下っ端公務員の俺は派遣のαに恋してる【完結済】

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モーニングコーヒー

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それから、俺と朝比奈さんは同じベッドで眠った。
 ――僭越ながら、手を繋いで。
 一人暮らしにしては大きめのダブルマットレス。
 背の高い朝比奈さんと寝ても、距離は近いがなんとか収まる。
 べ、べつに最初からそのつもりで買ったわけじゃないんだからねっ? ……古いか。
 隣に人がいるなんて初めてで、眠れないかと思っていた。
 けれど、すぐそばに感じる温もりが心地よくて――
 気づけば、すぐに眠ってしまっていたらしい。





 翌朝。
 早起きの俺はシャワーを浴び、着替えながらクローゼットを開けていた。
 ほどなくして、寝ぼけまなこの朝比奈さんが起きてくる。

「……おはようございます」
「おはよう。今日、仕事だよね? 服どうする?」
「いえ、僕は今日、有給休暇を取ってます」
「なんだって?!」
「今日は通院で……」
 その言葉に、俺はふと口をついて出てしまった。
「もしかして、αの関係で?」

 朝比奈さんは特に嫌な顔もせず、柔らかく頷いた。

「はい。……抑制剤は、月に一度の処方なんですよ」

 ――ああ、そういえば。
 定期的に職場で見かけない時があるのは、そういうことだったのか。
 朝比奈さんは顔を洗うと、タオルで髪を拭きながらこちらを見た。

「野々宮さん、コテってあります?」
「……籠手?」

 反射的にゲームの防具を思い浮かべた俺の顔を見て、朝比奈さんが何かを察する。

「……ヘアアイロンとか!」

 ……うん、ない。
 整髪料すら怪しい俺の部屋に、そんな洒落た道具があるはずもない。
 ごめん、今度買おう。

 ――朝比奈さんが、また泊まりに来ても困らないように。
 ……って、何考えてんだ俺。

 ドライヤーを終えた朝比奈さんは、いつものふわっとした前髪ではなく、真っ直ぐに下ろしていた。
 ストレート。
 それだけで雰囲気がまるで違う。
 大人びた穏やかさから一転、少し尖った若々しさを帯びて――
 やけにかっこいい。

「前髪ストレートも似合ってるね」
「そうですか? 野々宮さんがそう言うなら、たまにやってもいいですけど」

 ……なにそれ、可愛い。俺の嫁か。
 心の中で思わず悶絶した。





出勤の道すがら、朝比奈さんはぽつぽつと話してくれた。

「音楽の世界って、αとΩばかりなんです。
感性も本能も強くて……僕みたいなαでも、正直きつくて」

「……だから市役所に?」

「はい。家族が“公務員ならΩはいないだろう”って。
市会議員に話を通してくれたみたいで」

なるほど。
コネである。しかもたぶん、由緒正しいやつ。

早めに家を出たせいで、出勤まで少し時間が余った。

通りの〈ムーンバックス〉がちょうど開いていたので寄ることにした。

「俺、ドリップコーヒー」
「僕は……アールグレイティーラテで」

甘い香りのする紅茶。
まるで本人の雰囲気みたいだなと思った。

俺が財布を出そうとした瞬間、朝比奈さんは慌てて手を伸ばした。

「ダメです。今まで奢ってもらってばかりですし。
コンビニの手土産までお金渡そうとして……怒りましたよね、僕」

小さく眉を寄せながら、きっちり支払いを済ませる。
その姿が妙に真面目で、可愛かった。

二人でムーンバックスの高いカウンター席に並んで座り、
通りを行き交う人々を眺めていた。

朝比奈さんは、まだ少し眠そうだった。

家で寝かせておいた方がよかっただろうか。
いや、家に一人で残すのもどうかと思うし……。
それに、家が遠いわけでもない。

結局どちらが正解だったのかは分からないまま、
コーヒーの湯気をぼんやりと見つめる。

ふと、気になっていたことを口にした。

「抑制剤って、副作用とかないの?」

「うーん、最近のは全然ですよ。
α向けのやつは進化早いんです」

「α向け?」

「だって、作らせてるの大体αですから。
そりゃ自分たちの薬はいいの作りますよ」

「あー……なるほど」

「Ωの方の薬は、効き目強すぎて眠くなるらしいです。
αは“仕事に支障が出る”って言って改良されたのに、
Ωはまだ放置気味って、なんかひどいですよね」

そう言いながら、カップを両手で包んで
ミルクの泡をそっと舐めとる仕草が、妙に可愛かった。

「それより、今日お仕事終わったらまた会いましょうよ!」

「え?」

「僕、迎えに行くんで」

その言い方があまりに自然で、
思わずコーヒーをこぼしそうになった。

「……迎えに、って」

「はい。だってもう、“次”の約束、しましたよね?」

まっすぐな笑顔。
その声が、朝のざわめきよりずっと近く感じた。

コーヒーの香りが、少し甘くなった気がした。



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