57 / 99
隣国編
57陽光は静かに絡めとる
謁見の間は、黄金のモザイクと白大理石がまばゆく輝いていた。
高い天井から吊るされた水晶灯が、窓から射し込む午後の光を受けてきらめき、その反射が壁面に揺らめく。
床を覆う緋色の絨毯の両脇には、背の高い金の柱が並び、柱頭には太陽の紋が浮き彫りにされている。
この国は「太陽に愛された国」と呼ばれ、黄金色は権威と祝福の象徴だった。
その中央、来訪者を迎える席に立つのは、帝国の名誉元帥ヴァルター・フォン・ロゼンクロイツ。
光を受けたその姿は、まるでこの国の象徴色を凝縮したかのようだった。
燦めく金糸のような髪はわずかな動きで陽光をはじき、肌は陶磁のように滑らかでありながら温もりを含む白。
長身に纏った深い軍礼服は、鋭い線と緩やかな曲線の対比でその均整を際立たせ、瞳に宿るのは陽光を閉じ込めたかのような琥珀色――覗き込む者を底から掬い上げる光だ。
後方には黒衣のユリウスが静かに控え、そのさらに後ろには第一皇女ナナが、表情を抑えて立っていた。
参謀が一歩進み出て、朗々と声を張る。
「帝国の名誉元帥ヴァルター・フォン・ロゼンクロイツ閣下、および随行の方々でございます」
表向きは軍事助言を仰ぐための招聘。形式は歓迎の場だが、その空気の奥には互いを値踏みする視線が潜んでいた。
その時、奥の扉が静かに開く。
金と黒の刺繍を施した長衣を纏い、女帝がゆるやかな歩調で入室する。
揺るぎない威厳を纏いながら歩みを進めたその足が、ヴァルターの正面でふと止まった。
視線が彼に注がれる。
女帝の国を象徴する陽光の色を、そのまま人の形にしたような存在――その光景に、女帝の瞳が一瞬だけ見開かれる。
息を吸い、紅を引いた唇がわずかに綻んだ。
「……まあ」
低く、息に混じる感嘆。
「これほどの……」
ヴァルターは変わらぬ礼儀正しい所作で深く一礼したが、その姿が黄金の間に差し込む光をさらに強くするように見え、廷臣たちの間にざわめきが生まれた。
女帝の感嘆が謁見の間に淡く響くと、参謀は即座に一歩進み出て頭を垂れる。
「陛下、閣下の軍略は諸国に並ぶ者なしと評判です。本日は、この国の防衛計画についてご助言を賜りたく――」
声には礼節と期待が織り込まれ、周囲の廷臣たちは同意のように頷いた。
女帝はゆるりと玉座へ腰を下ろし、視線を逸らさぬまま柔らかな微笑を浮かべる。
「ええ……太陽の恩寵を受けたこの国を守る策なら、なおさら聞いてみたいものですわ」
言葉は歓迎の体裁を保ちつつも、その瞳の奥に、国防を論じるときの鋭さとは異なる柔らかな光が宿った。
背後の黒衣、ユリウス殿下は感情を表に出さず、女帝の視線の色を静かに見極めている。
わずかな顎の傾きでヴァルターの立ち位置や間合いを確認するその所作は、従者を超えた冷静さと指揮官の目を兼ね備えていた。
一方、ユリウスの背後に控えるナナは、感情を押し殺した面差しのまま、時折視線をわずかに動かす。
それは女帝でも参謀でもなく、ヴァルターとユリウスの間を測る動きだった。
参謀が促す。
「では、陛下よりお許しを賜りましたら、閣下のご意見を……」
玉座から、金糸の袖が軽く動く。
「ええ、始めましょう。――名誉元帥」
黄金に満ちた謁見の間で、静かな視線が交差する。
高い天井から吊るされた水晶灯が、窓から射し込む午後の光を受けてきらめき、その反射が壁面に揺らめく。
床を覆う緋色の絨毯の両脇には、背の高い金の柱が並び、柱頭には太陽の紋が浮き彫りにされている。
この国は「太陽に愛された国」と呼ばれ、黄金色は権威と祝福の象徴だった。
その中央、来訪者を迎える席に立つのは、帝国の名誉元帥ヴァルター・フォン・ロゼンクロイツ。
光を受けたその姿は、まるでこの国の象徴色を凝縮したかのようだった。
燦めく金糸のような髪はわずかな動きで陽光をはじき、肌は陶磁のように滑らかでありながら温もりを含む白。
長身に纏った深い軍礼服は、鋭い線と緩やかな曲線の対比でその均整を際立たせ、瞳に宿るのは陽光を閉じ込めたかのような琥珀色――覗き込む者を底から掬い上げる光だ。
