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第13章 暗躍
第188話 収穫祭1週間前
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そして、収穫祭まであと1週間に迫った日。
トーレスとミリーがウメーユに戻ってきた。
アティアスは執務室でエミリスと共に出迎える。
ちょうどウィルセアは祭りが近いこともあって、オースチン達と街の警備の確認に出掛けていた。
「やあ、アティアス。どうだい?」
「久しぶりだな。こっちは今のところ特に何もないよ。ゼバーシュの方はどうだ?」
「ゼバーシュの方も今の動きは何もないと思うよ。……それで、頼まれていた仕事だけど」
トーレスは依頼されていた仕事の報告を早速始めた。
「ああ、どんな調子だ?」
「目立たない範囲で当たってみたけど、アティアスが言っていた魔法石とやらを知っている冒険者はいなかったな。それとなく顔見知りの兵士にも聞いてみたが、少なくとも一般兵士には広まってないみたいだ」
「そうなのか……」
開発したセリーナを始めとして、ゼルム家の者は全員、魔法石について知っているはずだ。
広まらないように管理されていると聞いていたが、どの階層まで伝わっているのかは知らなかった。
ただ、トーレスの話からすれば、ほぼ上層部に限られるのではないかと想像できた。
「だから、もし魔法石を持っている者がいるとしたら、かなり高位の魔導士だと思うよ」
「わかった。とりあえず、そこまでわかれば助かるよ。次は、マッキンゼ領での調査をしてもらいたいんだけど、頼めるか?」
「もちろん、構わないよ。どの辺が希望だい?」
ゼバーシュで広まっていないのであれば、他に考えられるのはマッキンゼ領からの流出だろう。
特にダライなどでは、多くの兵士がファモスの指揮の元で魔法石を扱った経験がある。
現在はゼバーシュとの友誼で魔法石を普段使いしない方針ではあるが、末端まで指示が行き届いているかには調査の余地があった。
「気になるのは隣のルコルアと、その向こうのダライだ。どちらも、前に奴隷商の息のかかった者がいたからな」
「ふむ。わかったよ。ミリーも良いかい?」
「いいわよ。旅行のつもりで行ってくるから」
それまで黙っていたミリーが頷く。
日焼けした肌が健康的で、今日ウメーユに到着した割に元気そうだ。
むしろトーレスの方が少し疲れているようにすら見える。
「今日はこの町に泊まって、明日出発するよ。マドン山脈を越えるのにちょっと疲れたからね」
「ああ、そうしてくれ」
「トーレスは体力ないもんね。『あー、疲れた』って何回も聞いたもん」
そうミリーが揶揄った。
トーレスは苦笑いを浮かべながら返す。
「ミリーが元気すぎるんだよ。普通は疲れるもんだ」
「そう? トーレスももっと運動しないと。アティアスみたいに剣も練習したら?」
「私はいいよ。とても剣士なんてできないよ」
「別に剣士になれって言ってるワケじゃなくって、練習するだけでも体力つくからね。あたしが教えてあげるから」
「えー……」
トーレスが嫌そうな顔をする。
それを見てエミリスが笑った。
「大丈夫ですよ。運動したこともない私が剣を教わってたくらいですからね」
「確かにそうかもしれないが……」
「ほらほら、観念して。明日から毎日2時間は練習するよ」
「やめてくれ、頼む……」
どうあっても剣を教えたいミリーを必死で否定するが、アティアスは『逃げきれなさそうだな……』と心の中で思った。
そのとき、エミリスが顔を上げた。
「あ、ウィルセアさんが戻ってきたみたいですね」
そして、しばらくして執務室の扉がノックされ、ウィルセアが顔を出した。
彼女の探知能力にトーレスも『ほう……』と感嘆する。
「エミーはそういうのもわかるのか……」
「ええ。この砦の近くなら、どこにどれだけの人がいるか、全員わかりますよ」
