姫の血縁

姫宮瑠璃

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リストルードとアリアドネ③

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急に意識を無くして倒れたリストルードに引っ張られるように、アリアドネに似た者はリストルードの上に転び落ちた。
リストルードの顎に、アリアドネに似た者の頭が思いっきり当たった。
リストルードは、目を覚まして顎に手を当て、アリアドネに似た者も痛さに頭を押さえた。
そしてリストルードは、またも奇声の様な悲鳴を上げ、部屋の隅へと逃げる。
アリアドネに似た者が近づく度に、壁を這うようにリストルードが距離を取る。
リストルードは気づいてなかったが、何回か続いた鬼ごっこは、数人の従僕に見守られていた。
なので、しばらくすると、従僕達は近くに逃げてきたリストルードの両脇を抱えるように捕まえ、アリアドネに似た者と共に部屋を出た。
もちろん、リストルードは弱々しくも暴れ、叫び声を上げたが、そこに公爵の姿を見つけるとおとなしくなった。
カーテンが開けられ、日の光が入る部屋は、色合いが違っているがアリアドネの部屋によく似ていた。

「殿下。急に居なくなって心配しましたよ。
いつの間にか、魔法が発現していたのですね。
でも、まだ体調が万全ではないのですから、無理をなさらないように。」

リストルードに向かって優しく微笑む公爵を見ていると、リストルードは沸沸と怒りがこみ上げて来た。

「私を心配している場合ではないだろう⁈
お前の娘は、亡くなったのではないのか⁈
それも、私の所為で!」

公爵は、困ったような顔でリストルードに微笑んだ。

「私が、我儘だったから!私が不甲斐ないから!
だから、アリアドネを危険に巻き込み、死なせてしまったのだ!
私が拐われるべきだった!私が死ぬべきだった!」

両脇を掴まれたまま叫ぶリストルードの両頬を、パンッと叩くように押さえられた。
目の前にアリアドネに似た者が居た。
明るい中で見ると、やはりアリアドネではない。
アリアドネより濃い桃色の髪は艶がなくパサパサで、肌は荒れて乾燥し、頰や目元は痩せ細り、ギンギンと浮き上がる瞳は、左右で色が違っている。
紺色と緑色だ。
リストルードの喉の奥で、また悲鳴が上がった。
アリアドネでない以上、は誰なのか。

「死ぬべきだなんて、馬鹿な事言わないの!
何の為に私が死ぬ程頑張ったのか、無駄になるでしょう?
妹だってうかばれないわ。」

何の話か分からない。
リストルードを助けようとしたのはアリアドネであって、アリアドネに似た別人ではないのだから。
まして、そこにこの者の妹がどう関わってくるのか?
顔を必死に引いて、頰を押さえている手から逃げようとしているリストルードを、公爵は寂しげな困った顔で見ている。
助けを求めるように公爵を見ると、アリアドネに似た者の肩に公爵は手を置いた。

「離して差し上げなさい、アリアドネ。」

公爵に言われて、アリアドネに似た者はムスッとしながらリストルードの頬から手を離した。
リストルードは、公爵の言葉に目を見開いた。

「アリ・・・ア、ドネ?・・・この者が?」

視線を向けたくないと先程まで思っていた相手を、リストルードは凝視した。
凝視するまでもなく、アリアドネに似て非なる者だ。

「アリアドネは、殿下が言うように、確かに死にました。
捕まった先から何度も魔法を使い、隠れながらこの邸まで逃げて来たそうです。
魔力を使い果たし、生命力を使いながら。」

アリアドネだという少女を痛々しげに見ながら、公爵は説明し始めた。

「アリアドネが死ぬと、何故かその部屋に殿下が横たわっていました。
その時は、何故殿下が部屋にいるのか分かりませんでしたが・・・、殿下は転移魔法を使われたのですね?」
「・・・。」

たぶんその通りなのだろうと、首を傾げながらも肯首する。

「アリアドネの為に呼んだ医師と治癒士に殿下の治療をさせ、私や妻は死んだアリアドネの側を離れる事が出来ずにいました。
下の娘も余命幾ばかりかなのに、上の娘を亡くしてしまったのですから。」
「・・・。」
「嘆き悲しむ私達の元に、下の娘の世話を任せている侍女が慌てて部屋に駆け込んで来ました。
何年も起き上がる事の無かった下の娘が、起き上がったと言うのです。
しかも、魔法を発現し、浮いて移動してきたではありませんか。
驚く私達を無視して、下の娘はアリアドネに馬乗りになって泣きながら罵倒し始めました。」
「・・・は?」
「『何やってるんだ、何でこんな事するんだ。あなたの身体なんか欲しい訳じゃない!自分の命を大事にしなさい、メディアリア!』と。」
「・・・へ?」
「下の娘のメディアリアが、姉のアリアドネに向かって『メディアリア』と呼んでいるので、おかしいと問うと、『メディアリアが自分の身体と魔力をアリアドネに譲った』と言うのです。」
「・・・はい?」

公爵がイかれてしまったのかと、リストルードは頭を抱えたくなるが、両脇を押さえられている。
おまけに、周りにいる公爵邸の者達はウンウンと頷いている。
そんな非現実的な事があるものかとアリアドネだという少女を見ると、少女が続きを話始めた。

「メディアリアは精霊付きで、夢の中で精霊と遊んでいる内に帰れなくなっちゃったの。
いえ、帰ろうとしなくなっちゃったの。
私より、精霊と遊ぶのが楽しくて・・・。
だから、『身体も命も魔力も魔法も、全部お姉ちゃんにあげる』って夢の中で言われて、気がついたら妹になっちゃってた。
きっと私の身体にメディアリアが入ってるんだと思ってたんだけど、妹は、妹の身体の中で眠っているみたい。」
「・・・ふぁ?」
「・・・身体は1人分だけど、完全に死んでる訳じゃないの。
本人は『身体はお姉ちゃんに任せた』って起きる気無いけど。」

公爵も、周りも皆、複雑そうな顔をしている。
信じられない話だが、雰囲気からしても、騙されている訳ではなさそうだ。
葬儀はメディアリアとして出したらしい。
実際に動いて喋っているのがアリアドネだし、第2王子の婚約者が死ぬより、寝たきりの公爵令嬢が死ぬ方が詮索されないだろうという事だった。
2人は双子だから、死体を見られても問題無いだろうとも。
しかし、リストルードにとっては問題がある。
妹の姿は、リストルードにとっては恐怖だった。
幽霊か、お化けかというくらい痩せ細っている。
もう暴れないだろうと拘束を外されたリストルード、少女がアリアドネだと分かっても近づけなかった。
恐怖を感じるだけでなく、元の姿のアリアドネを自分の所為で殺してしまった罪悪感もあったからだ。
「気にしないで」と笑う少女の笑顔は、元のアリアドネに似ているようで、やはり似ていなかった。
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