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男と占い師
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とある男が街を歩いている。
彼を見た人はこう思うだろう。
「ただの青年が歩いている」
しかし、彼はまったくもって普通ではない。
それはなぜが?
彼をもう一度見てみよう。
歩く姿はどこかうつろげで、影をさしている。
目はまったくさだまっておらず、意識はまるでここにないようなものだ。
そう。彼は普通の状態ではないのである。
それはなぜか?
その理由は簡単である。
彼は殺人を犯したのだ。
彼の動機はわかりやすいもので、ただ衝動的に人を刺してしまったのだ。
その相手もまた分かりやすいもの。彼の友人である。
彼は友人との金銭トラブルを起こしてしまった。
そして口論をしたのだ。
その際、彼は衝動的になった。
家の中で口論したものだから、凶器もまた簡単。
包丁である。
彼は台所に赴いて包丁を取り出し、友人を刺したのだ。
本当に衝動であった。
とにかくこの時の彼にとって友人の言葉は不愉快で、目覚ましであるならばすぐに壊したしまいたいと思うようなものであった。
だから刺したのだ。音が無くなると思って。
そして音は収まった。友人の命とともに。
そして彼は正気に戻り思った。
やってしまったと。
人を殺してしまったんだと。
彼は途端に怖くなった。
人を殺したのだ。
他の誰でもない自分がだ。
そして彼はトイレに入り吐いた。
吐けば全てが終わっていると思っているかのほど吐いたのだ。
しかし現実は非情である。
彼が全てを吐き終わった後、リビングに戻るとそこにあるのはただの死体である。
彼はそこでついに涙を流した。そして叫んだ!
「どうしてなんだ!なぜ死んでしまったんだ!」
友人がさも誰かに殺されたかのように彼は叫んだ。
とにかく叫んだのだ!
そうすればなにか起きると信じて。
しかしやはり変わらない。
何も変わりはしないのだ。
そして彼は気づいた。
もう戻らないんだと。
そうなった時、彼はやっと殺人を受け入れ考え出したのだ。
警察に言えばよいのか?しかし警察に言ってしまえば捕まってしまう?家族にはなんて言えばいい?息子が殺人を起こしたなど知りたい親がいるのか?友人はどうすればいい?なにかで隠しとかないといけないのか?
彼はとにかく悩んだ。
悩むことだけが今の彼にできる唯一の答えであった。
そして彼はある結論を考え出した。
(そうだ!逃げよう!とにかく逃げるんだ!)
そう。彼は逃げたのだ。友人から。殺人から。警察から。人生から。
逃げようとしたのだ。
そこからの彼はとても速かった。
まずは血のついた服を着替える。
そして友人の遺体を押し入れに隠す。
そして友人の血を軽くタオルで拭いたあと、彼は外に逃げ出した。
それが今の彼である。
彼は逃げたのだ。しかし、本当には逃げれていないように見える。
それは最初に説明したとおりだ。
意識がまるでここにはない。意識だけは、あの殺人現場に残されているかのようだ。
そんな彼は、とても脆く、壊れてしまいそうであった。
そんな彼に声をかけた男がいた。
「ねえ!そこの兄さん!」
彼は心臓がグッと締め付けられたようであった。
それもそうだ。なんせ、殺人をしてから初めて自分に対してかかる声だったからである。
「な、なんで、でしょうか?」
男はその声に対して答えた。本当はとても怖かった。
その証拠に彼の声は震えていた。
だがそれ以上彼は、無視したことにより、何か疑いをかけられることの方が怖かったのだ。
「大丈夫かいお兄さん?なんだかとても疲れてそうだから、声をかけてしまったよ。なんかあったのかい?」
「え、いや、あの…」
男は固まってしまった。
言葉が出なくなってしまったのである。
それもそうだ。彼がやったのは殺人なんだから。
「うーん。なんかお兄さんつらそうだね。そうだお兄さん!どうだい?占いでのやっていってみないかい?