「それはすごいな……。どうやってるんだ?」
そこまでとは思っていなかったトーレスは素直に疑問を口にした。
「この辺り全部に、うすーく魔力を出し続けてます。そうすると、人って動きますから、それが伝わってくるんです。全く動かない……例えば死んでる人とかはわからないですけどね」
「薄くって言っても、それだけの広さになったら相当だろう?」
「慣れるまでは疲れましたけど、今は大丈夫ですね。それに、いつも監視してないと怖いので……」
今まで何度も危ないことがあって、それ故に常時周りの状況をチェックしていないと不安だった。
普段はそんな素振りも見せず、優雅にソファでくつろいでいるようにも見えるエミリスだが、常にボディガードとしての役割は果たしていた。例えアティアスの近くに居なくとも、その領域から離れることは決してない。
……酔って寝ているときを除いては。
それまで話を聞いていたウィルセアが挨拶をする。
「確かトーレスさんとミリーさんですね。お久しぶりですわ」
「ウィルセア嬢、こんにちは。祭りが近くて忙しいようですね」
「ええ。あと数日すれば私の父も来ますし、警備が大変ですから。……エミリスさんの近くにいれば安心なんですけど」
どんな要塞に篭ろうが、それ以上にエミリスの側の方が安全だとウィルセアも確信していた。
なにしろ、爆弾だろうが魔法だろうが、ほとんど彼女が防いでくれる。
しかも、積極的に攻撃したりはしないものの、その気になればあっという間に街をひとつ消し去れると豪語しているのだ。
ウィルセアは話に聞いただけで、彼女の本気を見たことはない。しかし、普段一緒に生活していて、それは本当なのだろうと肌で感じていた。
(でも、すごく優しいんですよね……)
基本的にエミリスはいつも穏和でゆったりとしていて。
たぶん、それだけの力があっても、行使するのは好まないのだろう。
「ほんと、アティアスっていい子見つけたわよね……」
ポツリとミリーが呟いた言葉に、ウィルセアも心の中で頷いた。
ライバルではあるものの、勝ち目がないことも承知のうえで。
トーレスとミリーがウメーユに戻ってきた。
アティアスは執務室でエミリスと共に出迎える。
ちょうどウィルセアは祭りが近いこともあって、オースチン達と街の警備の確認に出掛けていた。
「やあ、アティアス。どうだい?」
「久しぶりだな。こっちは今のところ特に何もないよ。ゼバーシュの方はどうだ?」
「ゼバーシュの方も今の動きは何もないと思うよ。……それで、頼まれていた仕事だけど」
トーレスは依頼されていた仕事の報告を早速始めた。
「ああ、どんな調子だ?」
「目立たない範囲で当たってみたけど、アティアスが言っていた魔法石とやらを知っている冒険者はいなかったな。それとなく顔見知りの兵士にも聞いてみたが、少なくとも一般兵士には広まってないみたいだ」
「そうなのか……」
開発したセリーナを始めとして、ゼルム家の者は全員、魔法石について知っているはずだ。
広まらないように管理されていると聞いていたが、どの階層まで伝わっているのかは知らなかった。
ただ、トーレスの話からすれば、ほぼ上層部に限られるのではないかと想像できた。
「だから、もし魔法石を持っている者がいるとしたら、かなり高位の魔導士だと思うよ」
「わかった。とりあえず、そこまでわかれば助かるよ。次は、マッキンゼ領での調査をしてもらいたいんだけど、頼めるか?」
「もちろん、構わないよ。どの辺が希望だい?」
ゼバーシュで広まっていないのであれば、他に考えられるのはマッキンゼ領からの流出だろう。
特にダライなどでは、多くの兵士がファモスの指揮の元で魔法石を扱った経験がある。
現在はゼバーシュとの友誼で魔法石を普段使いしない方針ではあるが、末端まで指示が行き届いているかには調査の余地があった。
「気になるのは隣のルコルアと、その向こうのダライだ。どちらも、前に奴隷商の息のかかった者がいたからな」
「ふむ。わかったよ。ミリーも良いかい?」
