犠牲などという事に、吐き気がする程の嫌悪感を持っていた所為だろう。
世の中の全ては、自分の為にあればいい。
「・・・まったく、我が娘は、なんていじらしい事か。
ただし、自分から言い出したのだから、後から早くしてなどと言われても聞かぬぞ。」
「分かってるわ。お義父さま。」
ハートが飛び出して来そうな甘ったるい声で喜ぶと、井上浩美は教皇の執務室を後にした。
スキップしそうな足取りで、廊下を歩いて行く。
「良かったですね。」
タリアテリーヌの時から仕えている侍女が、井上浩美に声をかけた。
以前は無口で、言われた通りに動いていただけだったのに、井上浩美に代わってからは、話しかけてくるようになった。
井上浩美の側使えで、反論や意見を言ってくるのはシオンくらいのもので、あとは、返事くらいしかしない中では、少し珍しかった。
「ええ!
あなたが話してくれなかったら、中古の衣装で式典に出されるところだったわ。
ただ、こういう大事な事は、もっと早く言いなさいよね!」
「はい。申し訳ありません。」
「以後気をつけなさい!」
機嫌は良いものの、侍女を叱責した事で興奮したのか、足音を大きくしながら、井上浩美は与えられた部屋へと戻る。
お気に入りの神官のシオンが、教皇の命令でしばらく留守にすると挨拶に来たけれど、井上浩美の頭の中には、新しい衣装の事でいっぱいで、返事もロクにせずに送り出した。
井上浩美の中では既に、姫小路裕美は死んだも同然で、シオンに対してももうあまり用の無い存在だった。
道先案内人で、頼りにしていた始めと違い、もっと身分の高い庇護してくれる教皇がいる。
シオンにしていたわがままを、今度は教皇に言えばいい。
しかも、その教皇は、シオンよりも井上浩美に好意的だ。
謙った態度でありながら、行動を監視、矯正し、井上浩美に心酔しない態度のシオンより、注意をしながらも、結局は同調し、甘やかしてくれる教皇の方が、居心地が良かった。
「ねえ。お茶。」
「はい。かしこまりました。」
「・・・まったく、気が利かないんだから!」
侍女は、ドアの前で一礼して部屋を出た。
井上浩美は、しばらくは衣装の事で頭がいっぱいだろう。
衣装についてが落ち着いてきたら、髪飾りやアクセサリー、招待客などに考えが向くようにすれば良い。
廊下を歩く侍女は、ほとんど表情は変わっていなかったが、いつもより唇の端が上がっていた。
今まで潜伏してきたが、いよいよ自分に大きく動ける機会が舞い降りてきた。
他の同種のほとんどは、これといった変化がないまま一生を過ごす。
侍女が、タリアテリーヌの祖父の邸に潜入する事になった時には、ヴァイロン元伯爵が亡くなるまで、これといった事は起こらないだろうと思っていた。
しかし、転機が訪れた。
ーーーこれで、ご恩に報いる事が出来る!
鬱鬱と過ごしてきた日々より、井上浩美にいびられる今の方が、侍女にとっては色鮮やかだった。
教皇の執務室に乗り込んで来た井上浩美は、部屋に入るなり、教皇に訴えた。
「・・・何だ、いきなり。
式典の衣装なら、既存の物を仕立て直すからそれで良いだろう。
今から作っていたら、式典をするのが遅くなる。」
教皇は、書類に羽ペンを走らせながら、どうでもいいとばかりに、シッシと手で追い払うようにした。
「嫌よ!
私は『聖女』なのよ!
それ相応の素晴らしい衣装でなくてはいけないわ!」
「・・・今から作れば最低でも3週間はかかる。
まさか、式典後のお披露目のドレスも、新しく仕立てたいなどと言うのではあるまいな?」
顔を上げ、井上浩美を見据えた教皇は、羽ペンで指差すようにしながら、目を細めた。
「当然、新しく作るに決まっているじゃありませんか!」
井上浩美は、瞳を煌めかせている。
「1ヶ月以上かかるぞ。
早く『聖女』になりたいのではなかったのか?」
教皇は、眉間に皺を寄せている。
「先に、内々で『聖女認証』すれば良いでしょ?
