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なな
しおりを挟むミシュリーヌが起きた時、外はまだ暗かった。
用意された客室のベッドで、普段より断然柔らかい布団に包まれて、すっかり熟睡してしまった。
大きく伸びをしてベッドから降りる。そのまま軽く柔軟をする。
アンナの言う早い時間が、いまいちピンとこなかったが、よく考えたらいつもの時間に起きても世間でいうところの早起きには分類されるなと思い出した。
明け切っていないとはいえ、外は次第に白み始めてくる。陽が昇りだすよりも少し早く。いつもの起床時間だった。
寝巻きのまま、ゆっくりと身体をほぐしていく。
今日のお茶会用に用意されたドレス一式は、クローゼットにセットされている。
一人で着られないこともなさそうだけど、メイドさん達の仕事を取りあげるわけにもいない。着付けについても、もう全部任せてしまおう。
自宅でないだけで、起きてからやるべきことのなんと少ないことか。
腕、首、腰、脚。一通りほぐし終えて、また大きく伸びをしたところで、コンコン、と控えめなノック音がした。
「どうぞ~」
「おはようございます、もう起きてらしたんですね。すぐに洗顔用のお湯を用意しますね」
「ありがとうございます」
返事があるとは思ってなかったらしい。メイドさんは顔を覗かせて、すぐにまた廊下に引き返す。
さほど時間もおかず、ぬるま湯を張った桶を持って戻ってきた。
邪魔にならないように髪をひとまとめにし、ありがたくお湯を使わせてもらう。
その間にメイドさんは手早くドレスの用意をしてくれた。
「着替えられたらサンドウィッチをご用意しておりますので、軽くお召し上がりください。何も食べずに出発されますと、馬車酔いしかねませんので」
「それもそうですね。ありがとうございます、いただきますね」
昨日も一度着ているから、手間取ることもなくすんなりと着替えられる。手袋を付けていないだけで、すっかりお出かけ仕様になった。
窓からは朝焼けがカーテンを照らしはじめる。
「今日は天気も良さそうで、お茶会日和でなによりです。ミミ様、くれぐれもアンナ様が暴走しないようにだけ見守ってくださいね」
「私がここにお邪魔してる時点ですでに十分暴走してる気がするけど」
「まだ可愛いものじゃないですか、ミミ様がいらっしゃるからってやっとお茶会に参加してくださるんですから。いいんですよ、お屋敷から逃亡されていても行き先としては大抵がミミ様のお宿とわかっていますから、屋敷の者もさほど心配していないんです。行動範囲の狭い猪突猛進はすぐに見つけてくださいますから、ロラン様が」
兄に暴走妹を任せすぎではないだろうか。
信頼されている素敵なお兄さん、なんだよね。そういうことなんだよね!
無理やり納得しようと、にっこり笑顔を貼りつける。
「ミミ~用意できてるかしら~?」
「おはよう、アンナ。すっかり着替えて先にいただいてるわよ」
「おはよう。そうだろうと思って、私の分もこっちに持ってきちゃった」
軽いノックの後、返事を待たずに顔を出すアンナに、たまごサンドを片手に答える。
後ろからティーセット揃えたワゴンを運ぶメイドさんに、軽食なのになんて豪華な。と内心驚いたが顔には出さないように気をつけた。
「朝から慌しくて悪いけど、食べたら早々に出ないと。遅刻することはないと思うけど、早すぎることないくらいだろうから。開始時間はいいとしても、距離が微妙なのよね」
そう言いながら、アンナはティーカップを傾ける。
急いでいるようでいて、丁寧に食べていく。店で見るのとはまた違った姿に、思わずミシュリーヌの手が止まっていた。
「……なによ、ミミ? どうかしたの?」
「ううん、ちゃんとお嬢様してるアンナを見るのが久しぶりだなぁと思って」
普段はわりとお転婆なところばかり見ているので、ご令嬢だということを忘れがちだったりする。
実際、お嬢様業からできる限り逃げ回っているアンナなので、ミシュリーヌの認識も間違いではない。
「さすがに、最低限はね。習慣付けてないと、不意を突かれたときに慌てるのは自分だから。今日はなおのこと気、張らなきゃって思ったら、固くなるのよね」
ぎこちない? 不自然かな?
不安そうに尋ねてくるけど、違和感はないので大丈夫だと思う。
そろそろ出発のお時間ですよ、とメイドさんに声をかけられるまで、大丈夫だいじょうぶ。となだめ続ける時間が過ぎた。
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