15 / 27
穏やかな日常
しおりを挟む
あれから、朝比奈真人とは残業のない日は会うようになった。
仕事終わりにムーンバックスで待ち合わせをして、他愛のない話をして、帰り道で腕を組まれる。
二人でスーパーで買い物をし、俺の家でご飯を食べて、映画を観て、ソファでくっついて寝落ちする――それだけで幸せだった。
朝比奈さん…真人は、よく笑うようになった。
大型犬のように甘えたかと思えば、唐突に俺の手を握って、「譲さんの手が好きです」と言ったりする。
ちなみに「唇が好きです」「目が好きです」……あとは、そういうことの最中に「ここが好きです」なんていう、いろんなバリエーションがある。(照れ)
そのたびに心臓が跳ねる。嬉しい。
……けど、俺はまだ“好き”という言葉を口にできていなかった。
真人が特別なのは当たり前で、もう生活の一部みたいな存在なのに、
言葉にした瞬間、何かが壊れてしまうような気がしていた。
今日もそうだった。
二人で思う存分イチャついた後、
「……僕のこと、嫌いじゃないですよね?」
突然そんなことを言われて、思わず吹き出した。
「嫌いなわけないじゃないか!」
「じゃあ……好きです?」
真人は子犬みたいな目で覗き込んでくる。
「……」
答えられなかった。言えば簡単なのに、言えなかった。
「僕ばっかり“好き”って言ってる。……たまには言われたいです」
そう言って、頬を膨らませて顔を背けた。
――可愛い。
それだけで胸が痛くなるほど愛しくて、言葉が喉に詰まる。
でも、それでも、口にできない。
代わりに、肩を抱き寄せて、そっと額にキスをした。
俺は、真人を好きなのに。なのに何故かそれを、言葉にできない。
こんな俺のままでは真人に捨てられるかもしれない。
ふと、拗ねていたはずの真人がカップを手にして言った。
「そういえば、新人の方が入るらしいですね」
「ああ、主任が産休に入るから、その代わりの人だろ?」
「はい。もう来月から休みに入られるみたいで」
「もう産休か~。早いな」
「ですね。主任、仕事早いし正確だから、抜けると痛いですよね」
「確かに。あの人の段取り力、異常だもんな」
「新人の方、かなり大変だと思いますよ。役場の事務って、ちょっと特殊ですし」
「だよな~。あの伝票と申請書の地獄……俺も最初はミスばっかだったわ」
「僕なんて、ひと月くらい“再提出祭り”でしたよ」
「真人でもそうだったの?」
「えぇ、でも、最初だけですよ?」
妙なプライドが可愛い。ふたりで笑い合うと、さっきまでの“恋人”の空気が、いつもの“職場の同僚”に戻る。
だけど、それが妙に心地よかった。
――こうやって、ふつうの会話をして、隣にいる。
その穏やかさが、いちばん幸せなのかもしれない。
「確か女性の方で、二十三歳みたいです」
「詳しいな」
「ふふ、情報通なので。……野々宮さんが学生時代、陸上部だったのも知ってますよ?」
「えっ!? それ、なんで知ってんの!?」
「ふふふ」
朝比奈さんはそう言って、いたずらっぽく笑った。
「だから、腹筋すごいんですよね?」
そう言って、俺のシャツの裾に手を伸ばす。
「ちょ、ちょっと真人っ!」
女の子の悲鳴みたいな声が出て、自分で余計に恥ずかしくなる。
面白がって指先でつんつんと腹をつついてくる。
「やめっ……真人、くすぐったいって!」
俺の抗議を無視して、真人は笑いながらシャツの裾をそっとめくる。
「確認しまーす」
そう言って、彼の指が腹筋をなぞる。
「綺麗ですねー弾力もあるし」
真人の声は冗談めかして響く。
指が腹を滑り、顔が近づく――そして、舌がゆっくり腹を這う。
全身がぞくっと震える。
吐息が肌をかすめ、舌がさらに下へ。
スウェットの端を指で引き下げ、下着が露わになる。
彼の舌は下着越しに、くっきり浮かんだ俺の輪郭をなぞっていく。
真人の目はいたずらに光り、煽るような目線を送る。
俺たちはまた、熱を帯びた夜へと沈んでいった。
仕事終わりにムーンバックスで待ち合わせをして、他愛のない話をして、帰り道で腕を組まれる。
二人でスーパーで買い物をし、俺の家でご飯を食べて、映画を観て、ソファでくっついて寝落ちする――それだけで幸せだった。
朝比奈さん…真人は、よく笑うようになった。
大型犬のように甘えたかと思えば、唐突に俺の手を握って、「譲さんの手が好きです」と言ったりする。
ちなみに「唇が好きです」「目が好きです」……あとは、そういうことの最中に「ここが好きです」なんていう、いろんなバリエーションがある。(照れ)
そのたびに心臓が跳ねる。嬉しい。
……けど、俺はまだ“好き”という言葉を口にできていなかった。
真人が特別なのは当たり前で、もう生活の一部みたいな存在なのに、
言葉にした瞬間、何かが壊れてしまうような気がしていた。
今日もそうだった。
二人で思う存分イチャついた後、
「……僕のこと、嫌いじゃないですよね?」
突然そんなことを言われて、思わず吹き出した。
「嫌いなわけないじゃないか!」
「じゃあ……好きです?」
真人は子犬みたいな目で覗き込んでくる。
「……」
答えられなかった。言えば簡単なのに、言えなかった。
