一輪挿しの舞い散るころに

宮下ほたる

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いつでも振り回される

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 土曜日の出掛け帰りに、シュークリームを買って帰った。
 家の鍵を取り出したところで、刹那さんの家から誰かが出てきた。

「今日はお世話になりました。この件、よろしくお願いします」

「えぇ、どうにかなると思う。だからあなたはあまり考えすぎないでね」

 刹那さんはニコニコと手を振ってお見送りをしていた。
 わたしには彼女のお客さんらしき人は扉の陰に隠れて見えなかった。
 聞き覚えと違和感のある力無い声だけを残してその人は帰っていった。

「め~ぐみちゃん。どうしてそんなところに隠れているのかしら?」

 刹那さんは背を向けたままでわたしを呼んだ。手はまだ振っている。しっかりと気づかれていたらしい。

「そんなにあたしのお客さんにお会いしたくないの?」

「そういうわけじゃないですし、ましてや隠れていたつもりもないけど。わたしの名前は『めぐみ』じゃなくて『けい』です。半年近くなるのでそろそろ直してもらえませんか?」

「いいじゃない。めぐみちゃんだってさん付けやめてくれないし、三文字のほうが響きは可愛くて愛嬌があるわ」

「そんなこと言ってると、お土産のシュークリームはあげませんよ」

「そんな! めぐみちゃんのいけず! お茶入れてあげるからいらっしゃいな」

 毎度のやり取りとはいえ、わたしはいつ彼女から名前を呼んでもらえるのだろうか。もちろん、正式名称で。何度も訂正しているけれど、わたしの名前は『赤峰恵』だ。『あかみね けい』。

 刹那さんがわたしを招く、イコール、また何か頼まれるのだろうな……
 案の定、紅茶を飲んでシュークリームのクリームを落とすまいと格闘していると。

「……だから、ちょっと遠くになりそうなんだけど、お出かけしてきてほしいんだ」

 と、切り出してきた。

 ……今の『だから』はどこから出てきたのだろう。
 この紅茶は最近買った中で珍しく当たりの茶葉を使ったスペシャルブレンドだとか、まったく関係のないお話ししていましたよね、あなたは。
 わたしはあきれてため息をついた。

「どこに、ですか?」

 それでも、今週はあと休日だけだしべつに平気かな、とか考えて返事をしている。甘いのかな……

「『闇色水晶のかけら』がほしいの。とびきり上等なやつを」

 にっこりと答える刹那さん。それ、質問の答えになってないことわかってますか。

「…オーナメントの名称じゃなくて、それの場所を教えてください」

「とりあえず、それがあれば相殺出来ると思うのよね」

 どうやらわかってないらしい。

「刹那さ~ん、カムバ~ック。わたしには話がまったく見えてませんから、説明をプリーズミー」

 刹那さんは早々にナイフとフォークを使っての食べ方を放棄している。シューからこぼれるクリームが今にも腕を伝って落ちそうだ。

「さっきの女性、今回はいつもと違って厄介そうで。あたしの手持ちのオーナメントだと対応出来そうにないの。だから、めぐみちゃんに物品追加をお願いしたくて」

 いつまでたっても『めぐみ』から『けい』に戻らないのはもう諦めようか…。うん、わたしもそろそろ学習しようか。

「それで遠くまでのお出かけですか? 順を追ってもらわないとわたしの頭の中がこんがらがってるんですけど」

 わたしも彼女を見習って、半分崩れたシュークリームを手づかみにした。
 で、どうなんですか。と、手についたクリームをなめながら視線だけで催促すると、彼女は微笑んで。

「それでもめぐみちゃんは見つけてきてくれるでしょ?」

「…………」

 きた、きた、わたしが絶対に抗えない必殺、首かしげと上目づかい! この人わかった上でやってるに違いない!

「ね? めぐみちゃん」

 お願いのダメ押しをしないで…。結局折れるのはわたしだって決まってるんだから。

「――っ、そうですね、わかりました。行ってくるのはいいのでとにかく場所を教えてください」

「ほんと? ありがとう! さすがめぐみちゃん! あのね、場所は不確定なんだけど……」

「あ……またわたしが所在地から探さないといけないんですか」

「東のほうにあるらしいから、行き当たりばったりでよろしく!」

 やっぱり刹那さんからの頼み事はいつも突拍子と計画性がなさ過ぎる。


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