後方には黒衣のユリウスが静かに控え、そのさらに後ろには第一皇女ナナが、表情を抑えて立っていた。
参謀が一歩進み出て、朗々と声を張る。
「帝国の名誉元帥ヴァルター・フォン・ロゼンクロイツ閣下、および随行の方々でございます」
表向きは軍事助言を仰ぐための招聘。形式は歓迎の場だが、その空気の奥には互いを値踏みする視線が潜んでいた。
その時、奥の扉が静かに開く。
金と黒の刺繍を施した長衣を纏い、女帝がゆるやかな歩調で入室する。
揺るぎない威厳を纏いながら歩みを進めたその足が、ヴァルターの正面でふと止まった。
視線が彼に注がれる。
女帝の国を象徴する陽光の色を、そのまま人の形にしたような存在――その光景に、女帝の瞳が一瞬だけ見開かれる。
息を吸い、紅を引いた唇がわずかに綻んだ。
「……まあ」
低く、息に混じる感嘆。
「これほどの……」
ヴァルターは変わらぬ礼儀正しい所作で深く一礼したが、その姿が黄金の間に差し込む光をさらに強くするように見え、廷臣たちの間にざわめきが生まれた。
女帝の感嘆が謁見の間に淡く響くと、参謀は即座に一歩進み出て頭を垂れる。
「陛下、閣下の軍略は諸国に並ぶ者なしと評判です。本日は、この国の防衛計画についてご助言を賜りたく――」
声には礼節と期待が織り込まれ、周囲の廷臣たちは同意のように頷いた。
女帝はゆるりと玉座へ腰を下ろし、視線を逸らさぬまま柔らかな微笑を浮かべる。
「ええ……太陽の恩寵を受けたこの国を守る策なら、なおさら聞いてみたいものですわ」
言葉は歓迎の体裁を保ちつつも、その瞳の奥に、国防を論じるときの鋭さとは異なる柔らかな光が宿った。
背後の黒衣、ユリウス殿下は感情を表に出さず、女帝の視線の色を静かに見極めている。
わずかな顎の傾きでヴァルターの立ち位置や間合いを確認するその所作は、従者を超えた冷静さと指揮官の目を兼ね備えていた。
一方、ユリウスの背後に控えるナナは、感情を押し殺した面差しのまま、時折視線をわずかに動かす。
それは女帝でも参謀でもなく、ヴァルターとユリウスの間を測る動きだった。
参謀が促す。
「では、陛下よりお許しを賜りましたら、閣下のご意見を……」
玉座から、金糸の袖が軽く動く。
「ええ、始めましょう。――名誉元帥」
黄金に満ちた謁見の間で、静かな視線が交差する。
あなたにおすすめの小説
イリス、今度はあなたの味方
さくたろう
恋愛
20歳で死んでしまったとある彼女は、前世でどハマりした小説、「ローザリアの聖女」の登場人物に生まれ変わってしまっていた。それもなんと、偽の聖女として処刑される予定の不遇令嬢イリスとして。
今度こそ長生きしたいイリスは、ラスボス予定の血の繋がらない兄ディミトリオスと死ぬ運命の両親を守るため、偽の聖女となって処刑される未来を防ぐべく奮闘する。
※小説家になろう様にも掲載しています。
完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました
らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。
そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。
しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような…
完結決定済み
王宮の万能メイド、偏屈魔術師を餌付けする
葉山あおい
恋愛
王宮で働く勤続八年のメイド、エレナ・フォスター。仕事は完璧だが愛想がない彼女は、いつしか「鉄の女」と呼ばれ恐れられていた。
そんな彼女に下された辞令は、王宮の敷地内にありながら「魔窟」と呼ばれる『北の塔』の専属メイドになること。そこの主である宮廷魔術師団長・シルヴィス・クローデルは、稀代の天才ながら極度の人嫌い&生活能力ゼロの偏屈男だった!