「僕ばっかり“好き”って言ってる。……たまには言われたいです」
そう言って、頬を膨らませて顔を背けた。
――可愛い。
それだけで胸が痛くなるほど愛しくて、言葉が喉に詰まる。
でも、それでも、口にできない。
代わりに、肩を抱き寄せて、そっと額にキスをした。
俺は、真人を好きなのに。なのに何故かそれを、言葉にできない。
こんな俺のままでは真人に捨てられるかもしれない。
ふと、拗ねていたはずの真人がカップを手にして言った。
「そういえば、新人の方が入るらしいですね」
「ああ、主任が産休に入るから、その代わりの人だろ?」
「はい。もう来月から休みに入られるみたいで」
「もう産休か~。早いな」
「ですね。主任、仕事早いし正確だから、抜けると痛いですよね」
「確かに。あの人の段取り力、異常だもんな」
「新人の方、かなり大変だと思いますよ。役場の事務って、ちょっと特殊ですし」
「だよな~。あの伝票と申請書の地獄……俺も最初はミスばっかだったわ」
「僕なんて、ひと月くらい“再提出祭り”でしたよ」
「真人でもそうだったの?」
「えぇ、でも、最初だけですよ?」
妙なプライドが可愛い。ふたりで笑い合うと、さっきまでの“恋人”の空気が、いつもの“職場の同僚”に戻る。
だけど、それが妙に心地よかった。
――こうやって、ふつうの会話をして、隣にいる。
その穏やかさが、いちばん幸せなのかもしれない。
「確か女性の方で、二十三歳みたいです」
「詳しいな」
「ふふ、情報通なので。……野々宮さんが学生時代、陸上部だったのも知ってますよ?」
「えっ!? それ、なんで知ってんの!?」
「ふふふ」
朝比奈さんはそう言って、いたずらっぽく笑った。
「だから、腹筋すごいんですよね?」
そう言って、俺のシャツの裾に手を伸ばす。
「ちょ、ちょっと真人っ!」
女の子の悲鳴みたいな声が出て、自分で余計に恥ずかしくなる。
面白がって指先でつんつんと腹をつついてくる。
「やめっ……真人、くすぐったいって!」
俺の抗議を無視して、真人は笑いながらシャツの裾をそっとめくる。
「確認しまーす」
そう言って、彼の指が腹筋をなぞる。
「綺麗ですねー弾力もあるし」
真人の声は冗談めかして響く。
指が腹を滑り、顔が近づく――そして、舌がゆっくり腹を這う。
全身がぞくっと震える。
吐息が肌をかすめ、舌がさらに下へ。
スウェットの端を指で引き下げ、下着が露わになる。
彼の舌は下着越しに、くっきり浮かんだ俺の輪郭をなぞっていく。
真人の目はいたずらに光り、煽るような目線を送る。
俺たちはまた、熱を帯びた夜へと沈んでいった。
21
あなたにおすすめの小説
オメガ公子とアルファ王子の初恋婚姻譚
須宮りんこ
BL
ノアメット公国の公子であるユーリアスは、二十三歳のオメガだ。大寒波に襲われ、復興の途にある祖国のためにシャムスバハル王国のアルファ王子・アディムと政略結婚をする。
この結婚に気持ちはいらないとアディムに宣言するユーリアスだが、あるときアディムの初恋の相手が自分であることを知る。子どもっぽいところがありつつも、単身シャムスバハルへと嫁いだ自分を気遣ってくれるアディム。そんな夫にユーリアスは徐々に惹かれていくが――。
【完結】かわいい美形の後輩が、俺にだけメロい
日向汐
BL
続編・番外編はTwitter(べったー)に載せていきますので、よかったらぜひ🤲
⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆
過保護なかわいい系美形の後輩。
たまに見せる甘い言動が受けの心を揺する♡
そんなお話。
⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆
【攻め】
雨宮千冬(あめみや・ちふゆ)
大学1年。法学部。
淡いピンク髪、甘い顔立ちの砂糖系イケメン。
甘く切ないラブソングが人気の、歌い手「フユ」として匿名活動中。
【受け】
睦月伊織(むつき・いおり)
大学2年。工学部。
黒髪黒目の平凡大学生。ぶっきらぼうな口調と態度で、ちょっとずぼら。恋愛は初心。
忠犬だったはずの後輩が、独占欲を隠さなくなった
ちとせ
BL
後輩(男前イケメン)×先輩(無自覚美人)
「俺がやめるのも、先輩にとってはどうでもいいことなんですね…」
退職する直前に爪痕を残していった元後輩ワンコは、再会後独占欲を隠さなくて…
商社で働く雨宮 叶斗(あめみや かなと)は冷たい印象を与えてしまうほど整った美貌を持つ。
そんな彼には指導係だった時からずっと付き従ってくる後輩がいた。
その後輩、村瀬 樹(むらせ いつき)はある日突然叶斗に退職することを告げた。
2年後、戻ってきた村瀬は自分の欲望を我慢することをせず…
後半甘々です。
すれ違いもありますが、結局攻めは最初から最後まで受け大好きで、受けは終始振り回されてます。
ヤンデレ王子と哀れなおっさん辺境伯 恋も人生も二度目なら
音無野ウサギ
BL
ある日おっさん辺境伯ゲオハルトは美貌の第三王子リヒトにぺろりと食べられてしまいました。
しかも貴族たちに濡れ場を聞かれてしまい……
