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第13章 暗躍
第187話 対策会議
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「折角ですから、今日は泊まって行かれますか?」
話が済んで帰ろうとする一行に、ヴィゴールが声をかけた。
顔を見合わせて相談したあと、ウィルセアが首を横に振った。
「いえ、今日は帰りますわ。明日も朝から執務がありますので」
「そうか。大変だな」
「大変なのはエミリスさんですわ。いつもすみません」
それを聞いてエミリスが答えた。
「もう慣れましたから、それほど疲れませんよ」
「それはそれは。馬車に乗らずともすぐに移動できるのは羨ましい限りです。エミリスさん以外には無理な芸当ですね」
正直にヴィゴールはそう話した。
実際にはエミリスの他に、その父のワイヤードも飛べることを知っていたが、その存在は隠されていた。
「初めて運んでもらった時は感動しました。少し怖かったですけれど」
「ですかね。アティアス様の他にはウィルセアさんだけですよ、まだ……」
エミリスが飛べることを知っている者も少ないうえ、更に彼女と一緒に飛んだことがあるのは、ここのふたりに限られていた。
それ、緊急事態でも起こらない限り、これからも変わらないだろう。
「それでは失礼します。またお会いしましょう」
「ええ、いつでもお越しください」
アティアスはヴィゴールと握手してから、他のふたりと共に執務室を出た。
とはいえ、これほど明るいうちに、人目のあるところで飛ぶわけにもいかない。
街から離れるまでは歩いていくしかない。
街の中心部を歩いているときに、ふとウィルセアが呟いた。
「そうですわ。確かこの辺りに美味しい焼き菓子の店があったはず……」
「――お菓子⁉︎」
すかさずピクッと耳を立ててエミリスが反応する。
「ええ、いろんな種類がありますし、お土産に買って帰るというのは……」
「賛成ですっ! アティアス様、構いませんよね⁉︎」
「……お菓子くらいなら好きにしろ」
「ありがとうございますっ!」
アティアスの許可を得たエミリスは、「早く早く」とウィルセアに先導してもらって店へと急いだ。
◆
ちょうど日が暮れた頃、3人はウメーユに帰ってきた。
周りが暗くなっていたこともあって、直接自宅の庭に降り立つことにした。
「はい、お疲れさまでした。とりあえずお風呂で汗を流しましょう」
「そうですわね。準備してきますわ」
エミリスに同意したウィルセアは、すぐに荷物を置いて準備に向かった。
残されたふたりはゆっくりと自宅に入る。
「……それにしても、店の前で何個も食べて、更にこれだけ買って帰るってのはどうなんだ?」
アティアスは持たされている焼き菓子の袋を持ち上げて、呆れた顔を見せた。
「えー、美味しかったので、つい……」
「エミーの場合、大抵のお菓子は美味しいだろ?」
「そんなことないですよ。1割くらいは美味しくないものもありますから」
「……たったそれだけかよ」
頭を掻きながらアティアスは笑う。
これほど美味しい料理を作るエミリスも、甘味のハードルは低い。
それはアティアスと出会うまで、ほとんどそういったものを食べてこなかったこともあるのだろう。
だから基本的に、甘ければなんでも美味しくいただけてしまう。特に、チョコ味のものは大好物だった。
「ふふ、無駄にならずに済みますよね。お風呂の後にお茶淹れますから、ゆっくり味わいましょう」
◆
――翌日。
昨日午後を空けたこともあって、代わってもらっていたナターシャとノードに話を聞いていた。
「とりあえず、不審な話は聞いていないわ。ただ、観光客が少し増えてきたみたいね」
「そうか。去年俺たちが来たのも収穫祭の頃だったけど、確かに観光客は多かったな」
ナターシャの報告に、アティアスは去年のことを思い出す。