姫小路裕美は、どうせもうすぐ死ぬんだから。」
「まだ、死んではいない。油断するな。
目を覚ますかもしれないとは、考えないのか?」
「魔法障壁をあの女が出す前、陵辱前に、睡眠薬を追加したの。
普通なら死んでしまう量を更にね。
結局、陵辱出来なかったけど。
先に飲ませた薬でも起きないくらいだもの。今回だって、たぶん起きないわ。
薬でさっさと死んでくれたら、簡単だったんだけど。」
口を尖らせて拗ねた表情の井上浩美を、教皇は静かに見つめた。
良心のカケラが無さそうな発言に、口元が緩みそうになる。
もう少し、慎重さや我慢強さ、狡猾さがあればとは思うが、自分と合う波長の井上浩美を見ていると、教皇はつい甘やかしてしまいたい衝動にかられた。
本来なら、注意すべき卑怯な行動は、教皇にとっては、楽しみで可愛らしく感じられたのだ。
教皇という立場でありながら、人助けや、自己犠牲などという事に、吐き気がする程の嫌悪感を持っていた所為だろう。
世の中の全ては、自分の為にあればいい。
「・・・まったく、我が娘は、なんていじらしい事か。
ただし、自分から言い出したのだから、後から早くしてなどと言われても聞かぬぞ。」
「分かってるわ。お義父さま。」
ハートが飛び出して来そうな甘ったるい声で喜ぶと、井上浩美は教皇の執務室を後にした。
スキップしそうな足取りで、廊下を歩いて行く。
「良かったですね。」
タリアテリーヌの時から仕えている侍女が、井上浩美に声をかけた。
以前は無口で、言われた通りに動いていただけだったのに、井上浩美に代わってからは、話しかけてくるようになった。
井上浩美の側使えで、反論や意見を言ってくるのはシオンくらいのもので、あとは、返事くらいしかしない中では、少し珍しかった。
「ええ!
あなたが話してくれなかったら、中古の衣装で式典に出されるところだったわ。
ただ、こういう大事な事は、もっと早く言いなさいよね!」
「はい。申し訳ありません。」
「以後気をつけなさい!」
機嫌は良いものの、侍女を叱責した事で興奮したのか、足音を大きくしながら、井上浩美は与えられた部屋へと戻る。
お気に入りの神官のシオンが、教皇の命令でしばらく留守にすると挨拶に来たけれど、井上浩美の頭の中には、新しい衣装の事でいっぱいで、返事もロクにせずに送り出した。
井上浩美の中では既に、姫小路裕美は死んだも同然で、シオンに対してももうあまり用の無い存在だった。
道先案内人で、頼りにしていた始めと違い、もっと身分の高い庇護してくれる教皇がいる。
シオンにしていたわがままを、今度は教皇に言えばいい。
しかも、その教皇は、シオンよりも井上浩美に好意的だ。
謙った態度でありながら、行動を監視、矯正し、井上浩美に心酔しない態度のシオンより、注意をしながらも、結局は同調し、甘やかしてくれる教皇の方が、居心地が良かった。
「ねえ。お茶。」
「はい。かしこまりました。」
「・・・まったく、気が利かないんだから!」
侍女は、ドアの前で一礼して部屋を出た。
井上浩美は、しばらくは衣装の事で頭がいっぱいだろう。
衣装についてが落ち着いてきたら、髪飾りやアクセサリー、招待客などに考えが向くようにすれば良い。
廊下を歩く侍女は、ほとんど表情は変わっていなかったが、いつもより唇の端が上がっていた。
今まで潜伏してきたが、いよいよ自分に大きく動ける機会が舞い降りてきた。
他の同種のほとんどは、これといった変化がないまま一生を過ごす。
侍女が、タリアテリーヌの祖父の邸に潜入する事になった時には、ヴァイロン元伯爵が亡くなるまで、これといった事は起こらないだろうと思っていた。
しかし、転機が訪れた。
ーーーこれで、ご恩に報いる事が出来る!
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