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601号室②
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その夜私は寝袋で眠った。
荷物がまだ届いていないため、愛用の布団で眠ることができないのだ。
まだカーテンすらない状態だったので、部屋はどことなく寒気がした。
私は妙に寝付けなかったので、スマホを使って近くのお店などを調べ始めた。
「あ、近くにスーパーがあるじゃん。ラーメン屋さんもある。ふんふん、ケーキ屋はまああまり行かないかな。画材屋や本屋は隣駅まで行かないと無いみたいだ」
生活に必要なものはある程度近くで揃えられるだろう。食品もスーパーがあるから困ることもない。
時間は既に1時。私は急にお腹が空いた感覚を覚えた。
「確か、近くにコンビニがあったな」
このマンションを出てすぐ前の交差点に、大手チェーン店のコンビニエンスストアがあったはずだ。あそこで小腹を満たすものを買うとしようか。
私は寝袋を出て、ガウンを羽織る。あとは財布とスマホだ。
扉を開錠して私は外へ出た。そこで鍵を忘れたことに気付き、慌てて部屋に戻る。確か、鞄の近くに放り投げていたはずだ。
鞄がおいてある洋室まで入る。すると、背後から視線のようなものを感じた。
振り向くと、そこには開いたままの玄関扉。
「誰かいたのか?」
私は何となく背筋がピンとしたが、そのまま鍵を拾い部屋を出た。
今度こそ施錠した私は、隣のエレベーターの方まで足を運んだ。
「あ、そういえばこっちのエレベーターは使っちゃいけないんだっけ」
確か、22時から朝6時まで使えないはずだ。
今の時刻は1時。使えない時間である。
だが、エレベーターを見ると、明かりがついていた。
「なんだ、使えそうじゃんか」
私は、エレベーターの前まで進もうとする。
チカッ……チカッ……
蛍光灯が切れているのか、エレベーター前の蛍光灯が点滅している。少し不気味が悪い。
「うーん、やっぱり階段で行くか」
なんとなく恐れをなした私は、606号室と607号室の間にある階段を使うことにした。
一番奥にあるエレベーターを使うのもありだったが、この時だけはエレベーターに乗りたくない気分だった。
階段を降り切った私は、前の交差点をわたり、コンビニに入る。
店内ラジオを聴いていると、さっきまでのなんとなく怖かった感じが薄れた。
ドリンクは何を買おうか、小腹が空いたからカップラーメンでも買おうか。
しかし、カップラーメンはお湯を必要とする。今の私の部屋にはお湯を沸かす器具がない。
なんだったら、まだガスすら通っていないのだ。かろうじて水道と電気は通っているので、寝る分にはまだ困らない。
「いらっしゃいませー」
さっきまで店の奥に隠れていたのか、店員がレジまで出てくる。今私以外の他の客はいない。
ピンポンピンポーン
誰かが店内に入るチャイムが鳴った。それに反応し、店員は声を上げる。
しかし、不思議なことに自動扉が開いた音はしなかった。虫が飛んでいたのか、風邪か何かが反応したのだろうか。
店員はそれに気づいてるらしかったが、気にするふうでもなかった。
おそらくこの店ではよくあることなのだろう。
私は、コーラとパン、デザートのフィナンシェとブレンドのコーヒーを購入した。
店の外にでた私は、さっそく暖かいコーヒーをすする。そして購入したばかりのフィナンシェを一口頬張る。
「んー! これがうまいんだよな」
私は脳汁がドバドバ流れるような感覚を味わう。この甘味とコーヒーの味がマッチしていて非常においしい。舌で感じる味じゃなく脳で直接味わうような、そんなうまさがこれにはあるのだ。
私は直ぐにフィナンシェを完食し、コーヒーも飲みきった。
すると、そのタイミングでまた入店音が聞こえた。
誰かが入ったのだろうかとも思ったが、やはり誰も入っていく様子はなかった。
風も吹いていなかったので、おそらく虫が飛んでいたのだろう。しかしこんな寒い中飛ぶ虫もいるもんだな。
ゴミをコンビニのごみ箱へ入れた私は再び交差点を渡った。
そしてなんとなくエレベーター前に行った。
今は先ほどまでと違い、恐怖感はない。おそらく使えるだろうこのエレベーターで、六回まで昇ってしまおうか。
正直階段で行くのも面倒だし、反対側の真新しいエレベーターにわざわざ乗りに行くのもどうかと思った。
私は、エレベーターのスイッチを押す。
直前まで4階にあったエレベーターは下降の表示を示しながら、数字を減らしていった。
ポーン
エレベーターが到着し、その扉が開かれた。
なんだ、やっぱり動くじゃないか。私はそのエレベーターに乗り込んだ。
私の住んでいる階は6階だ。6階のボタンを探す。ボタンはかなり使い込まれているらしく、ほとんどが掠れていて読めない。辛うじて読み取れる数字から、6階らしいボタンを押す。
このマンションは7階建てだからな。上から二番目がおそらく6階だろう。
ボタンを押すと、エレベーターはゆっくりとしまり、上へと上がっていった。