ゴミ屋敷と化した塔をピカピカに掃除し、栄養失調寸前の彼に絶品の手料理を振る舞うエレナ。黄金色のオムレツ、とろける煮込みハンバーグ、特製カツサンド……。美味しいご飯で餌付けされた魔術師様は、次第にエレナへの独占欲を露わにし始めて――?
意地悪な聖女や侯爵夫人のいびりも、完璧なスキルで華麗に返り討ち。平民出身のメイドが、身分差を乗り越えて幸せな花嫁になるまでの、美味しくて甘いシンデレラストーリー。
異世界に逃げたシングルマザー経理は、定時退勤だけは譲れない
木風
恋愛
DV夫から一歳の娘を抱えて逃げた鈴木優子は、光に飲まれて異世界の王宮へ転移してしまう。
生きるために差し出した武器は簿記と経理経験――崩壊寸前の王宮会計を『複式簿記』で立て直すことに。
ただし譲れない条件はひとつ、「午後五時の定時退勤」。娘の迎えが最優先だからだ。
その姿勢に、なぜか若き国王ヴィクトルが毎日経理室へ通い始めて――仕事と子育ての先に、家族の形が芽吹いていく。
【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない
くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、
軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。
言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。
――そして初めて、夫は気づく。
自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。
一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、
「必要とされる存在」として歩き始めていた。
去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。
これは、失ってから愛に気づいた男と、
二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。
――今さら、遅いのです。
【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
【本編完結・番外編追記】「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と婚約者が言っていたので、1番好きな女性と結婚させてあげることにしました。
As-me.com
恋愛
ある日、偶然に「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」とお友達に楽しそうに宣言する婚約者を見つけてしまいました。
例え2番目でもちゃんと愛しているから結婚にはなんの問題も無いとおっしゃりますが……そんな婚約者様はとんでもない問題児でした。
愛も無い、信頼も無い、領地にメリットも無い。そんな無い無い尽くしの婚約者様と結婚しても幸せになれる気がしません。
ねぇ、婚約者様。私は他の女性を愛するあなたと結婚なんてしたくありませんわ。絶対婚約破棄します!
あなたはあなたで、1番好きな人と結婚してくださいな。
番外編追記しました。
スピンオフ作品「幼なじみの年下王太子は取り扱い注意!」は、番外編のその後の話です。大人になったルゥナの話です。こちらもよろしくお願いします!
※この作品は『「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と婚約者が言っていたので、1番好きな女性と結婚させてあげることにしました。 』のリメイク版です。内容はほぼ一緒ですが、細かい設定などを書き直してあります。
*元作品は都合により削除致しました。
白い結婚のまま、旦那様は薔薇のような美人に夢中になりました
柴田はつみ
恋愛
伯爵令嬢リディアは、美貌で有名な侯爵レオンハルトに嫁いだ。
けれど結婚して二年、夫婦は一度も結ばれないまま――白い結婚だった。
それでも旦那様は優しかった。
冷たいわけではない。気づかいの言葉も、穏やかな笑顔もくれる。
だからリディアは、愛されてはいなくても、いつか少しは夫婦になれるのではないかと信じていた。
そんなある日、彼女は知ってしまう。
旦那様が薔薇の君と呼ばれる絶世の美女に心を奪われていることを。
彼が触れなかったのは私にだけだったのだと。
都合のいい奥方として、役に立っていたと悟る
静かに離縁を決意したリディアは、実家へ戻ったあと、女子学院で働き始める。
すると侯爵夫人時代には当たり前だった実務のすべてが、外では驚くほど必要とされていた。
感謝され、認められ、自分の足で立ち始めた彼女は、少しずつ見違えるほど美しくなっていく