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はち
しおりを挟むアンナとミシュリーヌが二人で馬車に揺られること数時間。途中で休憩をはさみながらとはいえ、長い時間座りっぱなしだった。
辻馬車とは違い、クッションもたっぷりな車内では、のどかな風景楽しむほかはなく。年頃の女の子がそろえば話題に事欠くことはなかったが、メインの開始前から疲れてしまったのは内緒だ。
会場に着いたのは、太陽も天辺を通り過ぎてからだった。
「わぁ……広いのね」
業者に手を預けながら馬車を降りて、ミシュリーヌの第一声。
先に降りたアンナが振り返る。
「当然、領地としても広大だもの。お屋敷も我が家とは比べものにならないほど広いわよ、ここ」
馬車を降りる前から、生垣が道沿い続くなぁとは思っていたが、それが全て敷地を区切っているものだったらしい。
門を潜ってからも、どこまで行くのか訝しむ程度には進んだ。てっきり、門を通り過ぎればすぐに徒歩になると思っていたのだ。
アンナが受付すませている間、凝った飾り彫りの支柱に目を奪われていた。繊細なレリーフで可憐な花模様が刻まれている。
「ミミ~! こちらにいらっしゃいな~」
よく通る声を抑え気味にしてアンナが呼んでいる。少し名残惜しくなりながらも、アンナの元へ向かった。
お茶会の会場は、立食形式のガーデンパーティーだった。
すでに自分たち以外の人間も多数お集まりのようで、グラスを片手に小さいテーブルを囲む集団がいくつかできている。さすがに昼間だし、アルコールではない、よね?
ミシュリーヌとアンナもグラスを受け取り、会場の端に用意されている軽食の並ぶテーブルへ向かった。
移動時間も長ければ、そこそこにお腹も空いた。
色とりどりの一口サイズの焼き菓子や、食べやすいサイズに用意された軽食はどれをいただこうか悩んでしまう。
食堂のメニューの参考にならないかしら。そんなことを考えながら、少しづつ頂戴していく。
「あら、公爵夫人がお見えになったわ」
隣で一緒についばんでいたアンナが声をあげる。視線を追えば、本日のホストの登場だった。周りも自然と、夫人へと身体を向ける。
「お集まりの皆様、ご機嫌よう。すでに楽しんでいただけているかしら?」
凛としたよく通る声が響く。
リディア・グランデール公爵夫人。現王の妹で、グランデール公爵家へと降嫁された社交界の華。身分に囚われぬ広い見識の持ち主で、それでいて彼女が白と言えば黒でも白になる。
お忍びが趣味だと風の噂があるが、多忙であろう彼女が一体いつ市井に紛れるというのだろうか。でも、ミシュリーヌでも知っているくらいには信憑性のある噂が流れている。
「短い時間の出会いだけれど、存分に楽しんでほしいわ。私も若い方々とのお喋りをとても楽しみにしているの。こちらにもいらしてね」
ひとつお辞儀をされ、ゲストたちも合わせて挨拶を返す。一応、それが開始の合図となっているようで、少しづつ夫人のもとへ個別挨拶に向かう人たちがいた。
「一度に押し掛けてもご迷惑だから、こういうのは順番が決まってるのよ。受付の時に、目安の時間を聞いてるからミミも挨拶に行きましょうね」
アンナに任せっぱなしにしていた受付で、そんなやりとりがあっただなんて。
夫人へのお話も重要だけれど、今日のお茶会はあつらえられた出会いの場、なのだろう。招待された条件から考えても、行き遅れかけてる適齢期の男女の出会いを目論んでいる。
ミシュリーヌ自身は独り身でまったく問題を感じていないけれど、アンナはこれでも領主のお嬢様だから、婚約者がいてもおかしくはないのだけれど。優秀な兄の影に隠れて逃げ回っているのは知っている。
ロランには素敵な婚約者がいるから、お家としては安泰なのだろうけど。
男性に声をかけられ、アンナはそちらとお話を始めたので、ミシュリーヌは少し離れた。
今日は進んで壁の花になる気しかない。
会場を彩る青から赤までグラデーションを取り揃えている紫陽花を眺めながら、グラスを傾ける。夫人のもとへ向かう時には、アンナが迎えにきてくれるだろうと思いながら、なるべく気配を消すべく端による。
ミシュリーヌ同様に、出会いを求めではなく付き添いで参加している令嬢も少なくはないようで、積極的に殿方との会話を楽しみたがっているグループとは距離ができているようだ。
視界にはアンナが確認できる程度に離れつつ、休憩ができるベンチに腰かける。
お誘い、お断り。と言わんばかりに山盛りのケーキをのせたお皿を片手に心ゆくまで頬張る。
甘すぎないクリームに、アクセントの木苺に、サクサクのパイ生地に。
これを作ってくれている料理人の方にいろいろお聞きしたい。
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