ところが権力者による性的搾取かと思われた出来事には実はもう少し深いわけが……
だって第三王子には前世の記憶があったから!
といった感じの話です。おっさんがグチョグチョにされていても許してくださる方どうぞ。
濡れ場回にはタイトルに※をいれています
おっさん企画を知ってから自分なりのおっさん受けってどんな形かなって考えていて生まれた話です。
この作品はムーンライトノベルズでも公開しています。
【完結】おじさんはΩである
藤吉とわ
BL
隠れ執着嫉妬激強年下α×αと誤診を受けていたおじさんΩ
門村雄大(かどむらゆうだい)34歳。とある朝母親から「小学生の頃バース検査をした病院があんたと連絡を取りたがっている」という電話を貰う。
何の用件か分からぬまま、折り返しの連絡をしてみると「至急お知らせしたいことがある。自宅に伺いたい」と言われ、招いたところ三人の男がやってきて部屋の中で突然土下座をされた。よくよく話を聞けば23年前のバース検査で告知ミスをしていたと告げられる。
今更Ωと言われても――と戸惑うものの、αだと思い込んでいた期間も自分のバース性にしっくり来ていなかった雄大は悩みながらも正しいバース性を受け入れていく。
治療のため、まずはΩ性の発情期であるヒートを起こさなければならず、謝罪に来た三人の男の内の一人・研修医でαの戸賀井 圭(とがいけい)と同居を開始することにーー。
経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!
中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。
無表情・無駄のない所作・隙のない資料――
完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。
けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。
イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。
毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、
凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。
「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」
戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。
けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、
どこか“計算”を感じ始めていて……?
狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ
業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!
白銀オメガに草原で愛を
phyr
BL
草原の国ヨラガンのユクガは、攻め落とした城の隠し部屋で美しいオメガの子どもを見つけた。
己の年も、名前も、昼と夜の区別も知らずに生きてきたらしい彼を置いていけず、連れ帰ってともに暮らすことになる。
「私は、ユクガ様のお嫁さんになりたいです」
「ヒートが来るようになったとき、まだお前にその気があったらな」
キアラと名づけた少年と暮らすうちにユクガにも情が芽生えるが、キアラには自分も知らない大きな秘密があって……。
無意識溺愛系アルファ×一途で健気なオメガ
※このお話はムーンライトノベルズ様にも掲載しています
異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる
ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。
アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。
異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。
【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。
αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。
負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。
「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。
庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。
※Rシーンには♡マークをつけます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる