【完結】地獄の釜は閉めたまま

染西 乱

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16.

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「なぁ、俺今年元服の年やで」

考えて、孝之介は口を開く。

「知ってるわ。来月やろ。お祝いの紅白まんじゅうたくさん注文してもらってんで」

祝いに配る紅白饅頭は数が多い。材料を揃える必要があるため、事前に予約しておくのが筋というものなので、和菓子屋を営む美知子の店に予約が入っていてもなんら不思議ではない。

美知子は孝之介とも仲がいいのだから懇意にしている店子に頼むのは当たり前であるとも言える。
  
「そうなんか」

「ちゃんとお祝いせなあかんな」

元服の儀というのは、髪の毛を少し切るだけといえばそうだが、そこには明確な大人と子供の境界がある。
晴れの日だ。親は豪華な夕食を用意してくれるだろう。

「元服したら嫁取り出来るやん?」

元服が終われば晴れて孝之介も一人前。
独り立ちできるとともに、嫁を娶ることも出来る。

「そうやな」

美知子は孝之介の言葉に素直に頷いている。
そのまま孝之介のいうことに、是と返してくれればいい、と孝之介はなんでもないような顔をして拳を作り、力を込める。
緊張を痛みで誤魔化すために握り込んだ掌におのれの爪を思いきり突き立てる。
意識的にいつもよりも多く息を吸いこむ。

「美知子、俺んとこ嫁にきぃ」

いつもよりゆっくり目に、区切りごとに口にする。緊張で口が回らないかもしれないと心配したが、詰まらずに言えた。

「……? え? は? なにゆってんねん」

美智子は笑顔のままで固まり、何にもわからないとでもいいたげに首を何度か傾げた。

あ、話し通じてないかもしれん。
ちゃんと、わかりやすく、順序を踏むべきやったな。気がせきすぎて大事なことをすっ飛ばしてしまっていた。

「美知子、好きや、結婚しよう」

きちんと口にすべきことだ。
きりっとした顔をしてできるだけかっこつけてみたが、どうだろう。少しは効果あるといいんだけども。

立ったまま、え、なんなん、なに? いまの? と混乱している美知子の手をそっと取る。
手を取るぐらいのことは許容されているというのはわかっている。
働き者の手をした美知子の自分よりも一回り小さい手をぎゅと握った。

体温の高い孝之介の熱を美知子の手に移そうとするみたいに、隙間が出来ないようにしっかりと力を入れた。

「えぇえええーーー!?」

両手を胸の前で包み込まれた美知子は混乱の声を上げた。いつもはしっかりとした瞳が焦りからうろうろと動いている。
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