お兄さんは本当に辛そうだから、お題は無料でいいよ。」
「は、はあ。」
男は悩んだ。占い?そんなもの必要ない!今の自分には逃げることが大切だ!とにかく逃げなければ!
しかし男は悩んだ?本当に良いのだろうか?
もう逃げているのだ?これ以上どこに逃げると言うのだろうか?
ならば少しでもなにか話したほうが気が楽になるんじゃないか?
そして男は結論を出した。
「わ、分かった。分かった。占ってほしい。頼む。」
「よし!いい返事だよお兄さん。じゃあとりあえず座ってよ。ボロい作りで悪いけどさ、占いはちゃんとできるんだから。」
そう言われて見ると、自分の近くにそれらしい机と椅子がおいてある。
言われなければ気づかなかったかも知れない。
それほどまでに、男は考え込んでいたのだ。
「あ、ありがとう。」
そう言って、椅子に座る。
「じゃあよし。とりあえずやっていこうか?お兄さん、まずは僕のやり方について説明するね?」
今の男には雑音にも感じてしまう言葉だが、かろうじてその言葉を聞き取っていく。
「あ、ああ。頼むよ。」
そう返事をした。
「OK。じゃあ僕のやり方なんだけど、まあよくあるタロット占いとか星座占いとは違うんものなんだ。
僕はその人の悩みを聞いて、それについてお客さんと対話をする。そうすることによって、解決方法を探っていくんだ。」
男は少し疑問を感じた。
それは占いなのだろうか?占いとは、なにか形があるものではないのだろうか?
「それは占いなのかい?」
気になった男は質問をすることにした。
「あちゃー。お兄さんにもいわれちゃったかー。」
彼はまるで、小さな嘘がバレてしまったかのように少し息をもらしていた。
「いやー、一応占いのつもりだよ。最近はカウンセリングじゃないのか?なんて言われたりもしたけど違う。だって僕医者じゃないし。僕の場合、ただ対話をしていくって形なだけで、内容は何でも良いんだから。」
何でも。その言葉が男には痛く耳につく。
しかしすぐに思いとどまる。
何を考えているんだ。ここで占ってもらって解決するはずかない。むしろ、自分は逃げたのだ。ここで止まってしまっては意味がないではないか。
だけど男はそこで考えた。
なぜ逃げているのだろう。
とてもシンプルなようでそうじゃない。今の男にはどうしようもない考えが頭に浮かんだ。
「よし!じゃあお兄さん。そろそろ占いを始めようか?」
そんな声が聞こえた。
そうだ。まずは占わなければ。まずはそうしよう。
「分かったよ。じゃあよろしく。」
そう思い男は返事をする。
「よし!分かったよお兄さん。じゃあ何について占ってほしいかな?」
そこで男は考えた。
自分はなんだろうと。
ここまで逃げてはきた。しかし、逃げただけなのだからすぐに捕まるだろう。そしたら終わりじゃない。
まだ先はあるのだ。
刑務所には入るだろう。殺人だから。でも死刑にはなるんだろうか?死刑にならないとすれば、自分はどうなるのだろう?
考えれば考える程、自分の体が重くなっていくのを感じた。
「お兄さん?」
声が聞こえた。そうだ。自分は占いの途中じゃないか。早く答えを出さないと。
そう思った男は咄嗟に声を出した。
「実は友人を殺してしまったんだ。」
その瞬間、彼はしまった!と思った。
考え込みすぎて忘れてしまったのだ。自分は、殺人を犯した。そのことを考えすぎておかしくなってしまったんだと。
しかし、逆に彼はどこか落ち着いたのだ。
そうだ。もういいんだ。別に逃げなくても。だって逃げたってどうせ捕まるんだ。
それなら1度誰かに話せた方が楽になれるだろう。
男はそう考え、占い師の言葉を待った。
「なるほど。お兄さんは殺人をしてしまったんだね。」
男はその言葉を聞いて変に感じた?
