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学園に着くやいなや茜は教師陣の憩いの場であり、戦いの場でもある職員棟に足を向けた。
質問があるから、というのは登校中に伝えてある。
アイヴァンの「ご一緒してもいいですか?」という申し出は、丁寧にお断りした。
今茜が知りたいことを質問することで万が一にもリッチェルの中身が茜であることがバレるとマズい。いや。こんな突拍子もないこと誰にもバレるわけがないのは百も承知のうえで更に警戒を怠らなければ絶対にバレない。私だって張本人でなければこんな荒唐無稽な話頭がおかしくなったと思うに違いないのだ。
気を引き締めて深呼吸した茜は、机の上にこれでもかと紙を積んでいるザールディ先生の前で足を止める。机の上を睨んでいるが、その手はまったく進んでいない。気配には疎いのか、それとも気付いていて無視を決め込んでいるのか茜には判断がつかない。
鈍い赤茶色の髪は丁寧になでつけられており、白い服の上から黒いカーディガンのようなものを羽織っている。一見すると学生にも見えるが、既に齢は30歳を越えているのだという。
この学園の先生はかなり幅広い年齢の方々がいらっしゃるので、ザールディ先生が一番若いというわけではない。
「ザールディ先生、おはようございます」
徹夜でもしていたのか眠たげな様子で茜を見上げて、胡乱げに目を眇めた。
「お忙しい中申し訳ありません……少し質問よろしいでしょうか?」
ザールディが今日のこの時間に授業を持っていないことは事前に調べているが、他に用事があれば断られてしまうだろう。その場合は明日にでも約束を取り付けておかねばならない。
少しでも印象をよくしたいという思いが茜の顔、いや、リッチェルの顔を笑顔にする。
「……質問? ………彼女ならいませんよ」
ひどく平坦な声でザールディが答えたが、もちろんそれは茜の知りたかった情報ではないし、そもそもまだ質問していない。
なんというか、ダウナー系なのに自意識過剰なタイプなんだろうか。ちょっと引いた。
だれもおめーの彼女の有無なんか聞いてないし知ったところでまったく意味もない。脳の容量を使ってしまうだけ無駄な知識である。
アイヴァンには劣るが、そこそこ顔がいいからモテてモテて仕方ないのかもしれないがいけすかない。
めちゃくちゃ嫌いなタイプだ。
「はぁ、そうですか。そんなことはどうでも良いので、質問してもよろしいですか?」
今度はムカつきから顔が笑顔になる。
他の先生にすればよかっただろうか、でも、一応、この人の専門分野の質問なんだよな……。
椅子に座ったままのザールディは茜を見上げたままだ。答えが返ってこないので、茜は返事を待つのをやめて、家でしたためてきた質問してリストが書いている紙をザールディ先生の顔の前に差し出す。
質問の中身は、魂の定義と魂の入れ替えについて、魂の双子とされる異世界の人間について、である。
目をぱちぱちさせたザールディ先生はようやく、茜を目でとらえた。
「驚いた本当に質問なんだな?」
だからそう言ってんだろうがワレ。
茜は笑顔を保ったまま、心中で毒づいた。
「ま、ここじゃ、なんだから……ついて来なさい」
立ち上がったザールディ先生はそのベビーフェイスに似合わず背が高かった。リッチェルよりも10センチ、いや、15センチほど頭の位置が高い。
こちらの世界に来てからは、自身より背の低いアイヴァンが隣にいたので少しだけ新鮮だ。
だだっぴろい教室に先生と生徒2人きり。
そこでなんにも起きないはずもなくもなかった。
広い黒板のようなものを大きく使ってザールディは茜の質問にすらすらと答えてくれる。
いけすかないとおもったことを謝りたいぐらいに親身になって茜の疑問点を引き出していくその手腕はまさに先生と呼ぶにふさわしい。
「勉強熱心な生徒は好きだから」
マンツーマンの質疑応答が終わると、ザールディ先生の声は少しだけ平坦じゃなくなっている。
「またわからないことがあれば質問しにきてもいいから」
「ありがとうございます! 家で確認してみてまたなにかわからない時は質問させていただきますね」
充実感が身体を満たしている。