そのときは祭りがあることを知らずに来たのだが、ちょうど葡萄が最盛期を迎えていた。
「ウメーユのこの時期は、もともと名物の葡萄を目当てに来られる方が増えます。今から収穫祭までずっと滞在する方はそれほど多くないと思いますわ」
「そうなのか。確かに葡萄を食べるだけで美味しいからな」
ウィルセアの説明にアティアスも頷く。
夏の暑さが過ぎて、旅をするのにも丁度良いのだろう。この時期は人の交流が活発になる傾向があった。
「もちろん、人が増えることを目当てにして、冒険者も増える傾向にあります。依頼も増えますからね」
「確かに……。一度ギルドの様子を見に行ってみるのも良いか」
それを聞いていたノードが軽い調子で答えた。
「なら俺が見てこようか?」
「……そうだな。頼む」
「散歩ついでさ。ナターシャはどうする?」
「せっかくだから私も行くわ」
ナターシャも頷く。
それを見てからアティアスは言った。
「次は俺からの情報だな。今年の収穫祭にはマッキンゼ子爵が来てくれる。あと……ダリアン侯爵とその息子のジェインとやらもな。この街にそんな面々が集まることは、そうそうない。……何か起こるかもしれないから、気をつけていて欲しい」
「……まじか。ダリアンって言えば、あんま良い噂は聞かないぜ」
アティアスが知っている情報を伝えると、ノードが嫌そうな顔をする。
正直、他の貴族が来るのは面倒ごとが増えるので、好ましいとは思えなかった。
もちろん、馴染みのある人であれば問題はないのだが、初めて顔を合わすダリアンなど、扱いに困る。
「ああ。以前ノードとはダリアン領にも行ったな。あそこは魔導士より騎士が強い街だったな」
「魔導士が少ないぶん、投石とかボウガン、弓矢の部隊とか、装備は充実していたな」
その時に見てきた記憶を辿る。
領地の規模が大きい分、軍も大規模だった記憶があった。
ゼバーシュ程度ならあっという間に蹴散らされるかもしれない。
「ダリアン侯爵の対応はヴィゴール殿に倣おう。俺たちは経験が少なすぎる」
せっかくウィルセアの為に来てくれるのだから。
話が済んで帰ろうとする一行に、ヴィゴールが声をかけた。
顔を見合わせて相談したあと、ウィルセアが首を横に振った。
「いえ、今日は帰りますわ。明日も朝から執務がありますので」
「そうか。大変だな」
「大変なのはエミリスさんですわ。いつもすみません」
それを聞いてエミリスが答えた。
「もう慣れましたから、それほど疲れませんよ」
「それはそれは。馬車に乗らずともすぐに移動できるのは羨ましい限りです。エミリスさん以外には無理な芸当ですね」
正直にヴィゴールはそう話した。
実際にはエミリスの他に、その父のワイヤードも飛べることを知っていたが、その存在は隠されていた。
「初めて運んでもらった時は感動しました。少し怖かったですけれど」
「ですかね。アティアス様の他にはウィルセアさんだけですよ、まだ……」
エミリスが飛べることを知っている者も少ないうえ、更に彼女と一緒に飛んだことがあるのは、ここのふたりに限られていた。
それ、緊急事態でも起こらない限り、これからも変わらないだろう。
「それでは失礼します。またお会いしましょう」
「ええ、いつでもお越しください」
アティアスはヴィゴールと握手してから、他のふたりと共に執務室を出た。
とはいえ、これほど明るいうちに、人目のあるところで飛ぶわけにもいかない。
街から離れるまでは歩いていくしかない。
街の中心部を歩いているときに、ふとウィルセアが呟いた。
「そうですわ。確かこの辺りに美味しい焼き菓子の店があったはず……」
「――お菓子⁉︎」
すかさずピクッと耳を立ててエミリスが反応する。
「ええ、いろんな種類がありますし、お土産に買って帰るというのは……」
「賛成ですっ! アティアス様、構いませんよね⁉︎」
「……お菓子くらいなら好きにしろ」
「ありがとうございますっ!」