なぜだ。なぜこの占い師は驚かない?俺は人をころしたんだぞ!最悪の事をしたんだ!
なのになぜ彼は平気そうに(殺人)という言葉を喋っているんだ。
男は気持ち悪く感じた。
「お兄さん。」
そんな彼に対して占い師は話しかける。
「お兄さん。どうやらお兄さんは、殺人を後悔してるみたいだね。それも初犯に見える。」
そう占い師が言っていきた。
男は震えた。自分に対して普通に話しかけてくるだけにあきたらず、なんとこの占い師は後悔している事も見破っているではないか!しかも初犯だとも言っている。
そんな驚きを隠せぬ男に占い師が話す。
「お兄さん。殺人ってどう考えてる?」
殺人を考える?どういうことだろうか?
「ど、どういうことだい?」
男は聞き返す。
「そのままの意味さ。殺人ってなんだろうねってこと。お兄さんは人を殺していいと思う?」
占い師が言ってくる。
「そんなわけがない!」
男は思わず叫んでしまった。
しかし、後悔した。人を殺した自分にそんな事が言えるだろうか?男はすぐに黙ってしまった。
「お兄さん。スッキリしたいでしょ?」
占い師がそういう。
そのとおりであった。とにかく全てが嫌に感じているのだ。食事も睡眠も運動も人間も何もかも、さらに言えば自分までうっとうしく感じているのだ。
「ああ。そうだよ。全てが苦しいだ。さっき殺しだばかりのはずなんだ。なのに何年も後悔しているかのように感じる。とても後悔しているんだ。そしてそんな事をした自分が気持ち悪くてたまらない。
なあ。どうすればいいんだろうか?」
男は全てをぶちまけた。もうどうなっても良いと感じたからである。
「なるほど。お兄さんあんたの殺人は衝動的なやつだね。それも本当の本当に衝動的な殺人。いやー悲しいもんだね。そんな優しい人が殺人をしてしまうだなんて。僕も辛いもんだ。」
占い師が喋る。
男は優しいという言葉が少し嬉しかった。
そして一人の人間を悲しませていることに対して、とても悲しくなってしまった。
「よし!じゃあお兄さん!」
占い師が勢いを持って話しかけてくる。
「な、なんだい。」
男は返事をする。
「お兄さんはまだ大丈夫だ。お兄さん罪を感じているだろう?」
そう言われて考える?
罪か。確かにまだバツを受けているわけではない。
だって捕まってはいないのだから。
しかし、人を殺したという罪は背負っている。
自分には今、罰は無くとも罪はあるのだ。
男はそう考え答える。
「そうだね。確かに罪があるんだ僕には。」
すると占い師が喋り返す。
「そう。お兄さんは罪をしっかりと背負っている。じゃあ後は何が足らないかわかってるでしょう?」
そう言われてすぐに答えを返した。
「罰だろう。」
すると占い師は笑顔になり答えた。
「正解!」
その笑顔はとても嬉しかった。本当に良い笑顔とはこういうことなんだろうと感じた。
「じゃあお兄さん。どうするんだい?」
そんな事はもう心に決まっていた。
「警察署に行ってくるよ。そこでちゃんと説明してくる。」
すると占い師また笑顔で答える。
「大正解!」
その笑顔のまた嬉しいものだった。
そして男は占い師に見送られながら、警察署に向かった。何をすればよいかはわからないが、とにかく自分の罪を答えるのだ。全てをさらけ出すのだ。
その思いを胸に警察署に向かうのであった。
罪は誰の胸にもあるものである。
そこに対して罰は無くとも、罪は一生ついてまわるものである。
その罪を受け止めるには、罰を受け止めるしかないのだ。
男もまたその一人である。
皆も相談して見てほしい。
もちろん信頼できる人にだ。
そんな人はいないと言う君は、ぜひ占い師を見つけてほしい。
彼は、いつでも君の罪に寄り添ってくれるだろう。
彼を見た人はこう思うだろう。
「ただの青年が歩いている」
しかし、彼はまったくもって普通ではない。
それはなぜが?
