姫の血縁

姫宮瑠璃

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魂と記憶②

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「え。あ・・・。」

床に膝をついたままの姿で、メイドは目をオロオロと泳がせた。
3人に囲まれている様子は、肉食獣に睨まれた捕食直前の草食動物だ。
しばらく3人の顔を彷徨っていたメイドの瞳が、クロッシェントで止まった。
一瞬、ギンッと睨みつけるように視線が強くなったかと思った拍子に、メイドは前掛けのポケットに手を入れた。
ソーンがすぐさま、メイドを床に引き倒して押さえつける。

「くっ!離せ!痛い!痛い!」

ソーンがメイドの背中に乗り掛かり、更に床に押さえつけた。
右手は前掛けのポケットに入ったまま、床と押さえつけられた自身の身体で動かす事は出来ず、左手は、ソーンによって、後ろ手に捕らえられ、身動き出来ない。
首の後ろも床に押し付けられていた。

「離せ!離しやがれ!」
「おやおや。王城で働く者が、そんな口調をしてはダメですよ?」
「うるせー!痛い!離せ!」

ソーンは、一度勢い強く首根っこを更に床に押し付けると、その反動でメイドを立たせ、前掛けのポケットに入れていた右手をも、背中側で押さえた。

「ぐぇっ!痛い!!」

立ち上がらされたメイドは、頭が歪みそうな程、顔を床に押さえつけられ、痛みで顔を顰めている。
纏めてあった髪は乱れ、顔は真っ赤だ。
痛みを我慢する為か、手は握り込まれている。
背中に回された右手には、ガラスの小瓶を握りしめていた。

「コイツ、手に何か持っています。」

ソーンの忠告に、マークライドがメイドの手から小瓶を奪った。
中には、黄色い、少しとろみのある液体が入っている。
前掛けのポケットにも、他に何か入ってないか探る。
ポケットには、その他に入っていなかった。
マークライドはスカートの上から、メイドの身体を叩くように触った。

「離せ!触るな!この変態!」

スカートのポケットから、チャリチャリと音がする。
鍵とお金が擦れる音だった。
たぶん鍵は、この部屋の合鍵だろう。
お金も、メイドが普段持ち歩くような金額ではなかった。
太ももには、ギザギザとした刃のダガーを巻き付けてあった。
簡単に身体を調べると、マークライドは、メイドを身動き出来ないように縛り上げた。
一応、魔法も使えないように首にもロープを巻き、後ろに引っ張ると喉が締まるように、ソーンに持たせた。

「さて、お前は何者で、何をしに来た?」
「・・・。」

メイドは、先程叫んでいたのとは違い、顔をクロッシェントとマークライドから逸らして、口を固く閉じている。

「これは、何だ?何が入っている?」
「・・・。」

メイドは、何も喋らない。
マークライドは、ソーンの持っている縄を受け取り、替わりにソーンに小瓶を渡した。
ソーンは、まず外側から中の液体の色を観察し匂いを嗅いでから、慎重に蓋を開けた。
顔から少し離した状態で、手で仰いで匂いを嗅ぐ。
慌てたようにすぐさま瓶の蓋をし、窓を開けに行き、ソーンは外の空気を吸い込んだ。

「どうした、ソーン?大丈夫か?」

少し気分が悪そうな顔で、ソーンはマークライドの方に振り返った。

「・・・大丈夫です。」

引きつった笑顔のソーンの顔は、少し青白く見える。

「本当に大丈夫か?」
「はい。思いっきり吸い込んでませんし。」

ソーンは、開け放していた窓を閉めた。
換気の為に開けたままにしておきたかったが、外に声が漏れるのも拙い。
ソーンは、小瓶の蓋がちゃんと閉まっているか確認すると、その小瓶の液体をクロッシェントとマークライドによく見えるように眼上に掲げた。

「たぶんこの液体は、『』です。」
「「『王水』?」」
「はい。多くの貴金属を溶かすです。」
「「「!」」」

クロッシェントとマークライドだけでなく、縛り上げられているメイドまで、目を大きく見開いた。

「う、嘘だ!
少し火傷する程度だって。洗剤と同じだから、早めに水で洗えば大丈夫だって・・・。」

メイドは狼狽たように、身体を揺らした。

「少しではありませんが、火傷したように皮膚が焼け爛れるでしょう。
ガラス製品の洗浄に使われる事がありますから、洗剤と言っても嘘ではありません。」

ソーンが説明を付け加えると、メイドは目を潤ませた。

「騙された・・・ギルドに?それともギルドも?」

メイドの言葉に、クロッシェントが反応した。

「なるほど。お前は、冒険者か。」
「・・・。」
「誰からのどんな仕事を受けた?」
「・・・誰からかは知らない。ギルドで受けただけだ。
・・・エンダールのに、見える場所、できれば顔に、残る傷をつけろと。
失明させれたら、報酬は10倍だと、小瓶を渡された。」
「・・・ほう?ねぇ。」

今、姫小路裕美を『エンダールの』と呼ぶ者は、教皇派くらいなものだ。
パレードを見た者達は、説明などせずとも、真の『聖女』だと思っている。

「その指示書は、いつ発行されたか分かるか?
お前はいつ、それを受けた?」

パレード前であれば、姫小路裕美を『魔女』と評する者は多い。
姫小路裕美の誘拐も、教皇派によって、貴族達に広められていた。

「いつ発行されたのかは、分からない。
今朝までは、張り出されて無かった。」
「今朝、ギルドで確認した時には無かったと?」
「人混みは苦手だから、今朝はパレードは見ずに素材回収の依頼を受けていたんだ。
昼過ぎにギルドに戻ったら張り出されてて、城への潜入は助けてくれるっていうし、何より金額が破格だったし、簡単そうだったから。
失明させるのはどうかと思ったけど、敵国の魔女だろ?
そんくらいしなきゃ力を削げないだろうし、殺す訳じゃないし。」
「いえ、目や鼻、口に入ったら、ショック死もあり得ます。」

ベラベラと喋り始めたメイド姿の冒険者に、ソーンが認識違いだと言ったが、「それがどうした」といった体だ。

「この部屋で王様見るまでは、万が一死んじゃっても大丈夫って思ってたさ。
この薬で死ぬなんて、これっぽっちも思って無かったけど。
てっきり、王様の秘密の指示だと思ってたし。」
「ほう?それはどうしてだ?」
「だって、門番には話が通ってて何の問題無く城に入れたし、迎えの女にはメイド達はすれ違う度に頭を下げるし、ここに持ってくるお茶を渡してくれた女は廊下で寝てる騎士達に敬われてたし。
なにより、騎士達に薬盛って眠らせるのは、「陛下の指示だと、敵に疑いを持たれない為の予防」だって言ってたから。」
「なに⁈」
「だから王様を見て、「何でお前ここに居るんだよ」って思ったんじゃん。
もしかして、王様に薬を渡せば、多少報酬もらえるのかなって思って薬を取り出そうとしたら、床に引き倒されたんだよ。」

開き直ってよく喋るメイド姿の冒険者が、嘘を言っているようには思えない。
思っている以上に近い距離に、教皇の手先が紛れ込んでいるようだ。


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