ゆっくりと上がっていったエレベーターは、6階に着く前に4階で止まった。
私以外にもエレベーターを使う人間がいるんだな、と私は安心した。
ポーンと扉が開く。
「……誰もいないじゃないか」
しかし、開いた扉の近くには誰もいなかった。
当然誰かが入ってくる気配もない。
私は、少し体を乗り出し辺りを見回すが、誰かが隠れている様子もなかったので、エレベーターに戻った。
誰かがきっと押したのを忘れてどこかへ行ってしまったのだろう。私はそう考えた。
しかし、ふとそこに不自然な違和感を覚えた。
誰かが4階でボタンを押して、私の乗るエレベーターが止まった。ということは、その誰かは上に行こうとして上行きのボタンを押したという事だ。
こんな時間に4階からさらに上に行く事などあるのだろうか。階を分けた知り合いの住民がいたのなら、それもあるだろう。しかし私にはそんなふうには思えなかった。
ポーン
そんなことを思っているうちに私の部屋のある6階へと着いた。
私はエレベーターから出る。
ヒタ……
直後、私の左肩に誰かの手が添えられた。
「ヒッ!」
私は驚いて前のめりになり、しりもちをついて後ろを振り返った。
そこには誰もいないエレベーター。
私は左肩をさする。そこには先ほどまでの異様な冷たさの手はなかった。しかし、確かにそこには誰かの手が載せられていたという感触だけが残っていた。
目の前で閉まる扉。
「ッ!!!」
閉まりきった扉のガラスには、先ほどまでいなかったはずの女性が映りこんでいた。
こちらをじっとりと見つめるその目は怨嗟の思いが込められていた。ふっと彼女の姿が消える。
エレベーターが急に動き出す。しばらく下がって、4階に到着したのが見えた。
私はその場から全く動けなかった。
◎
後で聞いた話だが、このマンションの四階にはとある女性が住んでいたという。ちょうど401号室だそうだ。
彼女はこのマンションのエレベーター内で殺害されたとのことだった。犯人は同棲していた男。喧嘩をしてその拍子で殺してしまったとのことだった。彼女は翌日、エレベーター内で背中に包丁が刺さって血を流している状態で発見されたそうだ。僕が思うに、喧嘩して殺害してしまったわけではないように思えた。
もし喧嘩したなら、401号室で殺されていただろうし、刺さる場所も正面からになるのではないか?
おそらくだが、男は明確な殺意を持って彼女を殺害した。エレベーターに乗る彼女にうしろから刺したのだ。
素人の考えではあるが、彼女のあの怨嗟の瞳を見た私は、そう考えざるを得なかった。
荷物がまだ届いていないため、愛用の布団で眠ることができないのだ。
まだカーテンすらない状態だったので、部屋はどことなく寒気がした。
私は妙に寝付けなかったので、スマホを使って近くのお店などを調べ始めた。
「あ、近くにスーパーがあるじゃん。ラーメン屋さんもある。ふんふん、ケーキ屋はまああまり行かないかな。画材屋や本屋は隣駅まで行かないと無いみたいだ」
生活に必要なものはある程度近くで揃えられるだろう。食品もスーパーがあるから困ることもない。
時間は既に1時。私は急にお腹が空いた感覚を覚えた。
「確か、近くにコンビニがあったな」
このマンションを出てすぐ前の交差点に、大手チェーン店のコンビニエンスストアがあったはずだ。あそこで小腹を満たすものを買うとしようか。
私は寝袋を出て、ガウンを羽織る。あとは財布とスマホだ。
扉を開錠して私は外へ出た。そこで鍵を忘れたことに気付き、慌てて部屋に戻る。確か、鞄の近くに放り投げていたはずだ。
鞄がおいてある洋室まで入る。すると、背後から視線のようなものを感じた。
振り向くと、そこには開いたままの玄関扉。
「誰かいたのか?」
私は何となく背筋がピンとしたが、そのまま鍵を拾い部屋を出た。
今度こそ施錠した私は、隣のエレベーターの方まで足を運んだ。
「あ、そういえばこっちのエレベーターは使っちゃいけないんだっけ」
確か、22時から朝6時まで使えないはずだ。
今の時刻は1時。使えない時間である。
だが、エレベーターを見ると、明かりがついていた。
「なんだ、使えそうじゃんか」
私は、エレベーターの前まで進もうとする。
チカッ……チカッ……
蛍光灯が切れているのか、エレベーター前の蛍光灯が点滅している。少し不気味が悪い。
「うーん、やっぱり階段で行くか」
なんとなく恐れをなした私は、606号室と607号室の間にある階段を使うことにした。
一番奥にあるエレベーターを使うのもありだったが、この時だけはエレベーターに乗りたくない気分だった。
階段を降り切った私は、前の交差点をわたり、コンビニに入る。
店内ラジオを聴いていると、さっきまでのなんとなく怖かった感じが薄れた。
ドリンクは何を買おうか、小腹が空いたからカップラーメンでも買おうか。
しかし、カップラーメンはお湯を必要とする。今の私の部屋にはお湯を沸かす器具がない。
なんだったら、まだガスすら通っていないのだ。かろうじて水道と電気は通っているので、寝る分にはまだ困らない。