茜の持っていた新品のノートは半分ほど埋まっている。
質問があるから、というのは登校中に伝えてある。
アイヴァンの「ご一緒してもいいですか?」という申し出は、丁寧にお断りした。
今茜が知りたいことを質問することで万が一にもリッチェルの中身が茜であることがバレるとマズい。いや。こんな突拍子もないこと誰にもバレるわけがないのは百も承知のうえで更に警戒を怠らなければ絶対にバレない。私だって張本人でなければこんな荒唐無稽な話頭がおかしくなったと思うに違いないのだ。
気を引き締めて深呼吸した茜は、机の上にこれでもかと紙を積んでいるザールディ先生の前で足を止める。机の上を睨んでいるが、その手はまったく進んでいない。気配には疎いのか、それとも気付いていて無視を決め込んでいるのか茜には判断がつかない。
鈍い赤茶色の髪は丁寧になでつけられており、白い服の上から黒いカーディガンのようなものを羽織っている。一見すると学生にも見えるが、既に齢は30歳を越えているのだという。
この学園の先生はかなり幅広い年齢の方々がいらっしゃるので、ザールディ先生が一番若いというわけではない。
「ザールディ先生、おはようございます」
徹夜でもしていたのか眠たげな様子で茜を見上げて、胡乱げに目を眇めた。
「お忙しい中申し訳ありません……少し質問よろしいでしょうか?」
ザールディが今日のこの時間に授業を持っていないことは事前に調べているが、他に用事があれば断られてしまうだろう。その場合は明日にでも約束を取り付けておかねばならない。
少しでも印象をよくしたいという思いが茜の顔、いや、リッチェルの顔を笑顔にする。
「……質問? ………彼女ならいませんよ」
ひどく平坦な声でザールディが答えたが、もちろんそれは茜の知りたかった情報ではないし、そもそもまだ質問していない。
なんというか、ダウナー系なのに自意識過剰なタイプなんだろうか。ちょっと引いた。
だれもおめーの彼女の有無なんか聞いてないし知ったところでまったく意味もない。脳の容量を使ってしまうだけ無駄な知識である。
アイヴァンには劣るが、そこそこ顔がいいからモテてモテて仕方ないのかもしれないがいけすかない。
めちゃくちゃ嫌いなタイプだ。
「はぁ、そうですか。そんなことはどうでも良いので、質問してもよろしいですか?」
今度はムカつきから顔が笑顔になる。
他の先生にすればよかっただろうか、でも、一応、この人の専門分野の質問なんだよな……。
椅子に座ったままのザールディは茜を見上げたままだ。答えが返ってこないので、茜は返事を待つのをやめて、家でしたためてきた質問してリストが書いている紙をザールディ先生の顔の前に差し出す。
質問の中身は、魂の定義と魂の入れ替えについて、魂の双子とされる異世界の人間について、である。
目をぱちぱちさせたザールディ先生はようやく、茜を目でとらえた。
「驚いた本当に質問なんだな?」
だからそう言ってんだろうがワレ。
茜は笑顔を保ったまま、心中で毒づいた。
「ま、ここじゃ、なんだから……ついて来なさい」
立ち上がったザールディ先生はそのベビーフェイスに似合わず背が高かった。リッチェルよりも10センチ、いや、15センチほど頭の位置が高い。
こちらの世界に来てからは、自身より背の低いアイヴァンが隣にいたので少しだけ新鮮だ。
だだっぴろい教室に先生と生徒2人きり。
そこでなんにも起きないはずもなくもなかった。
広い黒板のようなものを大きく使ってザールディは茜の質問にすらすらと答えてくれる。
いけすかないとおもったことを謝りたいぐらいに親身になって茜の疑問点を引き出していくその手腕はまさに先生と呼ぶにふさわしい。
「勉強熱心な生徒は好きだから」
マンツーマンの質疑応答が終わると、ザールディ先生の声は少しだけ平坦じゃなくなっている。
「またわからないことがあれば質問しにきてもいいから」
「ありがとうございます! 家で確認してみてまたなにかわからない時は質問させていただきますね」
充実感が身体を満たしている。
茜の持っていた新品のノートは半分ほど埋まっている。
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