身寄りのない少女を引き取ったら有能すぎて困る(困らない)

長根 志遥

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第14章 羨望

第208話 もう次はありませんよ?

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「そんなことが……」

 アティアスの話を聞いて、トリックスは顔に手を当て考え込む。
 その様子を見ながら、しばらく無言の時間が流れた。

 そして、トリックスはかぶりを振りながら、真剣な顔でセリーナに顔を向けた。

「……セリーナ。今の話、どう思う? あの魔法石のことは、実験に立ち会った者以外は知らないはずだ。カノーザが持っている筈がない」
「…………」

 しかし、セリーナは何も答えず黙ったままだった。

「……まさか。……違うよな? 何か答えてくれ」

 トリックスは確信めいた考えを、自ら否定するように首を振った。

 ――それは同時だった。

 セリーナがローブの懐に手を突っ込んだことと、エミリスが一歩踏み出したことが。

「このっ!!」

 ――ドオオオン!!

 セリーナが一声上げると同時に、周囲に耳をつんざくような爆音が響き渡る。

 ガラガラ……!

 一瞬遅れて、建物が崩れる音と共に、天井から瓦礫が落ちてくるのを見て、アティアスは咄嗟に頭を庇った。

 以前、ダライの砦で爆弾によって生き埋めにされたことがあったが、それに近い威力の爆裂魔法に感じた。
 しかし、今回はその瓦礫が自分に落ちてくることはなく。
 代わりに落ち着いた声が響く。

「……前と同じですね。どんな魔法でも私に効かないことくらい、少しは学習すれば良いのに」

 呆れたようでもあり、達観したようでもあるエミリスの声。
 崩れかけた天井は途中で静止していて、恐らく彼女が魔力で支えているのだろうと思えた。
 
「……嘘でしょ……」

 セリーナは周囲を見渡して呆然としていた。
 その近くには蹲るようにトリックスがいて、怪我はなさそうに見える。
 一方のアティアス達もエミリスに護られていたのか、何も被害は無さそうだった。

「……何故……? 俺への恨みか?」

 アティアスがセリーナに向かって問う。
 それを顔色を変えないままで聞きながら、エミリスは以前と同じことがあったなと、懐かしむ。

「……いえ。それは違うわ。……ただあなた達が邪魔だっただけ」

 苦虫を噛み潰したような表情で、セリーナが答えるが、アティアスには何のことかわからなかった。

「邪魔? 別にセリーナの邪魔をしたつもりはないが……」
「あなたにはわからないわ。……父が領主になれなくて……ウィルセア、あなたの世話をさせられていて。ここでも次の伯爵はトリックスの兄って決まっている。……これだけの力があるのに、いつも負け犬の私の気持ちなんてね」

 吐き捨てるように言うセリーナの言葉に、ウィルセアが息を飲む。

「……今ならここの全員を殺すくらい簡単。ただ、それをすると間違いなくあなたが出てくる。だから先に――」
「始末しておこうと。……そういうことですか?」

 セリーナの声を遮るように、エミリスが聞く。
 顔は無表情なままだが、声が一段低くなり、それが静かに響き渡った。

「ええ……! さっきのを防がれるとは思わなかったけど、今はあなたもかなり魔力を消費してるはず。まだまだ石はあるのよ」
「ふふ、なら……試してみればどうでしょうか? 私が受けて立ちましょう。……どこからでもどうぞ」

 その余裕に、セリーナが息を飲む音が聞こえる。
 それを振り払うようにして、改めて懐に手を入れ――

 ――グシャ。

「――ああああっ!!」

 しかし、その前にセリーナの手から血が吹き出して、痛みに叫び声を上げた。
 その様子を見ながら、エミリスは僅かに口角を上げる。

「……ああ、言い忘れてましたけど、私が何もしないとは一言も言ってませんので」

 蹲って必死で治癒魔法をかけるセリーナを見下ろしながら、エミリスはゆっくり一歩ずつ近づく。

「……ま、待ってくれ」

 それを防ぐかのように、トリックスがその間に立ち、エミリスに向かい合った。

「……待ちません。アティアス様に危害を加えようとする人は誰であれ、相応の報いを受けてもらいます。……これも、以前セリーナさんにはお話したはずですが」
「なら……先に俺を。セリーナのしたことには、俺にも責任がある」

 それを聞いて、エミリスは初めて表情を崩し、困ったような顔を見せた。

「……うーん、困りました。それをすると、後でアティアス様に怒られそうな気がすっごくするんですよね。……だから、どいて貰えるとありがたいのですが?」
「ダメだ。セリーナには俺から言い聞かせる。罰も受けさせる。たから……頼む。――アティアスからも話してくれ!」

 トリックスの懇願するような声に、エミリスは「ふぅ……」と一息ついた。

「……エミー、殺すのは……」

 彼女の後ろから声を掛けたアティアスを振り返って、エミリスは呆れたような声で答えた。

「はぁ……。アティアス様は、ほんとーにお優しすぎます。……まぁ、そんなところが好きなんですけどね」

 そして、もう一度トリックスを挟んだまま、目を細めてセリーナに語りかける。

「……セリーナさん、どうします? これで2度目です。もう次はありませんよ? ――その時は、トリックスさんも含めて皆殺しにしますからね?」

 自らを治癒をし終えたセリーナは、エミリスを見上げながら無言を貫いた。

 ◆

 あけましておめでとうございます。
 更新ペースが上がっておりませんが、気長にお待ちくださると助かります。
 今のエピソードは、まだもうしばらく続く予定です。
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