「いいわよ。旅行のつもりで行ってくるから」
それまで黙っていたミリーが頷く。
日焼けした肌が健康的で、今日ウメーユに到着した割に元気そうだ。
むしろトーレスの方が少し疲れているようにすら見える。
「今日はこの町に泊まって、明日出発するよ。マドン山脈を越えるのにちょっと疲れたからね」
「ああ、そうしてくれ」
「トーレスは体力ないもんね。『あー、疲れた』って何回も聞いたもん」
そうミリーが揶揄った。
トーレスは苦笑いを浮かべながら返す。
「ミリーが元気すぎるんだよ。普通は疲れるもんだ」
「そう? トーレスももっと運動しないと。アティアスみたいに剣も練習したら?」
「私はいいよ。とても剣士なんてできないよ」
「別に剣士になれって言ってるワケじゃなくって、練習するだけでも体力つくからね。あたしが教えてあげるから」
「えー……」
トーレスが嫌そうな顔をする。
それを見てエミリスが笑った。
「大丈夫ですよ。運動したこともない私が剣を教わってたくらいですからね」
「確かにそうかもしれないが……」
「ほらほら、観念して。明日から毎日2時間は練習するよ」
「やめてくれ、頼む……」
どうあっても剣を教えたいミリーを必死で否定するが、アティアスは『逃げきれなさそうだな……』と心の中で思った。
そのとき、エミリスが顔を上げた。
「あ、ウィルセアさんが戻ってきたみたいですね」
そして、しばらくして執務室の扉がノックされ、ウィルセアが顔を出した。
彼女の探知能力にトーレスも『ほう……』と感嘆する。
「エミーはそういうのもわかるのか……」
「ええ。この砦の近くなら、どこにどれだけの人がいるか、全員わかりますよ」
「それはすごいな……。どうやってるんだ?」
そこまでとは思っていなかったトーレスは素直に疑問を口にした。
「この辺り全部に、うすーく魔力を出し続けてます。そうすると、人って動きますから、それが伝わってくるんです。全く動かない……例えば死んでる人とかはわからないですけどね」
「薄くって言っても、それだけの広さになったら相当だろう?」
「慣れるまでは疲れましたけど、今は大丈夫ですね。それに、いつも監視してないと怖いので……」
今まで何度も危ないことがあって、それ故に常時周りの状況をチェックしていないと不安だった。
普段はそんな素振りも見せず、優雅にソファでくつろいでいるようにも見えるエミリスだが、常にボディガードとしての役割は果たしていた。例えアティアスの近くに居なくとも、その領域から離れることは決してない。
……酔って寝ているときを除いては。
それまで話を聞いていたウィルセアが挨拶をする。
「確かトーレスさんとミリーさんですね。お久しぶりですわ」
「ウィルセア嬢、こんにちは。祭りが近くて忙しいようですね」
「ええ。あと数日すれば私の父も来ますし、警備が大変ですから。……エミリスさんの近くにいれば安心なんですけど」
どんな要塞に篭ろうが、それ以上にエミリスの側の方が安全だとウィルセアも確信していた。
なにしろ、爆弾だろうが魔法だろうが、ほとんど彼女が防いでくれる。
しかも、積極的に攻撃したりはしないものの、その気になればあっという間に街をひとつ消し去れると豪語しているのだ。
ウィルセアは話に聞いただけで、彼女の本気を見たことはない。しかし、普段一緒に生活していて、それは本当なのだろうと肌で感じていた。
(でも、すごく優しいんですよね……)
基本的にエミリスはいつも穏和でゆったりとしていて。
たぶん、それだけの力があっても、行使するのは好まないのだろう。
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ポツリとミリーが呟いた言葉に、ウィルセアも心の中で頷いた。
ライバルではあるものの、勝ち目がないことも承知のうえで。
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