「いらっしゃいませー」
さっきまで店の奥に隠れていたのか、店員がレジまで出てくる。今私以外の他の客はいない。
ピンポンピンポーン
誰かが店内に入るチャイムが鳴った。それに反応し、店員は声を上げる。
しかし、不思議なことに自動扉が開いた音はしなかった。虫が飛んでいたのか、風邪か何かが反応したのだろうか。
店員はそれに気づいてるらしかったが、気にするふうでもなかった。
おそらくこの店ではよくあることなのだろう。
私は、コーラとパン、デザートのフィナンシェとブレンドのコーヒーを購入した。
店の外にでた私は、さっそく暖かいコーヒーをすする。そして購入したばかりのフィナンシェを一口頬張る。
「んー! これがうまいんだよな」
私は脳汁がドバドバ流れるような感覚を味わう。この甘味とコーヒーの味がマッチしていて非常においしい。舌で感じる味じゃなく脳で直接味わうような、そんなうまさがこれにはあるのだ。
私は直ぐにフィナンシェを完食し、コーヒーも飲みきった。
すると、そのタイミングでまた入店音が聞こえた。
誰かが入ったのだろうかとも思ったが、やはり誰も入っていく様子はなかった。
風も吹いていなかったので、おそらく虫が飛んでいたのだろう。しかしこんな寒い中飛ぶ虫もいるもんだな。
ゴミをコンビニのごみ箱へ入れた私は再び交差点を渡った。
そしてなんとなくエレベーター前に行った。
今は先ほどまでと違い、恐怖感はない。おそらく使えるだろうこのエレベーターで、六回まで昇ってしまおうか。
正直階段で行くのも面倒だし、反対側の真新しいエレベーターにわざわざ乗りに行くのもどうかと思った。
私は、エレベーターのスイッチを押す。
直前まで4階にあったエレベーターは下降の表示を示しながら、数字を減らしていった。
ポーン
エレベーターが到着し、その扉が開かれた。
なんだ、やっぱり動くじゃないか。私はそのエレベーターに乗り込んだ。
私の住んでいる階は6階だ。6階のボタンを探す。ボタンはかなり使い込まれているらしく、ほとんどが掠れていて読めない。辛うじて読み取れる数字から、6階らしいボタンを押す。
このマンションは7階建てだからな。上から二番目がおそらく6階だろう。
ボタンを押すと、エレベーターはゆっくりとしまり、上へと上がっていった。
ゆっくりと上がっていったエレベーターは、6階に着く前に4階で止まった。
私以外にもエレベーターを使う人間がいるんだな、と私は安心した。
ポーンと扉が開く。
「……誰もいないじゃないか」
しかし、開いた扉の近くには誰もいなかった。
当然誰かが入ってくる気配もない。
私は、少し体を乗り出し辺りを見回すが、誰かが隠れている様子もなかったので、エレベーターに戻った。
誰かがきっと押したのを忘れてどこかへ行ってしまったのだろう。私はそう考えた。
しかし、ふとそこに不自然な違和感を覚えた。
誰かが4階でボタンを押して、私の乗るエレベーターが止まった。ということは、その誰かは上に行こうとして上行きのボタンを押したという事だ。
こんな時間に4階からさらに上に行く事などあるのだろうか。階を分けた知り合いの住民がいたのなら、それもあるだろう。しかし私にはそんなふうには思えなかった。
ポーン
そんなことを思っているうちに私の部屋のある6階へと着いた。
私はエレベーターから出る。
ヒタ……
直後、私の左肩に誰かの手が添えられた。
「ヒッ!」
私は驚いて前のめりになり、しりもちをついて後ろを振り返った。
そこには誰もいないエレベーター。
私は左肩をさする。そこには先ほどまでの異様な冷たさの手はなかった。しかし、確かにそこには誰かの手が載せられていたという感触だけが残っていた。
目の前で閉まる扉。
「ッ!!!」
閉まりきった扉のガラスには、先ほどまでいなかったはずの女性が映りこんでいた。
こちらをじっとりと見つめるその目は怨嗟の思いが込められていた。ふっと彼女の姿が消える。
エレベーターが急に動き出す。しばらく下がって、4階に到着したのが見えた。
私はその場から全く動けなかった。
◎
後で聞いた話だが、このマンションの四階にはとある女性が住んでいたという。ちょうど401号室だそうだ。
彼女はこのマンションのエレベーター内で殺害されたとのことだった。犯人は同棲していた男。喧嘩をしてその拍子で殺してしまったとのことだった。彼女は翌日、エレベーター内で背中に包丁が刺さって血を流している状態で発見されたそうだ。僕が思うに、喧嘩して殺害してしまったわけではないように思えた。
もし喧嘩したなら、401号室で殺されていただろうし、刺さる場所も正面からになるのではないか?
おそらくだが、男は明確な殺意を持って彼女を殺害した。エレベーターに乗る彼女にうしろから刺したのだ。
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みんなの感想(1件)
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