彼をもう一度見てみよう。
歩く姿はどこかうつろげで、影をさしている。
目はまったくさだまっておらず、意識はまるでここにないようなものだ。
そう。彼は普通の状態ではないのである。
それはなぜか?
その理由は簡単である。
彼は殺人を犯したのだ。
彼の動機はわかりやすいもので、ただ衝動的に人を刺してしまったのだ。
その相手もまた分かりやすいもの。彼の友人である。
彼は友人との金銭トラブルを起こしてしまった。
そして口論をしたのだ。
その際、彼は衝動的になった。
家の中で口論したものだから、凶器もまた簡単。
包丁である。
彼は台所に赴いて包丁を取り出し、友人を刺したのだ。
本当に衝動であった。
とにかくこの時の彼にとって友人の言葉は不愉快で、目覚ましであるならばすぐに壊したしまいたいと思うようなものであった。
だから刺したのだ。音が無くなると思って。
そして音は収まった。友人の命とともに。
そして彼は正気に戻り思った。
やってしまったと。
人を殺してしまったんだと。
彼は途端に怖くなった。
人を殺したのだ。
他の誰でもない自分がだ。
そして彼はトイレに入り吐いた。
吐けば全てが終わっていると思っているかのほど吐いたのだ。
しかし現実は非情である。
彼が全てを吐き終わった後、リビングに戻るとそこにあるのはただの死体である。
彼はそこでついに涙を流した。そして叫んだ!
「どうしてなんだ!なぜ死んでしまったんだ!」
友人がさも誰かに殺されたかのように彼は叫んだ。
とにかく叫んだのだ!
そうすればなにか起きると信じて。
しかしやはり変わらない。
何も変わりはしないのだ。
そして彼は気づいた。
もう戻らないんだと。
そうなった時、彼はやっと殺人を受け入れ考え出したのだ。
警察に言えばよいのか?しかし警察に言ってしまえば捕まってしまう?家族にはなんて言えばいい?息子が殺人を起こしたなど知りたい親がいるのか?友人はどうすればいい?なにかで隠しとかないといけないのか?
彼はとにかく悩んだ。
悩むことだけが今の彼にできる唯一の答えであった。
そして彼はある結論を考え出した。
(そうだ!逃げよう!とにかく逃げるんだ!)
そう。彼は逃げたのだ。友人から。殺人から。警察から。人生から。
逃げようとしたのだ。
そこからの彼はとても速かった。
まずは血のついた服を着替える。
そして友人の遺体を押し入れに隠す。
そして友人の血を軽くタオルで拭いたあと、彼は外に逃げ出した。
それが今の彼である。
彼は逃げたのだ。しかし、本当には逃げれていないように見える。
それは最初に説明したとおりだ。
意識がまるでここにはない。意識だけは、あの殺人現場に残されているかのようだ。
そんな彼は、とても脆く、壊れてしまいそうであった。
そんな彼に声をかけた男がいた。
「ねえ!そこの兄さん!」
彼は心臓がグッと締め付けられたようであった。
それもそうだ。なんせ、殺人をしてから初めて自分に対してかかる声だったからである。
「な、なんで、でしょうか?」
男はその声に対して答えた。本当はとても怖かった。
その証拠に彼の声は震えていた。
だがそれ以上彼は、無視したことにより、何か疑いをかけられることの方が怖かったのだ。
「大丈夫かいお兄さん?なんだかとても疲れてそうだから、声をかけてしまったよ。なんかあったのかい?」
「え、いや、あの…」
男は固まってしまった。
言葉が出なくなってしまったのである。
それもそうだ。彼がやったのは殺人なんだから。
「うーん。なんかお兄さんつらそうだね。そうだお兄さん!どうだい?占いでのやっていってみないかい?