アティアスの許可を得たエミリスは、「早く早く」とウィルセアに先導してもらって店へと急いだ。
◆
ちょうど日が暮れた頃、3人はウメーユに帰ってきた。
周りが暗くなっていたこともあって、直接自宅の庭に降り立つことにした。
「はい、お疲れさまでした。とりあえずお風呂で汗を流しましょう」
「そうですわね。準備してきますわ」
エミリスに同意したウィルセアは、すぐに荷物を置いて準備に向かった。
残されたふたりはゆっくりと自宅に入る。
「……それにしても、店の前で何個も食べて、更にこれだけ買って帰るってのはどうなんだ?」
アティアスは持たされている焼き菓子の袋を持ち上げて、呆れた顔を見せた。
「えー、美味しかったので、つい……」
「エミーの場合、大抵のお菓子は美味しいだろ?」
「そんなことないですよ。1割くらいは美味しくないものもありますから」
「……たったそれだけかよ」
頭を掻きながらアティアスは笑う。
これほど美味しい料理を作るエミリスも、甘味のハードルは低い。
それはアティアスと出会うまで、ほとんどそういったものを食べてこなかったこともあるのだろう。
だから基本的に、甘ければなんでも美味しくいただけてしまう。特に、チョコ味のものは大好物だった。
「ふふ、無駄にならずに済みますよね。お風呂の後にお茶淹れますから、ゆっくり味わいましょう」
◆
――翌日。
昨日午後を空けたこともあって、代わってもらっていたナターシャとノードに話を聞いていた。
「とりあえず、不審な話は聞いていないわ。ただ、観光客が少し増えてきたみたいね」
「そうか。去年俺たちが来たのも収穫祭の頃だったけど、確かに観光客は多かったな」
ナターシャの報告に、アティアスは去年のことを思い出す。
そのときは祭りがあることを知らずに来たのだが、ちょうど葡萄が最盛期を迎えていた。
「ウメーユのこの時期は、もともと名物の葡萄を目当てに来られる方が増えます。今から収穫祭までずっと滞在する方はそれほど多くないと思いますわ」
「そうなのか。確かに葡萄を食べるだけで美味しいからな」
ウィルセアの説明にアティアスも頷く。
夏の暑さが過ぎて、旅をするのにも丁度良いのだろう。この時期は人の交流が活発になる傾向があった。
「もちろん、人が増えることを目当てにして、冒険者も増える傾向にあります。依頼も増えますからね」
「確かに……。一度ギルドの様子を見に行ってみるのも良いか」
それを聞いていたノードが軽い調子で答えた。
「なら俺が見てこようか?」
「……そうだな。頼む」
「散歩ついでさ。ナターシャはどうする?」
「せっかくだから私も行くわ」
ナターシャも頷く。
それを見てからアティアスは言った。
「次は俺からの情報だな。今年の収穫祭にはマッキンゼ子爵が来てくれる。あと……ダリアン侯爵とその息子のジェインとやらもな。この街にそんな面々が集まることは、そうそうない。……何か起こるかもしれないから、気をつけていて欲しい」
「……まじか。ダリアンって言えば、あんま良い噂は聞かないぜ」
アティアスが知っている情報を伝えると、ノードが嫌そうな顔をする。
正直、他の貴族が来るのは面倒ごとが増えるので、好ましいとは思えなかった。
もちろん、馴染みのある人であれば問題はないのだが、初めて顔を合わすダリアンなど、扱いに困る。
「ああ。以前ノードとはダリアン領にも行ったな。あそこは魔導士より騎士が強い街だったな」
「魔導士が少ないぶん、投石とかボウガン、弓矢の部隊とか、装備は充実していたな」
その時に見てきた記憶を辿る。
領地の規模が大きい分、軍も大規模だった記憶があった。
ゼバーシュ程度ならあっという間に蹴散らされるかもしれない。
「ダリアン侯爵の対応はヴィゴール殿に倣おう。俺たちは経験が少なすぎる」
せっかくウィルセアの為に来てくれるのだから。
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