姫の血縁

姫宮瑠璃

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婚約者③

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康人は、目を瞑ると浮かんでくる姫小路裕美の肢体を、頭の中で必死に掻き消していた。
しかし、それは全くの無駄骨で、掻き消す先からまた浮かんでくる。
おまけに、身体を拭き清めた時の感触まで思い出して、顔が熱くなってくるのだ。
これは決して嫌だからという訳ではない。
寧ろ、他の男の誰かが姫小路裕美に同じ事をするなど、許せないと思うのだが、意識の無い相手に対する罪悪感がひしひしと沸いてくる。

「はあー・・・。」

手を握る事さえ、幼い時に数回、あったかどうかくらいなのに、ここ何日で手を握るどころかそれ以上の接触をしている。
マークライドに言われずとも、康人は、自分の想いが恋なのだと分かっていた。
こちらの世界に来て、姫小路裕美が声を出せなくなってから。
それまでは、「支えたい」「頼りにされたい」という思いだったが、こちらの世界に来て、「守りたい」から「護らなければ」に、そして「側にいたい」「助けるのだ」から「誰にも傷つけさせない!」「守る!」と独占欲が出てきた。
姫小路裕美に起こったトラブルが起因ではあるが、元より諦めようと思いながらも心の奥に押し込んでいた想いだ。
諦めようと思う原因の『姫小路家次期当主』という枷が取れて、浮かび上がってきたに過ぎない。
自分の想いを自覚した途端に、本人に断りも承諾もなく、肌に触れたり、抱き上げたりする事になり、嬉しい反面、姫小路裕美にどう思われるかが心配だった。

ーーー失望されるだろうか・・・。

昔風に言えば「責任を取る」だが、それはただの自己満足だ。
嫌な事をされた相手になど、関わりたくはないだろう。
もちろん、康人からしたら、そんな義務的な責任ではなく、喜んで姫小路裕美を迎えるのだが。

「なんだ、まだここで耽っていたのか。」

隣の部屋から、マークライドが笑いながら姿を見せた。
他の皆より先に、リストルードと共に転送魔法で姫小路裕美と一緒に王妃の寝室に入った康人は、隠し部屋やカラクリなどは知らずとも、王妃の間をすでに見ていた。
クロッシェントに姫小路裕美を渡す気など無いが、裕美自身が望めば、この部屋は姫小路裕美の物となる。
元の世界でも、こちらの世界でも、まだ何者でも無い自分は、クロッシェントに勝てる物を持っていないと、康人は自身の無力を感じていた。
康人は、いろんな感情で混乱気味だったのだ。

「お前も聞いておかなければ、いざという時にヒロミ嬢を守れないぞ。
ほれ、今からヒロミ嬢の元へ行くから、お前も来い。」

ふらつく頭を奮い起こすようにして、康人はマークライドの後に続いた。
寝室には、ヴィンセントが護衛に付いている。
他に、神官だった女性と、井上の執事をしていたシオンが一緒にいた。
敵であったシオンが、「手足を縛ってでもいいので『薔薇姫様』の元に居させて下さい」と強情にも動こうとしなかったので、そのまま寝室に置いてきた。
ヴィンセントもいるし、『聖女の繭』があるので、問題ない。
マークライドから、口頭で軽く隠し部屋や通路の話を聞きながら、隣りの部屋に入ると、寝室への出入り口で皆が固まっていた。
姫小路裕美は、寝室の奥に寝ているのだから、何かが邪魔している筈ないので、さっさと入ればいいのに、皆、茫然としている。

「ほら、何をボーっとしている。
さっさと入って来たまえ。」

部屋の中から、クロッシェントの声がした。
マークライドが咳払いをすると、皆がハッとして場を開けた。
康人はマークライドに付いて、部屋に入った。
部屋に入ってすぐに、リストルードが愕然としている表情が見えた。
疑問に思いながら、中を見ると、部屋の約3分の1がガラス張りになっていて、そのガラス張りの中で姫小路裕美がベッドに横たわっている。
そして、そのガラスに背を向けるようにヴィンセントが仁王立ちで立っており、ヴィンセントの睨む真前に、跪き祈りを捧げるかの様に指を組んだシオンがおり、壁に張り付くようにメイド服に身を包んだ女性神官が立って居た。
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