お兄さんは本当に辛そうだから、お題は無料でいいよ。」
「は、はあ。」
男は悩んだ。占い?そんなもの必要ない!今の自分には逃げることが大切だ!とにかく逃げなければ!
しかし男は悩んだ?本当に良いのだろうか?
もう逃げているのだ?これ以上どこに逃げると言うのだろうか?
ならば少しでもなにか話したほうが気が楽になるんじゃないか?
そして男は結論を出した。
「わ、分かった。分かった。占ってほしい。頼む。」
「よし!いい返事だよお兄さん。じゃあとりあえず座ってよ。ボロい作りで悪いけどさ、占いはちゃんとできるんだから。」
そう言われて見ると、自分の近くにそれらしい机と椅子がおいてある。
言われなければ気づかなかったかも知れない。
それほどまでに、男は考え込んでいたのだ。
「あ、ありがとう。」
そう言って、椅子に座る。
「じゃあよし。とりあえずやっていこうか?お兄さん、まずは僕のやり方について説明するね?」
今の男には雑音にも感じてしまう言葉だが、かろうじてその言葉を聞き取っていく。
「あ、ああ。頼むよ。」
そう返事をした。
「OK。じゃあ僕のやり方なんだけど、まあよくあるタロット占いとか星座占いとは違うんものなんだ。
僕はその人の悩みを聞いて、それについてお客さんと対話をする。そうすることによって、解決方法を探っていくんだ。」
男は少し疑問を感じた。
それは占いなのだろうか?占いとは、なにか形があるものではないのだろうか?
「それは占いなのかい?」
気になった男は質問をすることにした。
「あちゃー。お兄さんにもいわれちゃったかー。」
彼はまるで、小さな嘘がバレてしまったかのように少し息をもらしていた。
「いやー、一応占いのつもりだよ。最近はカウンセリングじゃないのか?なんて言われたりもしたけど違う。だって僕医者じゃないし。僕の場合、ただ対話をしていくって形なだけで、内容は何でも良いんだから。」
何でも。その言葉が男には痛く耳につく。
しかしすぐに思いとどまる。
何を考えているんだ。ここで占ってもらって解決するはずかない。むしろ、自分は逃げたのだ。ここで止まってしまっては意味がないではないか。
だけど男はそこで考えた。
なぜ逃げているのだろう。
とてもシンプルなようでそうじゃない。今の男にはどうしようもない考えが頭に浮かんだ。
「よし!じゃあお兄さん。そろそろ占いを始めようか?」
そんな声が聞こえた。
そうだ。まずは占わなければ。まずはそうしよう。
「分かったよ。じゃあよろしく。」
そう思い男は返事をする。
「よし!分かったよお兄さん。じゃあ何について占ってほしいかな?」
そこで男は考えた。
自分はなんだろうと。
ここまで逃げてはきた。しかし、逃げただけなのだからすぐに捕まるだろう。そしたら終わりじゃない。
まだ先はあるのだ。
刑務所には入るだろう。殺人だから。でも死刑にはなるんだろうか?死刑にならないとすれば、自分はどうなるのだろう?
考えれば考える程、自分の体が重くなっていくのを感じた。
「お兄さん?」
声が聞こえた。そうだ。自分は占いの途中じゃないか。早く答えを出さないと。
そう思った男は咄嗟に声を出した。
「実は友人を殺してしまったんだ。」
その瞬間、彼はしまった!と思った。
考え込みすぎて忘れてしまったのだ。自分は、殺人を犯した。そのことを考えすぎておかしくなってしまったんだと。
しかし、逆に彼はどこか落ち着いたのだ。
そうだ。もういいんだ。別に逃げなくても。だって逃げたってどうせ捕まるんだ。
それなら1度誰かに話せた方が楽になれるだろう。
男はそう考え、占い師の言葉を待った。
「なるほど。お兄さんは殺人をしてしまったんだね。」
男はその言葉を聞いて変に感じた?
