姫の血縁

姫宮瑠璃

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婚約者①

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白を基調色としたレース模様の壁紙、所々に飾られた色とりどりの花々、ふんだんにレースとフリルで重ねられたカーテン。
壁にかけられた美しい風景画、繊細な彫刻がされたライティングビューローにチェスト。
華奢な猫足の象牙色のテーブルにソファー。
濃淡のあるピンクのクッション。
そして、金細工で豪華に飾られた大きな姿見。
どれもこれも女性を連想させる部屋なのに、そこにいるほとんどが、男性という矛盾。
1人がけのソファーで、康人は両手で頭を支えるように座っていた。

「やっぱり、納得出来ない!」

窓の外を見ていたアランが、髪の毛を手でグシャグシャにしながら、大声を出した。

「な・ん・でっ、王妃の間なんですか⁈」
「え?だって、一応、婚約者だし?」
「それは!・・・方便です。私は認めません。もちろん父も認める訳、ありません。」

クロッシェントに噛み付いたアランは、後半を小声で早口で言った。

「えー。本当にするつもり、満々なんだけど?」
「なりません!」

リストルードは、兄王クロッシェントの後ろで、申し訳無さそうにしていた。
自分が疲れて寝ている間に、兄に押し付けた事が、皆に迷惑という名で襲い掛かっていると思ったからだ。
王であれば慎重に動かなければならないというのに、クロッシェントは時折、考えもつかない動きをするのだ。
今回の事もその1つだ。
エンダールの皆をどのように隠すかを考えていたクロッシェントが、マークライドに相談すると、どうやってもどこかしらから漏れるものだと言われた。
するとクロッシェントは、「じゃあ、大々的に宣伝しよう」と、エンダールとの停戦記念パレードにしてしまった。
教皇や井上に知られないように動く筈が、国民全体に報せる事になるなど、誰が予想するだろう。
しかも、「強力な防御魔法で助かった」と、姫小路裕美の『聖女の繭』を前面に出したパレードだ。
こちらが『聖女』だと、教皇側に喧嘩を売っているとしか思えない。
いつ用意したのか、銀細工の見事な籠のような寝椅子に、真っ白な絹のクッションを置き、青地に白のレースと銀刺繍のある清楚なドレスに身を包んだ姫小路裕美が、『聖女の繭』に囲まれながら、横になっている。
真っ白なクッションに黒髪が広がり、色白の肌に薔薇色の唇が、ベールのような『聖女の繭』に包まれている姿は、とても幻想的だった。
黒髪を忌避するテルニアの人々にさえ、それは『聖女』以外の何者にも思えない程だった。
パレード後に、王が「『薔薇姫』が目覚めたら、プロポーズする」と宣言した時でさえ、歓迎されるくらいだ。
おまけに、『薔薇姫』を巡り、『聖女の甥』と王が争っているという噂まで広がり、国民はこぞってこの話を更に広めるという具合だった。
これは主に、マークライドがパレード中に、康人が姫小路裕美に好意を抱いていると、言いふらした所為だが。

「この部屋ならば、防御の面でも隠れて動くのにも優れている。」

クロッシェントは、鏡の横にあるチェストの1つに向かうと、それを横にずらした。
チェストで隠れていた場所に、分かりにくいが凹みがある。
クロッシェントはその凹みに手を入れると、壁を押した。
すると、壁がドアの様に開いた。
クロッシェントは中には入らず、鏡の反対側横にあるチェストも横にずらした。
同じく凹みがあり、同じ様に開いた。

「廊下側にあるドアは、廊下の先が階段になっていて下の部屋に繋がっている。
反対のドアは、隠し部屋だ。」

マークライドがキーランと共に確認すると、隠し部屋にはテーブルとソファーが置いてある。
もう片方は、入ったすぐ先にドアがあり、開けると壁伝いに廊下があり、その先に階段があった。

「今は鍵を開けてあるが、通常時はこちら側から鍵を掛けてある。
ああ、まだ下の部屋には入らないでくれ。
後で客間としてその部屋に案内させる。」

隠し通路からマークライドとキーランが戻ると、クロッシェントは鏡に左手をかざした。

中指に嵌めていた指輪の宝石が青く光った。
すると、鏡に映っていた景色が変わった。
クロッシェントが鏡に手をつくと、ズブズブと手が中に入っていく。
リストルード以外のエンダールの者達は、目を見開いて息を殺して見ている。
肘近くまで鏡の中に入れた腕を、クロッシェントはゆっくりと引き抜いた。
鏡の表面が揺らめいて、また部屋の中を映しだした。

「城にある鏡は、王や王が許可した者ならば、鏡に映っている情景を観察できるし、行き来する事ができる。
今、使用出来るのは、私とリストルードだけだ。」

マークライドが、クロッシェントの前に進み出て、一礼をした。

「陛下。お聞きしますが、我々にそのような秘密を教えて、よろしいのですか?
我々は、陛下の臣ではありませんよ?」
「確かに、普通ならば教えてはならない事だろう。
まして、この部屋は王妃の間。間諜や暗殺者、間男が、教えた秘密を使う可能性がある。」

クロッシェントは、マークライドの言葉に、ニヤリと唇を上げた。

「だが、それが何だ。
事が終わったら、作り変えれば良いだけだ。
城の構造と重心を考えながら改造しなければ崩壊するかもしれないので、出来るだけ既存のままにしてあるが、私の能力で改造可能だ。」

カッカッカッと笑うクロッシェントの後ろで、リストルードが引きつった笑みを浮かべている。

「それより、隣の部屋にもその隣りの寝室にも仕掛けがあるのだ。
あ、2人の寝室の秘密は教えぬぞ。」
「ヒロミも我々も、その部屋に入る事はありませんから、必要ありません!」

アランが、クロッシェントに噛み付く。
「さあ、見に来い」と楽しそうなクロッシェントと同じくらい楽しんでいるのは、この中ではマークライドとキーランくらいだった。
他の者は、パレードからの一連の流れで、精神的に疲れた様子だ。
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