身寄りのない少女を引き取ったら有能すぎて困る(困らない)

長根 志遥

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第14章 羨望

第206話 私はポチじゃないですー

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「……くくく」

 カノーザはしばらくエミリスを睨んでいたが、突然笑い始めた。
 アティアスは怪訝な顔でそれを見ていた。

(……諦めたか? それとも何か……)

 作戦でもあるのか。
 それは理解できなかった。
 カノーザはひとしきり笑ったあと、口を開く。

「確かに以前ファモス様に仕えていた私だが、今回私が何かしたという証拠はあるのか?」
「……う」

 カノーザの言い分に、それまで鼻息荒く胸を張っていたエミリスは声を詰まらせた。

「で、でも……昨日の犬は貴方しかっ!」
「犬? なんのことかわからんが、私の研究のことを指しているなら、それは残念だったな。私には多くの弟子がいる。……不運にも貴様に研究所を潰されたせいで、みんなバラバラになったが、いずれもそのくらいのことはできる」

 急に饒舌に語り始めたカノーザは、得意げに口角を上げる。

「ぐ……。それも含めて聞き出してあげましょう……!」

 そう言ったエミリスだが、後ろからアティアスに襟首を掴まれて、ピクッと首をすくめた。

「まぁ待て。確かにこの男の言うこともその通りだ。流石に証拠もなく尋問するわけにもいかんだろ」
「で、でもっ!」
「エミー、やめとけ」
「……ふにゅう」

 アティアスに嗜められて、エミリスはがっかりと肩を落とす。
 そして、すごすごと彼の後ろに下がった。

 アティアスは立ち会ってもらっていたレギウスに耳打ちして話をすると、ひとつ頷いたレギウスが口を開く。

「カノーザだったか? 確かに今回はなんの証拠もない。よって不問とする。とはいえ、疑いが晴れたわけでもない。すまないが、しばらくは監視が厳しくなると思っていてくれ」
「……はっ」

 カノーザはレギウスに一礼したあと、ちらっとエミリスに目を配らせる。
 勝ち誇るようなその表情に、エミリスは顔色を変えないにしても、内心では忌々しく思っていた。

 ◆

「むー、あとちょっとだったのにー」

 レギウスと別れたあと、城の廊下を歩いていたとき、それまで黙っていたエミリスがむすっとした顔をした。

「その気持ちはわかるけどな。……俺だってほぼアイツが黒だって思ってるよ」
「うー、尋問さえできれば、全部吐かせて差し上げるのに……!」

 地団駄を踏むエミリスの頭にポンポンと手を乗せてから、アティアスは答える。

「ほらほら、ちょっと我慢するだけだって。お預け」
「……むむ。私はポチじゃないですー」
「そりゃそうだけど、前に番犬って言ってたじゃないか、自分で」

 彼にそう言われて、はっと気づいたエミリスは、表情を和らげる。

「……そうでしたね。出過ぎたことを。先走ってしまい申し訳ありません」
「別に良いって。さっきも言った通り、ほぼ黒だからな。アイツを雇ったのがトリックス兄さんってことなんだから、次はそっちに話を聞くさ」
「はい、承知しました」

 アティアスが手を戻そうとすると、エミリスはそれを手で掴んで、無理矢理自分の頭を撫でさせる。
 苦笑いする彼は、仕方ないとそれを受け入れて、わしゃわしゃと頭を撫でた。

 ウィルセアはそれを後ろから羨ましそうに眺めていた。

 ◆

「アティアスじゃないか、どうしたんだ。急に……」

 魔導士隊の隊長であるトリックスの私室――研究室でもある――を訪問した3人に、彼が声をかけた。
 部屋にはトリックスのほか、セリーナもいて、席から立って軽く一礼をする。

「いや、ゼバーシュに寄ったからね。ついでだよ」
「そうか。散らかっているけど、まぁ座ってくれ」
「ああ」

 トリックスに促されて、普段から魔導士隊の隊員が来た時に使うものだろうか、アティアス達は近くに置かれた椅子に腰掛けた。

「最近はどうだ? 忙しいんじゃないか?」
「そうだな。でも、ようやく収穫祭が終わって一息ついたところだよ」

 トリックスに聞かれて、アティアスは近況を伝えた。
 『収穫祭』の言葉にセリーナが反応する。

「今年の収穫祭は、ヴィゴール様が参加される……と聞きましたけど?」
「ええ、お父様には来ていただきましたよ。他にはダリアン侯爵も……」

 ウィルセアの返答に、セリーナとトリックスは驚いて、一瞬目を見開いた。
 トリックスが聞き返す。

「ダリアン侯爵が? 珍しいな……」
「ああ、俺も驚いたよ。まぁ特に何もなく終わったけどな」
「そうか……」

 アティアスはこのタイミングで続けて聞いた。

「……そのダリアン侯爵だが、どこからか魔法石を手に入れていてな。詳しくはわからないが、こことマッキンゼ以外にも、漏れている可能性がある。……他にそんな話は聞かないか?」

 その話にトリックスはしばらく考え込んでから、口を開く。

「いや……。魔法石は厳重に管理している。そう簡単に漏れることはないはずだ。……どうだ、セリーナ?」
「ええ。ゼバーシュでは、この街の魔導士隊以外には配布していません。……とはいえ、ミニーブルで初期に作ったものは、かなりの数が出てますから、それは管理できてない可能性が高いです」

 そこまではアティアスも知っている情報だった。

「そうか。気をつけてくれ。……あと、研究の方はどうだ? 魔法石の性能を上げたりとかには取り組んでないのか?」
「……あれは危険すぎるからな。今は慎重にやってるよ。ドーファン先生がやってたろ? 魔力を出し入れできる石の研究。その研究を引き継いで、もっと効率よくならないかなって。うまくいってないが……」

 頭を掻きながら、トリックスはそう苦笑いした。
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