なぜだ。なぜこの占い師は驚かない?俺は人をころしたんだぞ!最悪の事をしたんだ!
なのになぜ彼は平気そうに(殺人)という言葉を喋っているんだ。
男は気持ち悪く感じた。
「お兄さん。」
そんな彼に対して占い師は話しかける。
「お兄さん。どうやらお兄さんは、殺人を後悔してるみたいだね。それも初犯に見える。」
そう占い師が言っていきた。
男は震えた。自分に対して普通に話しかけてくるだけにあきたらず、なんとこの占い師は後悔している事も見破っているではないか!しかも初犯だとも言っている。
そんな驚きを隠せぬ男に占い師が話す。
「お兄さん。殺人ってどう考えてる?」
殺人を考える?どういうことだろうか?
「ど、どういうことだい?」
男は聞き返す。
「そのままの意味さ。殺人ってなんだろうねってこと。お兄さんは人を殺していいと思う?」
占い師が言ってくる。
「そんなわけがない!」
男は思わず叫んでしまった。
しかし、後悔した。人を殺した自分にそんな事が言えるだろうか?男はすぐに黙ってしまった。
「お兄さん。スッキリしたいでしょ?」
占い師がそういう。
そのとおりであった。とにかく全てが嫌に感じているのだ。食事も睡眠も運動も人間も何もかも、さらに言えば自分までうっとうしく感じているのだ。
「ああ。そうだよ。全てが苦しいだ。さっき殺しだばかりのはずなんだ。なのに何年も後悔しているかのように感じる。とても後悔しているんだ。そしてそんな事をした自分が気持ち悪くてたまらない。
なあ。どうすればいいんだろうか?」
男は全てをぶちまけた。もうどうなっても良いと感じたからである。
「なるほど。お兄さんあんたの殺人は衝動的なやつだね。それも本当の本当に衝動的な殺人。いやー悲しいもんだね。そんな優しい人が殺人をしてしまうだなんて。僕も辛いもんだ。」
占い師が喋る。
男は優しいという言葉が少し嬉しかった。
そして一人の人間を悲しませていることに対して、とても悲しくなってしまった。
「よし!じゃあお兄さん!」
占い師が勢いを持って話しかけてくる。
「な、なんだい。」
男は返事をする。
「お兄さんはまだ大丈夫だ。お兄さん罪を感じているだろう?」
そう言われて考える?
罪か。確かにまだバツを受けているわけではない。
だって捕まってはいないのだから。
しかし、人を殺したという罪は背負っている。
自分には今、罰は無くとも罪はあるのだ。
男はそう考え答える。
「そうだね。確かに罪があるんだ僕には。」
すると占い師が喋り返す。
「そう。お兄さんは罪をしっかりと背負っている。じゃあ後は何が足らないかわかってるでしょう?」
そう言われてすぐに答えを返した。
「罰だろう。」
すると占い師は笑顔になり答えた。
「正解!」
その笑顔はとても嬉しかった。本当に良い笑顔とはこういうことなんだろうと感じた。
「じゃあお兄さん。どうするんだい?」
そんな事はもう心に決まっていた。
「警察署に行ってくるよ。そこでちゃんと説明してくる。」
すると占い師また笑顔で答える。
「大正解!」
その笑顔のまた嬉しいものだった。
そして男は占い師に見送られながら、警察署に向かった。何をすればよいかはわからないが、とにかく自分の罪を答えるのだ。全てをさらけ出すのだ。
その思いを胸に警察署に向かうのであった。
罪は誰の胸にもあるものである。
そこに対して罰は無くとも、罪は一生ついてまわるものである。
その罪を受け止めるには、罰を受け止めるしかないのだ。
男もまたその一人である。
皆も相談して見てほしい。
もちろん信頼できる人にだ。
そんな人はいないと言う君は、ぜひ占い師を見つけてほしい。
彼は、いつでも君の罪に寄り添ってくれるだろう。
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