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36話 神様、面接をする 1

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商業ギルドに求人募集の相談に行ってから3日経った。

今日も店は盛況で開店から3時間で売り切れ。今はいつも通りの閉店後の常連客シャーロットと魔法少女達と雑談中。


「悪いけど今日は用事があるから今日はお開きね」

「用事って何ですか」

フローレンスが言う。

「これから面接だから」

「人雇うんですか」

「そうそう」

昨日商業ギルドの人が店に来てうちで働きたいという面接希望の人が殺到していると報告を受けた。それにしても2日でよく集まってくれたね。殺到ってどのくらいなんだろう。うちのお菓子のレシピ目当ての人とか多いのかな。

他の店のスパイだったり、作り方を覚えたらさっさと辞めて自分達で店をはじめようと考えていたり…。そんな人は面接で判断してすぐ落としちゃうけどね。

面接予定日はもう少し先だったんだけど殺到というほど集まっているならと面接日は今日に決まったわけだ。


「それじゃあわたし達は店で留守番してますよ」ローラが言う。

「ダメ。面接がいつまでかかるかわかんないし」

魔法少女達には多少店の警備のこともお願いしてるけど正式に雇っているわけじゃないし顔なじみといっても部外者なわけだしさ。それに殺到というほど面接希望者が集まっているのなら時間もかかりそうだし緊急の用事なら留守番をお願いするかもしれないけど今はその時ではない。

というわけでシャーロットと魔法少女達にはお帰りいただいた。

そしてわたしとハヤテとレンは商業ギルドが用意してくれた面接会場に着いた。商業ギルドから目と鼻の先だった。建物は学校の体育館ほどの大きさなのでかなり広い。その中に部屋がいくつもあって会議をしたり面接をしたり商業ギルドがレンタルスペースとして貸し出している。

ここで面接するのか…。会場に入る。面接希望者はどのくらいいるのかなと待機所に行ってみる。部屋に入って人の多さに驚いた。50人はいる。これ全員面接希望者なのか。お菓子屋ということで女性が多いかな。椅子はなくてみなさん立っている。話し声など聞こえなくて静かだが人の多さと雰囲気にちょっと圧倒される。

わたし達は部屋を出て商業ギルドの職員の人に挨拶して場所を用意してくれたお礼を言う。

面接開始だ。


わたしが中央に座っていて両サイドにハヤテとレンが座る。

トントンとノックからはじまる。

「よろしくお願いします」

「どうぞ座ってください」

「失礼します」

「応募した理由を聞かせてください」

「はい、カパレコ姉様の甘味処のお菓子をはじめて食べたとき衝撃を受けました。こんな美味しいお菓子を作れるお店で働きたいと……」

最初は23歳の女性。うんうん、悪くないよ。でもこの子は嘘ついてるね。相手の嘘が見抜けたのはわたしの不思議な加護のおかげだ。面接中に採用の条件としてお菓子のレシピを口外しないことを伝えた。彼女は「わかりました。お約束します」と答えた。しかしこれは嘘だ。

わたしの〝不思議な加護〟は日々進化をしているのだ。実験材料は2人の男ジェイソンとブライアン。こいつらいまだに動けないんだよね。うちの敷地の隅っこにいるんだけどいい加減わたしへの悪意を無くしてどっか行ってほしいわ。

変わらず朝夜に食事を持ってくる人がいるけど動けない2人を板で囲うようにして屋根ができてていつの間にか小さな小屋みたいな感じになってるんだよね。寒さ対策か何なのか知らないけど…。

みんなが眠った夜にカパレコは2人のところに行く。

「今日もいろいろ試すからね」

「またかよ」

「勘弁してくれよ~」

「黙れ!」

文句なんか言わせないよ。それに話相手が来てくれて嬉しいでしょ~っと悪役じみた表情をするカパレコ。実験というのはカパレコが思ったことを念じたらその通りになるのか。この不思議な加護を使いこなすために日々訓練していたのだ。

なので相手の嘘を見抜くなど簡単なこと。でもさすがに思考までは読めないから具体的なことはわからないけどお菓子のレシピを口外することに関してははっきりと嘘を言っているのかがわかる。

というわけで最初に面接した子はダメ。


「よろしくお願いいたします」

「うちで働きたいという動機を聞かせてください」

「わたくしはついこの間まで伯爵様に仕えてメイドをしておりましたのよ」

「はぁ?それでなんで辞められたんですか?」

「それは…あの…」

うん、可笑しなのが来たよ。この人もダメだね。別に貴族に仕えていたのはいいけどさ。だからなんなの?ってことだよね。辞めた理由を聞いても厳しく追及したわけじゃないのに歯切れが悪いし。

それにレシピを口外しないことにも「お約束いたします」と言っておきながらわたしの不思議な加護で嘘だとわかったし。もしかして貴族の人に「レシピを盗んで来い!」とでも言われて面接に応募したのかな。まともな人来ないかな…。
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