姫の血縁

姫宮瑠璃

文字の大きさ
128 / 150

隠れ家⑥

しおりを挟む
ブリギッテは、頰や目元の筋肉が動かない様に息を吐き、力を抜いた。
顎を上げ、大きく息を吸った。
瞬きが多くならない様に、ゆっくりと目を閉じて開く。
緊張から来る、身体の硬直を他者に感じさせ無いように、指や腕、足を、違和感が無い程度に少し開くようにする。
声を出す前に、飴でも舐めているかのように、舌を口内で動かす。
驚愕や緊張、恐怖を感じた時、人は出来るだけ身体を小さく、丸めようとする。
呼吸が浅くなり、舌の動きは止まり、唾液の分泌量が減り、喉が渇く。
ブリギッテは意図的に、身体に起こりうる筋肉の緊張状態と逆の事をしているのだ。

「・・・まあ!私、ラウド様とは初対面だと思うのですけれど。ラウド様は、私を見かけた事がお有りだったのですか?
同じ職業だといっても、侍従と侍女では立場も内容も侍女の方が劣っていますわ。」

手の硬直を紛らわす為、ブリギッテはエスコートされていたラウドの手を両手で握り込むようにして、身体の緊張をほぐすように、右、左と首を傾げながら、話を逸らした。
ラウドは、そんなブリギッテを爽やかな笑顔を崩さずに、目だけを獲物を狙うかのように獰猛に光らせている。

「私は昨日まで従僕でしたから、侍従になっても任される仕事は似たようなものなのですよ。」
「そうなのですか。昇進、おめでとうございます。」
「ありがとうございます。
私の昇進は、『聖女様』とリリアというメイドのおかげです。」

心なしか、眼光が鋭くなったラウドの言葉に、ブリギッテは疑問を持った。
「昨日まで従僕だった」「リリアの名前を知っている」事から、リリアの言っていた同種が彼の可能性は高い。
本人も、ブリギッテと「同種の事」について話をしたいと言っていたし。
しかし、彼の昇進が「井上とリリアのおかげ」というのはどういう事だろう?
カウンターに案内され、キッチンメイドによそってもらった食事をお盆に乗せ、テーブルまで運ぶ。
ラウドがブリギッテを連れて来たのは、出入り口から1番遠い、食堂全体を見渡せる席だった。
誰かが自分達に近づいて来たらすぐに分かる席だ。
出入り口に顔を向けるようにテーブルにお盆を置いたラウドの向かいに、ブリギッテが自分のお盆を置こうとすると、

「こちらですよ。」

と、ラウドの横にお盆を持っていかれてしまった。
横では顔色を窺いながら話をする事は出来ないが、周りに話を聞かれづらいのは有り難い。
これから話す内容が「同種の事」なら尚更、近づいて来る人を警戒しながら食事するのには、ちょうど良い。
椅子を引いてくれたラウドにお礼を言って、ブリギッテは席に座った。
今日の昼食は、胚芽パンに豆とチキンのトマトスープ、蒸したジャガイモにチーズだった。
控え室で取る食事よりは少し劣るが、下働きの庶民階級からすれば、かなり恵まれた食事だろう。
いつもならば普通に食べ始めるのだが、ブリギッテはラウドの様子を見守った。
枢機卿の侍従なら、食前のお祈りをするかもしれない。
ラウドは、ブリギッテの予想に反して、特に何もせずにスープにスプーンをつけた。
ブリギッテの視線に気付いたラウドが、笑顔を向ける。
ブリギッテも、カトラリーを手に取り、料理を食べ始めた。
「話をしたい」と言っていたラウドは、黙々と食べていた。
気詰まりではあったが、相手が喋らない以上、話す事は無いと、ブリギッテも無言で食べ進めた。
正午の鐘が鳴ると、食堂に居た人達と入れ替わるように、ドヤドヤと使用人や兵士が入って来る。
ラウドは、そのうちの誰かに手を挙げて合図をした。
ブリギッテと会ったのは、たまたまで、元々はその人と待ち合わせでもしていたのだろう。
しばらくすると、1人の兵士がラウドの向かいに、ガシャリとお盆を置いた。

「おい、ラウド。
デートを見せびらかす為に、俺を呼んだんじゃないよな?」

ちょっと不機嫌そうに、兵士はラウドに話しかけた。

「そう見えますか?
それは光栄ですが、残念ながら違います。」

ラウドは、ニッコリと兵士に微笑んだ。

「彼女は、今日のあなたのデート相手ですよ。」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

レベル1のフリはやめた。貸した力を全回収

ソラ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ち、ソラ。 彼はレベル1の無能として蔑まれ、魔王討伐を目前に「お前のようなゴミはいらない」と追放を言い渡される。 だが、傲慢な勇者たちは知らなかった。 自分たちが人間最高峰の力を維持できていたのは、すべてソラの規格外のステータスを『借りていた』からだということを。 「……わかった。貸していた力、すべて返してもらうよ」 契約解除。返還されたレベルは9999。 一瞬にして力を失い、ただの凡人へと転落しパニックに陥る勇者たち。 対するソラは、星を砕くほどの万能感を取り戻しながらも、淡々と宿を去る。 静かな隠居を望むソラだったが、路地裏で「才能なし」と虐げられていた少女ミィナを助けたことで、運命が変わり始める。 「借金の利息として、君を最強にしてあげよう」 これは、世界そのものにステータスを貸し付けていた最強の『貸与者』が、不条理な世界を再定義していく物語。 (本作品はAIを活用して構成・執筆しています)

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...