【短編集】

染西 乱

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聞いてくださいよタクシー運転手さん…すっごく偉い人に魔法少女になりたいと呼びだされたのはデザイナーの私でしてね

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夏も終わりだし怖い話を話し納めしたいと思うんですが、いいですか?
あ、はい、別に寝れなくなるような怖い話じゃないんですけど、どっちかというと人間怖い的な方向の話ってやつなんですけどね。いや、怖いっていうか……訳がわからんって感じでもあります。
ずっと自分一人の胸のうちにしまっておくのもなんかモヤモヤする話でして……
あ、ほんとですか?
やぁよかった、タクシー運転手さんって聞き上手の方多いしどうかな、もしかして聞いてくれるかなってワンチャンあればいいやって思って聞いてみただけだったんですけどね!
え? 今日はお酒一滴も飲んでないですよ。
そう、完全なシラフです。だから今からお話しする話も完全に実話です。
あぁ、別に秘密にしてるとかそんな話じゃないんで。運転手さんも面白おかしく次乗ったお客さんとかに話してもいいですよ!
ええ、ぜひ。なんなら鉄板ネタにまで昇華してくれれば本望ですよ。
あー、私デザイナーをしてましてね。いや、そこまで有名じゃないですよ。特に女の子向けの……まぁ可愛らしいタイプの服ですね、フリフリした感じのとか……、だからまぁ運転手さんが知らないのも無理ないです。
そう、あんまり男の人には縁遠いタイプのデザイナーなんです。それがいきなり、今をときめく国家魔術師に呼び出されたんです。
そうそう、国家魔術師ですよ! デザイナーとはまったく違う世界ですよッ! しかも相手はめちゃくちゃ有名な人で、なんで呼び出されたのか全くわからなくって、なんかの間違いかなって人生で初めて思いましたよ。
え、誰って、まぁ今の国家魔術師なんて数えるほどしかいないですよね。あえて名前は言いませんけど、最後まで話を聞いてればわかるんじゃないかな。
まぁ緊張しながらめちゃくちゃでっかい部屋のすごーく高そうな革張りのソファで国で1番2番に偉い魔術師と二人っきりで……
お茶とか手をつける気になりませんでしたね。
それで、めっちゃ重苦しい空気でね。
相手が口を開くのを待ったんです。
「オレは常日頃から魔法少女になりたいと思っていたんだ」
開口1番言われた言葉がそれですよ。しかもめちゃくちゃ真顔で、生真面目な顔で。
困惑以外の感情ないですよね。なーに言ってんだろ、この人?って。
……国家魔術師は頭いいらしいですね。
……頭良い人ってみんなあぁなんですかね?
全然理解できないんですよね。
まぁ仕事は仕事なので、デザインを二人で突き合わせて衣装合わせを敢行したんですよ。
国家魔術師の魔法で少女に見えるようにまぁ、若返りの魔法らしいですけど。なんだか人間の摂理に反するとかで、5分だけしか効果がないらしいです。
とりあえず依頼人の好みの通り仕上げるのがデザイナーの仕事ですからね。
え? あー、その時は赤色と白色のふわふわした感じのスカートに太ももが半分ぐらい隠れるスパッツがちょっと見える
……水着のこう、ふりふりした巻きスカートみたいなやつわかります? そうそう、そんな感じのやつと、でっかいリボンとかつけて……髪の毛の飾りもお揃いにしたいって言うんです同じテイストでデザインしましたよ。
でもなんか動きやすくないといけないとか……魔法少女は肉弾戦に特化してるのがいいっていうんですけどそれって魔法いります? 魔法で肉体強化とかするんですかね?
出来上がった試作品を持っていって着てもらったら「チンチンがついてても魔法少女にはなれるんだよ」とか言われてさらなる困惑に陥りましたね。
魔法【少女】ってのは記号みたいなものってことですか?
もはやもう訳がわからなすぎて全部受け入れるしかないんですけど……
もともと、顔の造作のいい方だから見えなくもないですよ。ちょっとがたいのいい魔法少女に。
本人さんが楽しそうでなによりです、って感じですかね。
え? 普通の日は仕事が忙しくて魔法少女できないので休みの日だけやるらしいです。
これが本当の週末魔法少女ってかあははー
なにがおかしいんだろう(無の表情)
え? そのあと?
彼は今でも良いお客さんですよ。なにせ今日も打ち合わせしてきたところですからね。
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